三十一.
牀に横たえると、蓮は離れたがらずに操の胸に貌を埋めた。
抱いて欲しいのだろう。
その脣が操を求める。
「婆に叱られるぞ」
蓮もやはりそれは怖いのだろうか。
しゅん…と大人しくなる。
「困ったやつだな」
そんな蓮を操は笑い、傍らに身を伸べて腕を廻した。
蓮は寂しいらしく、操の指を玩び、自らのそれを絡ませる。
そっと接吻ける脣を指先でさらさらとなぞると、やがて蓮はそれを口に含んだ。
時折淫らな音を立てて舐り、甘く歯を立てる。
どうやら蓮は、舐るという行為事体が好きなようだ。
口の中も感じるらしく、指でなぞり、口腔を掻き回すと、それだけでせつなく吐息を漏らす。
接吻けもやはり好きで、せがむようにそれを求め、舌を絡ませるたびに身を震わせて応えた。
そんな蓮をおもしろいと思いながら、好きにさせ、操はそれを楽しんだ。
――これは眠るな。
操の指に絡まる舌が、どこかとろりとした動きになって来た。
うとうととし始めたその頭を撫でてやると、ゆっくりと少年は眠りに落ちて行った。
今の蓮はすっかり操に身を任せていて、時折こうして寝入ってしまう。安心しきっているのだろう。少々の事では、起きない時さえあった。
操に頬を寄せて眠るその貌はひどく幼い。
蓮は自分の歳も知らない様子で、はっきりとした事は解らないが、操が初めて逢ったころから考え併せると、十代の半ばは過ぎているだろう。
操が庇護した帝が御年十七歳で、蓮と近しい歳の頃かと思われるのだが、帝は数年前に元服しており后もいる。
帝と枕童とではその境遇が違い、比べるわけにはいかないだろうが、蓮からは、元服という言葉さえ上手くは思い浮かばなかった。
躰が小さい事もあるが、印象そのものが幼いのだ。
――かと言って、愚鈍なわけでもないのだが。
操は、なめらかなその頬を見つめる。
確かに目から鼻へ抜けるといったところは持たないが、それでも蓮は、聡いとも言って良い子供だった。
蓮のような身の上の子供には、鋭敏なところなど、むしろ無いほうが幸せだったのかもしれないが、操はその賢明さをも深く愛していた。
今すぐには無理でも、あと三年。いや、二年経てば……
操は考える。
その時が来たら、蓮をきちんと元服させ、彼の望む人生を用意してやろう。幸い自分は、それが出来る立場にあるのだから。
まるで父親のような思いだが、確かに操は蓮と親子と言ってもおかしくない歳なのだ。
実際、この間亡くした長男の昴は、蓮よりいくつか上ではなかろうか。
操はどちらかと言うと、子供への愛情のほうが淡白かもしれない。
操がかつてそうであったように、その血を強く受け継いだ彼の子はみな早熟だ。放って置いても自分の人生は自分で掴むと思わせるしたたかさをそれぞれが持っており、また、操は自分の後継問題にあまり感心がない。
いずれそういうわけには行かなくなるだろうが、勝手にやってくれ。と言うのが正直な気持ちであり、自分の死後の事など知らん。と言うのが本音だった。
しかし、蓮の事は心配だった。
もし自分が死んだら……
戦に出る時、操は思った。
今までにも当然覚悟はあった。だが、死後を思い、危惧を抱いたのは初めてだった。
この子には、出来る限りの事をしてやりたかった。
――そうか。こういう思いが傾国に繋がるのかもしれんな。
傍から見れば馬鹿馬鹿しいとしか思えぬその愚行にも、愛しい者を護りたい、喜ばせたいという深い想いがあるのだとしたら。
官職に就いた時からひたすら公の腐敗を掃して来た操だが、初めて逆の立場で物を考えたような気がして苦笑した。
蓮はまだ少し顔色が悪い。
操は愛しいかんばせを眺めながら、そっと髪を撫で続けた。