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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
26/138

二十五.

 表の方からざわざわとした気配が伝わって来る。

 何を立ち騒いでいるのか。

 不快を覚えた操は、筆を置いて立ち上がった。

 室を出ると、家扶のひとりが駆け付けたところだった。

「いかがした?」

「それが……」

 言い掛け、回廊へと視線を走らせる。

 そこにはすでに、喧騒が歩を進めていた。

 止める家人を脇に退()け、婆が操への距離を縮めた。

 婆の手に引かれたその姿に、操は一瞬眼を疑った。

 ――蓮?

 思いも掛けない訪問者に驚く操の前で、美しく着飾った蓮が(あで)やかに微笑(ほほえ)んだ。


「いったい、何があったと申すのだ?」

 人目もあるのでとにかく室へ入れると、操は傍らの婆に(まなじり)を吊り上げた。

「その(ほう)が附いておりながら、何たる事だ。くれぐれもと頼み置いたであろう」

 そこに蓮が割って入った。

“私は” 蓮が自らを指す。

“あなたと” 優雅な手が操を示した。

“添いたい” 両の指が添えられた。

 はらはらとその双眸から涙が(こぼ)れ落ちた。

主公(との)はこの者に、恋しい相手があらば添わせてやろうと仰せだ。蓮は曹孟徳と()う御仁が恋しい。添わせて欲しいと申しております」

 蓮の気持ちを代弁し、婆が腰を(かが)めた。

「そなた……」

 蓮は涙に濡れた瞳で操を見つめ、すらりと腕を伸ばした。

 それを抱き止め、操は腕に力を込める。

「馬鹿者が。せっかく籠から出してやろうと言うに」

 蓮が首を振った。

 自分は籠の鳥ではない。そう言っているのだろうか。

 あるいは、()えて恋と謂う籠に、捕らわれようとでも言うのか。

 見事な細工の(かんざし)が、シャラ…と音を立てて揺れた。

(わし)はな、こんな事をさせるために、そなたにこれを贈ったのではないぞ」

 (さと)い操には、なぜ蓮が着飾って現れたのかも、問う必要などないのだろう。

 ふわりと蓮を抱き上げる。

 奥の間への扉を開け、婆が導く。

 通り過ぎるふたりに深々と(こうべ)を垂れ、婆はかたりとその扉を閉めた。

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