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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
87/138

八十六.

「蓮は、お前様が戦に出た後体調を崩してな。風邪と(あなど)ったのが悪かったのか、こじらせてしまって薬師(くすし)()せたのだよ。そうしたら……」

 婆は一度言葉を切り、首を振った。

「この子は、心の臓が悪いのではないかと……」

「……なんだと?」

「これまでに自覚が無ければ一過性かもしれぬ。このまま症状が落ち着いて行くようなら大事ないから、良く養生させるようにとは言うておったよ」

「蓮はなんと言っている?」

 婆が再び(かぶり)を振った。

「実はまだ話しておらぬのだ。蓮は、ああして振舞ってはみせるが、まだまだ多くを思い悩んでいるし、自身の事で精一杯なのだよ。面と向かって告げて良いものか、婆は迷うておるのだ」

 それで、操にゆだねたいと言うのだろう。

 操は、思い悩むようにしばし口を閉ざした。

「婆から見て蓮の様子はどうだ」

「婆の目には元気そうに見えるよ。ただ、蓮はこれまで無理に無理を重ねて来た。(からだ)を壊していてもおかしくはないのだよ。そもそも枕童なんてものは節理に反しているんだ。人の手で造られるあの子達は、負担が大きいのか、そう長くは生きない。心を病んでしまう者や、自ら命を断つ者も多い。蓮にもその()はあっただろう? それをようよう脱して、これからではないか」

 婆は嘆かずにはいられない。

「婆も十分心に留め置くが、孟徳様もあまり寝間で無理をさせてはくれるなよ。蓮は少し淫の質が強いようだから、お前様が気を付けてやらねばならないよ」

「なんだ。そっちの心配か?」

「心配もするさ。好色なお前様と、淫の深い蓮とは、神さんも良くもまあ、お引き合わせになったものよ」

 婆にしか言えぬ事だと、操は苦笑いを浮かべる。

「お前様も(つら)いだろうが、症状が続くようなら難しいそうだよ。蓮が隠しているのでなければ良いが……」

「婆」

 気配を察し、操が制する。

 そこにカタリと扉が開かれ、蓮が駆け込んで来た。

 操に飛びつき、(むく)れる。

 自分を置いていなくなるなと()ねているのだ。

「すまん、すまん。それならもうひと合わせ願いますかな?」

 おどけて笑う。

「だが、蓮。あまり過ごすと起きられなくなるぞ。凧揚げを見るのだろう?」

 操の言葉に、蓮はそのまま固まった。

 が、突然すくりと立ち上がると、くるりと背を向ける。

 どうやら、操より凧を採ったようだ。

「おい、蓮。なんだそれは」

 慌てたのは操だ。

 引き止めようと声を上げるが、蓮は振り返りもせずにすたすたと戻って行く。

「すまん。(わし)が悪かった。これ、孤を置いて行くな」

 ――アレまあ。孟徳様としたことが。

 追い(すが)るあられもない姿に呆れ、婆は口元を覆った。

 込み上げて来る笑いを袖で押さえながら、心の内へ(つぶや)く。

 蓮はあんなに元気そうだもの。きっと大丈夫だと。

 僅かに残る影を払うように、婆は(にじ)んだ涙をそっと拭った。

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