四十五.
数日後。
操はなんとか時間を作り、蓮花の寮へと輌を進めた。
「今回はふた晩だ。がんばったであろう?」
操は指で共に過ごせる日数を示し、笑った。
今回の休暇には、比較的荀文若が協力的だった。
彼なりに蓮を容認したことと、例の報が届いた時、同席していたのも大きいのだろう。
また、少年の不安定さを目の当たりにした郭奉孝が、それとなく頼み込んだのかもしれない。
蓮は何も言わなかったが、精神的には追い詰められているようだった。
昼間でも小さな物音に脅え、じっと身を潜めており、夜ともなれば牀の上で自らの躰を抱いて震えているほどで、操がいなければろくに眠る事も出来なかった。
操が腕に抱いていても、その存在を確かめるように何度も目を覚ます。
操に触れ、やっと安心したように頬を寄せながら、それでも蓮は夢の中で泣くのだ。
時折昔の記憶が蘇っているのではないか。
振り払うように首を振ったり、耳を抑えたりして何かを必死に耐えている様子の蓮に、婆はそう推測した。
蓮の心の傷は深い。
操の存在でそれは癒されたかに見えたが、完全には消えていなかったのだろう。
表面だけ塞がっていた古傷がぱっくりと口を開け、再びじくじくと蓮の心に痛みを広げていた。
きっかけは例の報だ。
蓮は彼を知っているのだ。
それは、訊かなくても解っていた。
少しは気晴らしになれば良いが……
そう思いながら、操は寮への道を進めた。
寮に着くと、蓮はいくらか心が晴れたらしく、いつものように操の胸に甘えて愛らしく笑った。
啄ばむように何度も脣を重ね、抱いてくれとせがむ。
府では見せないその奔放さが、操にはひとつの楽しみだった。
「やれやれ。もう婆を追い出すのか」
傍に控えていた婆は、大業に溜め息をついてみせる。
「さあ、人払いだ人払い」
そう声を上げながら、彼女は室を出て行った。
扉を閉める際、ちらりと操に視線を寄越す。
操は何も言わず、それを受け止めた。
「蓮。婆を追い出すと、後が怖いぞ」
がばりと腕を広げてその躰を覆うと、蓮は久しぶりにくつくつと笑った。
首筋に舌を這わせると、たちまちそれは喘ぎに変わる。
その場でしばらく戯れてから、操は蓮を牀へと運んだ。
蓮は欲情に潤んだ瞳で腕を差し伸べる。
抱いて。
その脣が動いた。
蓮は少し、言葉を象取るようになっていた。
その愛らしい脣を吸い、舌を絡めて慈しむと、操は蓮の脚を抱き上げて躰を重ねた。
自らの膝が胸に着くほど押し開かれると、操が深く入り込むので蓮の表情には微かな苦悶が混じる。
だが同時にそれは、深い悦楽となってその身を震わせた。
悶える美しい貌を楽しみながら、操はゆっくりと躰を動す。
蓮は時間を掛けてじっくりと抱くと、躰の芯から零れるように蕩け出すのだ。
そのひとときが操は好きだった。
操……
やがて耐えられなくなった蓮が求めるのを操が首を振って退ける。
達する寸前のところで、操は蓮を許さないのだ。
もう少し、その艶めかしい様を楽しみたかった。
ああ……
蓮の脣から甘く吐息が零れ落ちる。
操……
譫言のように何度も蓮は操を呼んだ。
ゆっくりと蕩けて泉のように溢れて行く蓮を、操は深い想いを込めてその腕に抱き、やがてふたりは共に頂きを極めた。