五十五.
帝が崩御すると、ふたりの皇子を立て、外戚である何一族の一派と、後宮を牛耳っていた宦官達は、激しい権力争いを繰り広げた。
そのころの王朝では、外戚と宦官の争いが伝統的に代々繰り返されていた。帝はろくに政務も行えぬまま若くして亡くなる者が多く、幼年の継嗣の代わりに権力を握る者が跡を絶たなかったのだ。
稚児にさほど興味を持っていなかった霊帝が、一度きりではなく何度も召した蓮と謂う枕童の特性を、早くから目に付けていた者がいた。
宦官の張譲である。
彼は、霊帝が我が父と慕った大宦官であり、権勢を奮った十常侍と呼ばれる宦官達の筆頭であった。
帝亡き後、蓮はその監視下に置かれた。
何進と何皇后は後継争いに先手を打ち、辯皇子を御位へと即けた。そして、宦官達を取り除こうとしたのだが、張譲達もまた、その動きを読んでいた。
何進を宮中に招き寄せ、殺害したのである。
その時の餌が蓮だった。
何進がなぜ一触即発のあの時期に、のこのこと出掛けて行ったのか。
皇太后となっていた妹に召されたというのは、表向きの事だった。それは、彼が宮中に入る口実でさえあった。
数日前、蓮は何進に抱かれた。
宦官達の周到な計略は十重二十重に張り巡らされ、何進を捕らえて搦めて行った。
帝の寵童であった蓮の経歴は、男の自尊心を刺激するのに充分なものだった。
何進の生家は食肉の販売を生業とし、手広く商いを行い財を成した。金にものを言わせて異母妹が後宮に入り、皇后の座を勝ち取った事で彼は大将軍にまで上りつめたが、有事にこそ人の本質が命運を分ける。
何進はまさに天下の頂点に座したのだと舞い上がり、目の前の眩むほどの美童に我を忘れ、その生餌に喰らいついた。
培われた技巧と労力によって磨き上げられる枕童は、皇帝のみが味わえる天上の夢である。抱かれれば艶やかに咲き誇る徒花に、何進は溺れた。
次の逢瀬を待ち望んでいた彼は、人気のない離れに通されても、別段怪しいとは思わなかった。
忍ぶ恋も良いものだと、それにひたりさえした。
当然の事ながら、過剰な護衛もその室までは伴わない。
蓮は、何も知らぬまま、その殺害に手を貸していた。