表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
76/138

七十五.

『操がこの先蓮をどうしようと全部従う。決して文句は言わない。だから、最後に訊いても良いか?』

「……なんだ?」

『操は、蓮が蓮でなくなっても愛してくれるか?』

「何を言っている。蓮は何になると言うのだ」

『子供ではなくなる。そうしたら操は蓮を嫌いになるか?』

 このまま歳を取ったらとは訊けなかった。

 蓮はもう、稚児としては終わりを迎える。

 自分が大きく変わりつつあるのを、漠然とではあったが感じていた。

 泣くまいと思っても、不安が(あふ)れて頬を濡らした。

「蓮は自分が歳を取る事ばかり考えているようだが、(わし)も一緒に取るのだぞ? 孤のほうこそ、そなたに捨てられるのではないかとびくびくしておるわ」

 操は笑いながら蓮を抱き寄せ、腕を廻した。

「のお、蓮。そなた十年経ったらいくつになる。まだ二十代であろう? 奉孝を思い出してみろ。魅力的な男だろう?」

「さらに十年。蓮は三十代半ばだ。そなたが見初めてくれた操は、まさにその年頃だった。ふふ。良い男であっただろう」

「二十年も経てば孤はもう六十を越える。生きておるかも(わか)らん(じじい)だ。蓮に捨てられて、墓の中で泣いているかもしれんな」

 そんな操をぽかんと蓮は見上げていた。

 考えてもみなかったのだろう。そこが蓮らしかった。

「そなたは(かお)立ちも整っておるし、背もまだまだ伸びる。きっと()い男になるぞ。孤は気が気では無くて、やきもちばかり焼いているかな。もっと自分の可能性を考えてみろ。学問がしたければ良い師を就けよう。このまま楽の才を磨くのも良い。この孤が(そば)にいるのだ。蓮はなんだって出来る。そしてな、決して焦る必要などないのだ。ゆっくり考えてじっくり時を過ごせ。鈍間(のろま)でも良いではないか。人は五十からでも、何かやろうと思えば出来るのだぞ」

 蓮は指を広げてじっと見つめた。

 ふと、操を見上げる。

『操はいくつ?』

「そなたが五十になったらか? これはもう、仙人でも目指すかな」

 呵々と笑う。

「まだ先は長いのだ。今少し孤の腕の中におれ。あんまり早く独り立ちしてしまうと寂しいよ」

 蓮を抱き締め、頬に自らのそれを寄せる。

「有りのままで良いではないか。いくつになったら元服だとか、生まれで定められる生き方だとか、そんなもの、誰が決めたのだ。清廉、廉潔と口では言うが、綺麗事だけの人間など虚無だ。人とはもっと泥臭く、貪欲で奔放なもんだ。官職に就くには必要だったから学んだが、形式ばかりで役にも立たんしきたりの多さに、孤は目眩(めまい)がしたぞ」

『操はどんな子供だったの?』

「孤か? 孤はもう見ての通り、根っからの放蕩息子さ。闘犬に狩りに女遊び。盗人(ぬすびと)もしたな。親父は泣いていたよ」

『阿婆も知ってる?』

「ああ。婆は孤が悪さをすると、棒を振り上げて鬼のような形相で追い回すのだ。孤は主家の若君様(曹  公  子)だぞ。普通有り得ぬであろう?」

 操が笑う。

 そういう人だから、祖父が自分のもとへ寄越したのだ。

「翠は蓮に優しくしてくれるだろう?」

 蓮が(うなず)く。

「それはな、蓮が良い子だからだ。皆、そなたの事が大好きだよ」

 ひとつずつで良い。

 少しずつ何かを超えて、そのたびに自分に自信を持って行けたなら、蓮はきっと前へと進める。

 それを見守るのは永遠に自分であって欲しい。

 操は思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ