表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
54/138

五十三.

 後宮とは言わずと知れた帝の閨房である。

 その深部で秘密裏に、帝のための枕童が育てられる。

 数多(あまた)の女達が寵を競い、そこに仕える女官宦官は数あれど、それを知る者は極僅かでしかない。奥に仕えた宦官達が虐殺され、女官達が四散した今、それらが後に伝わることもないだろう。

 外部から美しい子供を捜して来て枕童として仕込む事もあったが、蓮の物を知らぬ様子から、外から来た子供ではなく、産まれ落ちた時から後宮の深部に在ったのだろうと婆は言う。

 婆は、操の祖父の曹騰に仕えた人だが、その前は後宮に居たとの(うわさ)があった。侍女などではなく、もっと身分の低い(はしため)だったと言われている。

 婆は本草(ほんぞう)の知識があり、特に毒や媚薬の(たぐい)に詳しい。おそらくは、後宮の最奥の部分に何らかの形でかかわっていたのだろう。

 その彼女を、なぜ祖父が引き取ったのかは操でさえ知らなかったが、四代の帝に仕え、位を極めた大宦官であった祖父には、何かしらの理由があったのだろう。

 婆はその祖父の言い付けで孫の世話役に寄越されたが、操の一番古い記憶にも、すでに深い(しわ)が刻まれていた。

 だが、手の付けられない悪ガキだった操を、棒を持って追い回すほど達者で豪気な人だった。随分と歳を取ったが、その気質は今でも変わらない。

 操が大成してからは楽隠居を決め込んでいたが、蓮の世話を頼むのに彼女以上の心当たりがなく、この許へいち早く呼び寄せたのだ。

 彼女は翠と呼ばれていた。

 話を元に戻そう。

 蓮が産まれたのが後宮とはどういう事なのか。

 婆は言った。

 後宮は枕童を()()のだと。

 長じた枕童から特に容姿の優れている者、素質のある者を選び、それに相応しい女もまた選んで()()()()()()のだと言う。

 枕童は女を知ると()が落ちる。また、女を相手に出来ない者もいたから、その交わりは普通の婚姻や恋愛のようなものとは異なる。全ては他人の手と意を込められた産出だった。

 そうして産まれた子供を宮中の奥底で育てると、蓮のように真っ白な柔肌の骨の細い子供になる。

 血統においても閨中を満たす条件を(そろ)え、さらに培われた技巧を凝らして枕童は造られるのである。

 彼らは蓮のように花の名前で呼ばれることが多く、他の植物や鳥などの名が付けられることもあった。

 名は()()()次に使われるから、蓮も何代目かの蓮ということになる。

 今操のもとに居る少年は、そんな枕童の中でもおそらく()()()()だろうと婆は言う。

 造られた子供の全てが容姿に優れているわけではなく、上手く育たない子もいれば、枕童としての教育に失敗する場合もある。

 そういう子供はどんどん外に払い下げられたり、別の用途に使われ、刹那的な支配欲や加虐的な遊びのためではなく、真の意味で帝の性欲を満たせる枕童は、極ひと握りの傑作品なのだ。

 蓮がそのひと握りであったことは、想像に難くない。

 匂い立つような容姿はさることながら、蓮は淫の質が深く、それでいて恥じらいも身に付けている。

 持って産まれた質もあるが、無理に開いてはこういう子供は出来上がらない。急げば不感になってしまったり、甘ければ明け透けになったりと、枕童の仕込みは加減が難しい。父母の()でも良かったのだろうか。蓮はかなりの手を掛けて、丁寧に磨かれたのだろうというのが婆の推測だった。

 溺れるぞえ。

 操に、そんな事も言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ