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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
128/138

百二十七.

 通された室で蓮は婆に支えられ、ようよう牀から(からだ)を起こした。

「ご容体が悪いのなら、無理をなさらずと良いのです」

 その様子に慌てて(イク)は手を()える。

 蓮は蒼褪(あおざ)めた(かお)でほのかに笑うと、肩で息を()きながら礼を取った。

『牀のままの失礼をお許しください』

「何を仰るのです。さあ、お楽になさって」

 小さな背を支え、積み重ねた夜具(やぐ)へともたれさせる。すでに横になっているのも呼吸が(つら)いようだ。蓮は、薄い胸を大きく揺らして、(あえ)ぐように息を()いだ。

「私はご病状の(さわ)りになりたくなくて、お伺いしたつもりなのです。お辛いのなら、そう仰っていただいてかまわなかったのに」

 彧は訪問の順を踏んで先触れを遣わした。

 儀礼通りに相手の都合を(たず)ねさせたのは、蓮の病状を配慮しての事であった。容体が悪ければ改めるつもりだったのに、使者はふたつ返事を持ち帰った。

「蓮は、尚書令殿はご多忙な中のお勤めであろうから、ご配慮いただくのは申し訳ないと言うてな」

 抗議の視線を受けた婆が、言い訳がましく口にした。

 蓮は、彧の訪問を、君に頼まれての事だと思っているのだろう。瞳で申し訳なさそうに頭を下げる。

『曹司空に、蓮は元気だと伝えてください』

 記された文字に彧は戸惑う。

『大事な戦の最中であることは、蓮にも(わか)ります。戦場では何が災いするかはわからない。どうか、御心を乱すような事をお知らせしないで』

 蓮は小さな手をすり合わせ、懇願を示した。

『偽りの報告など出来ない方なのは承知しています。大丈夫。蓮はちゃんと元気になるから』

 にこりと蒼白い貌で笑い、蓮は続けた。

『あの人を心配させたくないの』

 見つめる瞳が涙を(たた)え、揺れていた。

「私は……」

 彧は言い掛けた言葉を一度切り、小さく溜め息をついた。

「私はこんな時にどう返したら良いのか解らない。気の()いた言葉ひとつ出て来ない己が、嫌になる」

 首を振り、蓮に苦笑(わら)う。

「奉孝ならこんな時、キミになんと言うのだろうね」

 寂しそうに笑うまなざしを、蓮の瞳が受け止めた。

「長居をしてはお躰に障りましょう。私はこれにてお(いとま)致します」

 退出しようとする彧の(ころも)を蓮が引いた。

 不思議に思いながら、求められるままに(てのひら)を差し出す。

『また来てくれる?』

「え?」

 思い掛けないそれに、彧は小さく首を傾げた。

『お願いだから、また蓮に逢いに来て』

「戦場の事は、お話出来ませんよ」

 言ってから、他に言いようもあるだろうと自分で思う。

 なぜか、この少年の前では(うま)く振舞えなかった。

 蓮はそんな彧にこくりと(うなず)くと、待ってるね。と愛らしい(くちびる)で言葉を(かたち)取った。

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