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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
125/138

百二十四.

「さあ」

 差し出されたそれを(かす)かに震える腕で受け取り、そっと蓮は胸に抱いた。

 寄せた頬に、かの人のぬくもりがあった。

 操……

 蓮は愛しい人を抱くように(ころも)を抱き締めると、(かお)(うず)めて泣いた。


「蓮……」

 そんな蓮を思わず操は抱き寄せる。

「目の前に(わし)がおるではないか」

 抜け殻のような衣一枚を、蓮はよすがにするとでも言うのだろか。

 ほんのひととき伝えた匂いもぬくもりも、すぐに消えてなくなってしまうだろうに。

「良いか。これが最後だなどと思ってはならぬ。必ず孤の帰りを待っておれ。寒い季節を越えればまた春が来る。暖かくなれば(からだ)もきっと良くなろう。また花の盛りを共に眺め、蓮花が(ヒラ)くのを指折り数えるのだ。孤はもう、ひとりで水芙蓉(ハ ス)を眺めるのは嫌だぞ。良いな、蓮。来年の夏も、その次の夏も、その先もずっと、蓮は孤の(そば)におるのだぞ。良いな?」


 良いな?

 良いな、蓮?

 何の希望も無い未来を無理矢理(つか)もうとするかのように、操は何度も何度もそう繰り返した。

 蓮はその腕の中で泣きながら、ただ(うなず)く。


 がんばるよ。

 もしあなたにまた逢う事が出来るなら、どんなに(つら)くても蓮はがんばる。

 一日でも長く。一刻でも長く。

 それがたとえ苦しむだけの時間であったとしても、蓮はちっともかまわない。

 だから……


 蓮は貌を上げると、そっと操の頬を拭った。


 泣かないで。

 お願いだから泣かないで。

 操が泣くと蓮はとっても悲しい。

 もうあなたを困らせないから。

 泣いて、引き止めたりしないから。

 だから泣かないで……


 蓮は涙の残る頬に精一杯の笑みを浮かべた。

 

『ここで見送るからもう行って。無事で帰って来てね』

「蓮……」

 蓮はひとつ頷くと、綺麗に笑った。


『来てくれて嬉しかった。蓮は操に逢えて嬉しかったよ』


 もしこれが最後なら、蓮の笑った貌を覚えていて。

 蓮は泣いてばかりだったけれど、ちゃんと幸せだったよ。

 あなたがいてくれたから、こんなに幸せだったよ。


 蓮は透き通るような笑みを浮かべ、戦場へと旅立つ操を見送った。

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