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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
126/138

百二十五.

 雨はまだざあざあと降っていた。

 操の去った室には、いっそう雨音が強く響く気がする。

 このまま雨が()まなければ出兵も一日延びるかしら?

 ずっとずっと雨が降り続いていたら、道が閉ざされて通れないくらいになったら、戦に行かずにいてくれるかしら?

 蓮の(そば)に……

 この傍らに……


 涙がいくつも頬を伝い、牀にぽろぽろと砕けた。


 (うそ)つき。

 蓮の嘘つき。

 本当は行かないでって言いたかったのに。

 本当は泣いて泣いて、(すが)りつきたかったのに。


 蓮は操の名を呼びながら、耐えられずに泣き伏した。


 お願いだから蓮の傍に居て。

 お願いだから独りにしないで。

 もう待ってるのなんて嫌だよ。

 もう寂しいのは嫌だよ、操……

 操……


 ひとしきり泣いてから、ふと蓮は(かお)を上げた。


 そうだ。

 操が戦に行くのを止められないなら、蓮も連れて行ってもらえばいいんだ。

 途中で捨てられても、置き去りにされてもかまわないから、行ける所まで附いて行くんだ。


 蓮は牀から這い出すように降りると、雨の吹き付ける扉を押した。

 そのまま壁に縋りつくように一歩一歩濡れた回廊を進む。

 息が切れて大きく肩が揺れた。

 駆けて行きたいのに、足が重くて思うように動かない。

 気持ちばかりが(あせ)って、それがさらに呼吸を乱した。

 元気な時ならあっと言う間に駆け抜けた回廊を、永遠とも思える時を掛けて蓮は歩んだ。


 その先に(あか)りが揺れる。

 自分を呼ぶ声が駆け寄り、(からだ)を支えた。

 操は?

 視線と(くちびる)で問う。

「孟徳様はもう行かれたぞえ」

 遠くで阿婆の声がする。

 闇が強くて周りが良く見えない。

 それでも蓮は、操を追って行こうとした。

 引き止める腕をやっと振り払ったのに、幾歩ももたずに足が崩れた。

 彼を呼んで腕を伸ばす。

 耳の奥に、雨の音だけが強く響いていた。


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