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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
133/138

百三十二.

 蓮の容体は小康を保っているように見えたものの、寒さが厳しくなるにつれ、少しずつ悪くなって行った。

 呼び掛ければ瞳を開けて僅かに笑うが、自ら何かを示そうとすることは、近頃ではほとんど見られなくなっていた。

「蓮。奉孝殿からの(ふみ)だよ。ほれ、見えるかえ?」

 変わらず、定期的に近況を知らせるその文を、婆が蓮の前に広げた。

 蓮は(かす)かに(うなず)いて、文字をなぞるようにその筆蹟に触れる。

「戦は連戦連勝。孟徳様もお元気と書かれておるぞ」

 婆が告げる内容に蓮は微笑(ほほえ)み、吐息をつきながら瞳を閉じた。

 それが、蓮の見せた最後の反応だった。

 知らせを受けた(イク)も、急ぎ寮へと駆けつけた。

「蓮殿の容体は?」

 真っ先に問われたそれに、婆は泣き()らした瞳で首を振った。

「昨日から熱が下がらず、意識がはっきりしないのです。後はもう、本人の体力次第だと……」

 代わって(こた)えた丁も、目頭を押さえて顔を背けた。

 彧は言葉を失くしてただ牀の傍らに立ち尽くす。

 苦しそうに息を揺らして、蓮の(くちびる)が何かを(つぶや)いた。

「なんと、言っているのです?」

 彧の問いに、丁はようやく曹公を…と口にして嗚咽を(てのひら)で覆った。

 ――主公(との)を?

 彧は蓮の小さな吐息を見つめる。

 曹……? いや、主公の御名(おんな)か……

「尚書令殿、後生だ。孟徳様に使いを()っておくれ。蓮は決して知らせるなと言うたけれど、婆はもう我慢がならぬ。蓮はこれほど呼んでいるのだもの。どうか孟徳様と逢わせてやっておくれ。今すぐ、孟徳様を連れて帰っておくれ」

 膝に取り(すが)る婆を受け止めながら、彧はその身が真っ暗な何処(どこ)かへ()ちて行くような気がした。

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