表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
130/138

百二十九.

 蓮の所へは、時折(イク)が見舞いに訪れた。

 彼は細々(こまごま)とした心遣いを見せ、自分が(おとな)えない時にも様々な物を寮へ届けさせる。その細部まで行き届いた心配りには、さすがの婆も驚きを感じるばかりだった。

 見目麗しい貴人(あてびと)だった。

 荀家と言えば、婆の耳にさえ届く名門中の名門である。

 彼が一門の中でも嫡流に近い育ちであることは、その物腰からも充分に伝わって来た。

 曹家の跡取りとして大切に育てられながらも、型破りな事ばかり仕出かして、自由奔放に振舞って来た婆の若君とは随分な差であった。

 それにしても、孟徳様のもとにはいろいろな者達が集ったものだ……

 ふと、郭奉孝の事を思い出し、婆は笑いを(こぼ)すのだった。


 蓮は医局の者達ともすっかり打ち解けて、気分の良い日は談笑に興じて豊かな表情を見せた。そんな蓮に老方士は、刀自(とじ)殿が阿婆なら自分は(じじ)だろうと、改まって呼び掛ける蓮の瞳を(のぞ)き込む。

 蓮は気恥ずかしいのか、もじもじと視線を伏せ、その愛らしさに周囲は笑った。


 また、そのころ寮には、丁氏の出入りが見られるようになった。

 彼女が夫と離縁してからも、卞氏は折に触れては(やしき)へ招き、厚く遇していたと云う。

 その心遣いに深く打たれた丁は、卞がしきりと気に懸ける蓮のもとへ、その名代を買って出たのだ。

「もはや、恥も外聞も捨てました」

 彼女はそう言って婆に笑った。

 蓮は思い掛けないその訪問を(よろこ)び、病身を起こしては彼女を迎えた。

(わたくし)が織りました」

 幾度目かの訪れに、彼女は見事な染めの絹布を広げた。春の装いに、仕立ててくれるのだと言う。

 ちくちくちくちく。

 白い手がなめらかに動くのが物珍しくて、蓮は飽きもせずにそれを眺めて時を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ