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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
24/138

二十三.

「いろいろと(つら)い思いをさせたな。すまなかった」

 久しぶりの訪れを迎えた蓮は、そう言って()びる操に瞳を上げた。

 哀しみを(たた)えた黒燿が濡れたように(きらめ)き、己を映すのを、操はしばし見つめた。

「蓮……」

 少しおもやつれしたその様が、また愛しくてならなかった。

 抱き締めたいという思いを胸に、操はただ蓮の髪を撫でる。

「今宵は何もせぬ。ゆっくり眠るがいい」

 そんな操に蓮が小さく首を傾げた。

(わし)が言うとおかしいか?」

 操にじっと視線を留めていた蓮が、おもむろに手を伸ばした。

 操の頬にそっと触れながら、さらに見つめる。

 やがてその双眸に涙が(あふ)れた。

「どうした? 辛い仕打ちを思い出したか?」

 丁氏の招いた宴か、それとも自分の(むご)い仕打ちだろうかと、操の心は痛んだ。

 蓮は首を振った。

 辛いのではなかった。

 ただ哀しい……

 哀しくて、哀しくて、胸が張裂けそうだった。

 どうしてだろう……

 突然哀しいという思いが心の中になだれ込んで来て、わけの解らないまま蓮にとめどない涙を流させる。

 行かないで……

 華奢な腕が伸ばされた。

 受け止めると、操の指に(すが)るように蓮のそれが絡んだ。

 操はそっと蓮を胸に抱いた。

 せめてひと晩こうしていようと思う。

 その涙が乾くように――

 包み込むぬくもりに頬を寄せ、蓮はいつしかその腕の中で眠りに就いていた。



 蓮は夢を見ていた。

 広大な河の真ん中に、きらきらと輝くものがある。

 なんだろう?

 岸からそれを眺めていると、後ろから男が声を掛けた。

 取っておいで。

 少し怖くてためらう蓮に、その人は重ねて言った。

 ここで見ているから、心配しないで行っておいで。

 背を包む暖かな想いに押され、蓮は河へと足を踏み出した。

 蓮が歩みを進めるたびに、なめらかな水面(みなも)に小さな水の紋が広がっては消えた。

 ようやくそこに辿(たど)り着くと、(まばゆ)い光を放つ宝珠があった。

 なんて綺麗……

 そっと(すく)い上げ、蓮は(よろこ)びを胸に振り返る。

 だが、蓮の求めた姿は、岸辺の何処(どこ)にもなかった。

 突然足元がぐらりと崩れ、蓮は暗い水の中へと()ちて行った。 

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