百二十四.
「さあ」
差し出されたそれを微かに震える腕で受け取り、そっと蓮は胸に抱いた。
寄せた頬に、かの人のぬくもりがあった。
操……
蓮は愛しい人を抱くように衣を抱き締めると、貌を埋めて泣いた。
「蓮……」
そんな蓮を思わず操は抱き寄せる。
「目の前に孤がおるではないか」
抜け殻のような衣一枚を、蓮はよすがにするとでも言うのだろか。
ほんのひととき伝えた匂いもぬくもりも、すぐに消えてなくなってしまうだろうに。
「良いか。これが最後だなどと思ってはならぬ。必ず孤の帰りを待っておれ。寒い季節を越えればまた春が来る。暖かくなれば躰もきっと良くなろう。また花の盛りを共に眺め、蓮花が咲くのを指折り数えるのだ。孤はもう、ひとりで水芙蓉を眺めるのは嫌だぞ。良いな、蓮。来年の夏も、その次の夏も、その先もずっと、蓮は孤の傍におるのだぞ。良いな?」
良いな?
良いな、蓮?
何の希望も無い未来を無理矢理掴もうとするかのように、操は何度も何度もそう繰り返した。
蓮はその腕の中で泣きながら、ただ頷く。
がんばるよ。
もしあなたにまた逢う事が出来るなら、どんなに辛くても蓮はがんばる。
一日でも長く。一刻でも長く。
それがたとえ苦しむだけの時間であったとしても、蓮はちっともかまわない。
だから……
蓮は貌を上げると、そっと操の頬を拭った。
泣かないで。
お願いだから泣かないで。
操が泣くと蓮はとっても悲しい。
もうあなたを困らせないから。
泣いて、引き止めたりしないから。
だから泣かないで……
蓮は涙の残る頬に精一杯の笑みを浮かべた。
『ここで見送るからもう行って。無事で帰って来てね』
「蓮……」
蓮はひとつ頷くと、綺麗に笑った。
『来てくれて嬉しかった。蓮は操に逢えて嬉しかったよ』
もしこれが最後なら、蓮の笑った貌を覚えていて。
蓮は泣いてばかりだったけれど、ちゃんと幸せだったよ。
あなたがいてくれたから、こんなに幸せだったよ。
蓮は透き通るような笑みを浮かべ、戦場へと旅立つ操を見送った。