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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
123/138

百二十二.

「――蓮。蓮……」

 心持ち(からだ)を丸めて眠る姿に婆が声を重ねる。

「良く眠っているようだ。無理に起こさずとも良い」

「孟徳様がいらしているのに起こさなかったと知れば、後で泣かれるのは婆だもの」

 止める操にそう返し、婆は華奢な肩へと手を掛ける。

「蓮。孟徳様がいらしたぞ。起きや」

 揺さぶる腕に、ようやく蓮は瞳を開けた。

 ぼんやりと婆を見上げる。

「蓮。孟徳様だぞえ」

 やっとその言葉が響いたのだろう。

 婆の後ろに視線を合わせ、小さく(くちびる)を開く。

 腕が求めるように伸ばされた。

「さあ」

 婆の手を借りて、ようよう蓮は躰を起こした。

 (つら)そうに揺れる背を、そっと操が抱き止める。

「熱があるな。あまり具合が良くないか」

『違うの。昨日湯を使ったから。ほらご覧て、怒られちゃった』

 血の気の引いたまなざしで、室を出て行く婆の背を送りながら、蓮は笑った。

『阿婆が薬を(せん)じてくれたから、だいぶ楽になったよ』

「せっかく良く眠っていたのに、起こしてしまったな」

『雨が降っているから今日は来ないと思ったの。……まだ、降っているね』

「ああ。時折強く降る」

 操の視線が外へと向けられる。

 雨は激しく吹き付けて、扉をカタカタと鳴らした。

 操……

 蓮は泣きそうになって、操の胸に(かお)(うず)めた。

「どうした。苦しいか?」

 気遣う操に首を振り、蓮は懸命に涙をこらえる。


 操は行ってしまうのだ。

 軍を発し、遠い所へ戦に行ってしまうのだ。

 こんな土砂降りの夜に無理に訪ねて来た理由は、訊かなくても解っていた。

 引き止めたくても引き止められない。

 その心が強く操の(ころも)を握った。


「蓮。明日立つよ」

 短く操が言った。

 蓮は泣くまいとするのが精一杯で、そのまま(うなず)く事しか出来なかった。

「貌を見せてくれ」

 首を振って拒む頬を、暖かな(てのひら)が包み込んだ。

 操を映した瞳から、こらえていた涙がぽろぽろと砕け散る。

 ――操。

「ん?」

 抱いて……。

 涙と共にそれが(こぼ)れ落ちた。

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