八.
「蓮」
呼び掛けられ、少年はその玲瓏の瞳を向けた。
操はそれを、しばし受け止める。
「そなたは閨中にて天上の夢を見せると云う。予はそれを所望だ」
蓮は何を言われているのか、咄嗟には解らなかったようだ。
やがて黒燿の瞳に動揺が瞬き出すのを、操はじっと見つめた。
身を翻す蓮を捕らえ、背後から抱き締める。
「なぜ逃げる。それがそなたの存在理由だろう?」
囁かれた言葉に、少年ははっと躰を堅くした。
なめらかな頬に嫌悪が走る。
だが、それを飲み込むように、蓮はきつく瞳を閉じた。
操がやわらかな耳朶を脣に含み、細い首筋を辿った。
蓮は小さく躰を震わせたが、その吐息には脅えとは別のものが含まれていた。
それから逃れるように身を捩る蓮を、操は軽々と抱き上げ、牀へと押し延べる。懐を割ると、夜目にも白い肌が戦慄いた。
それに舌を這わされ、蓮は瞳を潤ませながら首を振った。
嫌悪の気持ちと裏腹に、触れられるたびに肌が波立つようにざわめく。
床に臥していて人肌に触れていなかったせいなのか、思いも掛けずに躰が反応していた。
操がそれを見逃すはずはなかった。
熱い接吻けに、蓮の躰はあっと言う間に融かされ、ようやく理性で抗う腕も、操の舌が核心を捕いた衝動に震えた。
蓮は涙をこらえて首を振る。
怖かった。
彼の愛撫は蓮が心の最奥に守って来た、最後の何かに触れるように、深く深くその身に響いた。
懇願を込め、せつない吐息の中、もう一度首を振る。
だが、操はそれを退け、やがて蓮の躰に自らを重ねた。
蓮はたまらず華奢な頤を反らせ、操もまた思わずその脣から吐息を漏らし、呻いた。
蓮が貴人の閨房のために育てられた子供であろう事も、天下人に愛され抜かれた身である事も、充分承知していた。
それでもなお、驚きを感じるほど、蓮の性は熱く深かった。
操は続け様に蓮を追い立てた。何度も襲い来る波に半ば自失しながら、また力強い腕に意識を戻され、蓮はせつなく喘いだ。
やがてそれはすすり泣きに変わる。
「孤が憎いか」
ゆっくりと躰を動かしながら操が問う。
「憎ければ孤を殺せ」
潤んだ瞳が微かに動き、白い腕が抵抗するように空を掻いた。
「それしきでは曹操は殺せぬぞ」
もっと憎め。
そう言わぬばかりに操が強く腰を進めた。
蓮は苦しみと悦びに引き裂かれ、声にならない悲鳴を上げる。
昇り詰めては意識の淵をさ迷う蓮を引き戻しながら、操は何度も何度もその躰を抱いた。