表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
13/138

十二.

 蓮と謂う存在は、知れば知るほど操にとって大きなものとなって行った。

 少年は人に(はべ)ることに慣れているのだろう。召されれば当然のように更衣を手伝い、器用に髪も()く。ひっそりと空気のように傍らにいながら、こちらの心を読んだように手を添える蓮は、うち(くつろ)ぎたい自室にこそ必要な存在だった。

 婆は、蓮を操の私室に置くことには強く反対した。今まで通り蓮の室へ足を運べと言う。他の寵姫達との(いさか)いを懸念していた。

 蓮に寵を争う気などあるものか。

 操は笑ったが、むしろ争う気概があるほうがマシだと婆は言う。

 こんな邸の片隅にいてさえ、寵童への険は届くのだ。操の(そば)に置けばどうなるか。ただの僮僕と言うには、蓮の容貌は際立ち過ぎているのだ。

 婆の強い反対に、一度は諦めた操だが、自室の極近くへと少年の寝所を移してしまった。当然(おとな)いは頻繁となり、蓮は請われるがままに所用を片付けに操の室に出入りする。

 婆はそれを怒り、別邸へと下がった。(かしま)しい奥となど、かかわりたくないと言うのである。

 だが、操に懇願されて、結局その月のうちに戻っている。

 蓮には飢えても渇いても黙って座しているようなところがあり、(からだ)の不調さえ訴えない。自分の意を誰かに伝える事が欠落しているのだ。

 (うなず)いたり、小さく首を振る程度の意思表示は見せるが、全ては投げかけられた事柄に対しての反応であり、自発的なそれは皆無に等しい。

 唖者ゆえだろうと操は文字を教えたのだが、あまり変化はなかった。

「仕方ないさ。そう育てられているのだもの」

 婆は言う。

 蓮は運命を甘受するかのように、ただ静かに今の状況をも受け入れた。

 ずっと、そうすることを強いられて来たのだろう。

 蓮は諦めるか、元から望まぬ事しか知らなかった。

「どうしたものかな」

 さすがの操も思案に(ふけ)り、ひっそりと溜め息をつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ