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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
75/138

七十四.

「人の生き死には全て天命だ。(わし)もいずれ死のうが、それが近いことであったとしても、蓮のせいだとは思わぬよ。呂布もそなたを抱いたと聞いて、がぜん戦にやる気が出たがな。まあ、これは、ただの悋気(りんき)とも言うが」

『操もやきもちを焼くのか?』

「意外か? 孤は独占欲の強い、わがまま者だからな」

『知らなかった。蓮だけだと思った』

「そなたがか? 蓮はいったい何に嫉妬すると言うのだ」

 本気でそんな事を尋ねる操に、蓮は頬を(ふく)らませた。

『操は蓮が嫉妬しないと思っているのか。蓮だって操を独占したい。でも、それは望めない』

「何を言っている。孤にはそなたひとりだぞ」

 言ってから、ああと声を上げる。

「奥の女達の事か。そうだったな。孤は、あの者達とそなたを並べて考えておらんのだ」

 参ったなと操は思う。

 寵を競う事さえ考えもしなかった蓮が、こんな話をする日が来るとは。

 嬉しいような気もするが、やはり困る。

 まさか、女達と手を切るとも言えないではないか。

「……そのな、やはり嫌か?」

『蓮は言えない』

 首を振る。

「詭弁かもしれぬが、孤は確かに女好きで気が多いが、蓮はそれとは別なのだよ。ううむ。上手く言えぬな……」

 操は言葉を探して天を仰いだ。

「とにかく、蓮は女達と自分を同列に考えてはいかん。そなたはそなただ。良いな?」

 ――何が良いんだ?

 ぎろりと蓮が操を(にら)む。

 ――それはそれ。これはこれって事かよ。

 愛らしい(くちびる)(とが)らせる蓮に、操は完敗だった。

「すまぬ。許してくれ」

 がっくりと頭を垂れる。

 もう……

 蓮は苦笑ってそんな操を抱き締める。

 ずるいなあと思う。

 これでは操を責められない。

 操。大好きだよ……

 心の中で(ささや)き、蓮はしばし瞳を閉じた。

 やがて(からだ)を離し、彼の手を取る。

『蓮は操を許す資格なんてない。蓮はこれまでの事をどうしようもないけれど、それでもあなたの(そば)にいたい』

 ぽたぽたと涙を落としながら文字を(つづ)った。

 そこには許しを請う言葉はない。蓮は、それさえ出来ないのだ。

「そなたの気持ちは良く解った。ただしこれだけは言っておく。蓮は決して(けが)れてなどいない。それだけは忘れるな」

 操は少し躰を離すと、正面から蓮を見つめた。

「良いか。この曹操が蓮の全てを許す。これまでも、これからもだ。そなたの罪は全て孤の罪だ。蓮への罰は全て孤が負う。その代わり、孤はそなたを独占するぞ」

 蓮は涙を(こぼ)しながら(うなず)く。

 ありがとう……

 脣が感謝を告げた。

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