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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
32/138

三十一.

 牀に横たえると、蓮は離れたがらずに操の胸に(かお)(うず)めた。

 抱いて欲しいのだろう。

 その(くちびる)が操を求める。

「婆に叱られるぞ」

 蓮もやはりそれは怖いのだろうか。

 しゅん…と大人しくなる。

「困ったやつだな」

 そんな蓮を操は笑い、傍らに身を伸べて腕を廻した。

 蓮は寂しいらしく、操の指を(もてあそ)び、自らのそれを絡ませる。

 そっと接吻(くちづ)ける脣を指先でさらさらとなぞると、やがて蓮はそれを口に含んだ。

 時折(みだ)らな音を立てて(ねぶ)り、甘く歯を立てる。

 どうやら蓮は、(なめ)るという行為事体が好きなようだ。

 口の中も感じるらしく、指でなぞり、口腔を()き回すと、それだけでせつなく吐息を漏らす。

 接吻けもやはり好きで、せがむようにそれを求め、舌を絡ませるたびに身を震わせて(こた)えた。

 そんな蓮をおもしろいと思いながら、好きにさせ、操はそれを楽しんだ。

 ――これは眠るな。

 操の指に絡まる舌が、どこかとろりとした動きになって来た。

 うとうととし始めたその頭を撫でてやると、ゆっくりと少年は眠りに落ちて行った。

 今の蓮はすっかり操に身を任せていて、時折こうして寝入ってしまう。安心しきっているのだろう。少々の事では、起きない時さえあった。

 操に頬を寄せて眠るその貌はひどく幼い。

 蓮は自分の歳も知らない様子で、はっきりとした事は解らないが、操が初めて逢ったころから考え併せると、十代の半ばは過ぎているだろう。

 操が庇護した帝が御年十七歳で、蓮と近しい歳の頃かと思われるのだが、帝は数年前に元服しており后もいる。

 帝と枕童とではその境遇が違い、比べるわけにはいかないだろうが、蓮からは、元服という言葉さえ上手くは思い浮かばなかった。

 (からだ)が小さい事もあるが、印象そのものが幼いのだ。

 ――かと言って、愚鈍なわけでもないのだが。

 操は、なめらかなその頬を見つめる。

 確かに目から鼻へ抜けるといったところは持たないが、それでも蓮は、(さと)いとも言って良い子供だった。

 蓮のような身の上の子供には、鋭敏なところなど、むしろ無いほうが幸せだったのかもしれないが、操はその賢明さをも深く愛していた。

 今すぐには無理でも、あと三年。いや、二年経てば……

 操は考える。

 その時が来たら、蓮をきちんと元服させ、彼の望む人生を用意してやろう。幸い自分は、それが出来る立場にあるのだから。

 まるで父親のような思いだが、確かに操は蓮と親子と言ってもおかしくない歳なのだ。

 実際、この間亡くした長男の昴は、蓮よりいくつか上ではなかろうか。

 操はどちらかと言うと、子供への愛情のほうが淡白かもしれない。

 操がかつてそうであったように、その血を強く受け継いだ彼の子はみな早熟だ。放って置いても自分の人生は自分で(つか)むと思わせるしたたかさをそれぞれが持っており、また、操は自分の後継問題にあまり感心がない。

 いずれそういうわけには行かなくなるだろうが、勝手にやってくれ。と言うのが正直な気持ちであり、自分の死後の事など知らん。と言うのが本音だった。

 しかし、蓮の事は心配だった。

 もし自分が死んだら……

 戦に出る時、操は思った。

 今までにも当然覚悟はあった。だが、死後を思い、危惧を抱いたのは初めてだった。

 この子には、出来る限りの事をしてやりたかった。

 ――そうか。こういう思いが傾国に繋がるのかもしれんな。

 (はた)から見れば馬鹿馬鹿しいとしか思えぬその愚行にも、愛しい者を(まも)りたい、喜ばせたいという深い想いがあるのだとしたら。

 官職に就いた時からひたすら公の腐敗を掃して来た操だが、初めて逆の立場で物を考えたような気がして苦笑した。

 蓮はまだ少し顔色が悪い。

 操は愛しいかんばせを眺めながら、そっと髪を撫で続けた。

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