百二十六.
雨……。
雨を最初に認識したのはいつの事だろう。
幼いころから天より降り落ちる水滴を眺めて来たであろうに、それを特に不思議とも思わず、極当たり前の事として受け入れて来た。
成長するにつれ、雨だと外出に不自由だとか、それに左右される石高を気にしたり、雨を眺めて思う事も様々に移り変わっては来たが、こんな心持ちで空を見上げる日が来るとは想像もしなかった。
秋の雨は冷たい。
ひと雨ひと雨季節が深まって行くとは言うけれど、今年の雨は降るほどに冷たく肌身に染みた。
病の身であれば、なおさらにこたえるだろうと、すっかり下がった気温に、かの少年を思う。
その肌を温め、護る腕は今は遠い。
自分にこの都を任せ、その人は戦場へと旅立った。
いつもと同じ、揺るぎない信頼で留守を託しながら、その胸中に揺れていた想いから彧は瞳を反らした。
見たくはなかった。
君の想いも。
その結末も。
だけど雨が降るたびに、彧の心はゆらゆらと揺れる。
季節が駆け足で冬へと近付いて行くほどに、その白い貌が脳裏に浮かんでは消えた。
――やはり難渋しておいでだろう。
彧はひとつ溜め息をつくと、静かに席を立った。