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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
83/138

八十二.

 いよいよ明日は発つ夜。

 操は府の室で蓮と過ごした。

 今回はここで送ると言う蓮に、操はこの夜を()いた。

 多忙な操が寮へ送って行く時間をなかなか取れないのを、蓮は気遣ったのではなかろうか。

 そう心配する操に、迎えには必ず来てねと蓮は笑う。

 わきまえたようなその物言いが、操には物悲く響いた。

 この先蓮が大人びて行くたびに、自分はこんな思いを抱くのだろうか。

 ――急がないでくれ。

 蓮を抱き締めながら操は思う。

 ただ腕の中へ留めて置きたいだけなのか、別に理由があるのか操自身にも(わか)らない。何やら飛び立って行きそうな気がして、少し怖かった。

 この朝はひとしおに名残が惜しまれてならず、操はギリギリまで蓮を腕から離さなかった。

 刻限を婆に促され、ようやく接吻(くちづ)けをひとつ残して室を出る。

 後は甲冑を着け、府を出るだけだった。

 許へ遷都した当初は、出陣の際には帝に儀礼を通し、操も挨拶に(おとな)った。

 だが、今はいっさいそれを行わない。

 軍装する三公に対し、武器を携えた近衛(このえ)を両脇に並べ、交差させた(ほこ)(くび)を挟んで歩ませる。そんな恐ろしいしきたりを朝廷は復活させた。

 さすがに喉元へ刃物を突き付けられては、冷や汗も流れる。

 操はそれ以来、どんなに帝が望んでも参内しなくなった。

 長らく(すた)れていたこの儀式を復活させ、操に圧力を掛けたのは、かの董承である。

 虎の尾を踏むとは、まさにこの事だった。

 喧嘩(けんか)を売った相手がどれだけ恐ろしい男なのか。それに思いの至らぬ董承は、いずれ自ら好機を与えてくれるだろう。

 その時には、一族諸共根絶やしにしてやろうと、操は心に決めていた。

 その出陣を表には出ず、ひっそりと気配だけで見送った蓮は、まもなく婆と共に寮へと下がった。

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