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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
86/138

八十五.

「泣かれただろう?」

 牀を離れて夜半(よわ)の隣室へ戻って来た操に、婆が笑った。

 彼女はずっと操を待っていたのだろうか。何やら話のありそうな様子だった。

「思えば蓮も可愛そうな子だよ。さんざん好きでもない男と臥所(ふしど)を共にして、想い人が出来れば今度は待つ身だ。泣きもするさ」

「どうした。婆らしくない物言いだな」

「……すまぬ。お前様にこんなことを言うてはならんと、婆も良う解っておるのだ。何より、孟徳様が一番蓮といたいのだもの」

「それでも言わずにおられぬほど、蓮は寂しがっているか。だから婆は、奉孝に(ふみ)を頼んだのだな」

 寮の者達がああして凧だ賭けだと騒いでみせるのも、蓮を慰めたい一心なのは察しがついた。

「やはり婆の仕業とお気付きだったかえ。蓮は孟徳様が戦に出ると、毎日毎日いつ戻るとも解らぬお前様を想って、泣きそうな(かお)で空を見ている。あんまり哀れで婆がお願い申したのさ。あの方とてお勤めでご多忙であろうに、嫌な顔なさらず、ああして折々に知らせておいでだ。どうか、(とが)めてくださるなよ」

「何を咎める。もう少し面白味のある文を書けと叱ろうか?」

 そんな冗談を言って笑う。

 操とて、それが彼流の配慮なのは解っていた。

 主の寵童へ親しげな文を何度も贈れば、周囲の聞こえも悪かろう。表向き、婆宛の近況報告の形を取ったのは、極々当然の事であった。

「あんな簡素な文でも蓮にはよすがだ。何度も何度も読み返しては、お前様の無事を確かめて、ようよう自分をなだめていたよ。蓮はお前様の前ではああして振舞ってみせたが、城下に入った孟徳様を、人垣の中からやっと眺めて泣いていた。さっきだって、本当は泣いて(すが)りたかったのさ。でも蓮は、孟徳様をお引き留めしてはならぬと自らに言い聞かせている。それが、婆には、(つら)い……」

 婆はそう言って、(にじ)んだ涙を拭った。

「孟徳様。婆がお前様に言った事を、覚えておいでかい?」

「うん?」

 どの話かと操は思う。

 婆はしばらく何やら考えていたが、やがて意を決したように話し始めた。

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