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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
88/138

八十七.

 明けて操は許の郊外へと足を伸ばし、寮の者達の揚げる凧を共に眺めた。

 木、竹、皮、布、そして紙。

 様々に工夫を凝らしたそれらが、やわらかな初春の空にひらひらと舞うたびに、蓮は手を叩いて(まぶ)しそうに薄青(おあ)を見上げる。

 しきりにそれを指差す蓮に、自分も揚げたいのかと思ったら、蓮もああやって飛べないのかと言うのだ。

 おもしろいのお……

 操はそんな蓮に瞳を細める。

「飛べるものなら(わし)も飛びたいものだ」

 笑う操に蓮は察した様子で、ちょっとつまらなそうに凧を見上げた。

「いや。夢物語ではないかもしれんぞ。大凧に乗って空を飛んだ話も確かあったな」

『じゃあ、蓮より大きい凧を造ったら飛べる?』

「事はそう簡単ではなかろうがな。可能性がまるきり無いわけではあるまい」

 きらきらと輝く瞳が愛らしい。

「そうだな。人もいつか空を飛べるようになるのかもしれぬな」

 漢王朝が一時途絶え、新と言われた時代に、簒奪者の王莽によって飛行法が試され、百歩の距離を成功したと書物は伝える。

 それよりももっと長く、そして高く、人はいつか空を飛ぶのだろうと、雄大なそれを瞳に捕らえながら操は思った。

 蓮の感性には限りがない。

 水面(みなも)を進む水黽(あめんぼ)の姿に水の中に足を入れ、なぜ自分には出来ないのかと不思議がり、凧と同じように自らも空に上がれると思う蓮は、少しおかしいのだと人に言われるだろう。

 だが、何事にも枠を設けないこういった思考が、やがて大きな進歩へと人を導くのではなかろうか。

 蓮のまっさらな部分を大切にしてやりたい。

 そんな思いが少年を眺めるまなざしに(にじ)んだ。

 ちなみに、賭けの勝者の肩車は操に却下された。

 代わりに自分がしてやろうと提案したのだが、今度は蓮が真っ赤になって首を振った。

 司空たる位にある人が何を言い出したのかと、周囲も凍りつく始末である。

 つまらんぞ……

 人並みに分別を見せる蓮が、ちょっぴり物足りない操であった。

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