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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
122/138

百二十一.

 夜半から降り出した雨は朝になっても止まず、時折激しく大地を叩いた。

 こんな雨じゃ今日も来ないかな……

 蓮はしょんぼりと夜具(やぐ)(からだ)を丸める。

 ここに来てまだ数日なのに、逢いたくてたまらなかった。

 バカみたい……

 泣くくらいなら、府にいたらいいのに……

 恋しさのあまり、そんな事を思う。

 だけど、これは自分で決めた事だった。

 きっとこうやって泣くだろう事も予想して、蓮はその孤独に震えて泣いた。

 それでも選んだのは、こうでもしなければあの人を引き止めてしまうから。

 あのまま(そば)にいれば、きっと自分は戦に行かないでくれと、泣いて彼に(すが)っただろう。

 戦に行けばもう逢えない。

 漠然とではあったが、確かな予感が胸に在った。

 操は困ってしまい、言葉に窮して自分を抱き締めるだろう。

 すまない。

 きっとただそう繰り返す。

 謝らなければならないのは、蓮のほうなのに。

 大好きな人を困らせたくなかった。

 蓮のために、たくさんたくさん心を尽くしてくれた人。

 愛しくて、愛しくて、ひとときでさえ傍を離れたくない人。

 なのに、蓮は泣いてばかりで、哀しみばかり残してしまう。

 だからせめて……

 ぐいと、(こぼ)れる涙を拭う。


「蓮。薬湯(やくとう)だよ」

 (とばり)の外で婆が声を掛けた。

 それを割って顔を出すのに、蓮は少し大儀そうに躰を起こした。

 雨の日は体調を崩す事が多い。少しの気温の変化にも過敏に反応して、ここへの移動もこたえたのか、寮へ来てからは牀で過ごす時間が増えていた。

「さあ、これをお飲み。少しは楽になるだろう」

 蓮は婆への礼を(くちびる)で告げると、促されるままにそれに口を付けた。

 婆の介添えを受け、ゆっくりとそれを飲み込む。

「このままお休み」

 この雨では孟徳様は来ないだろうからと言い掛けて、婆は口を(つぐ)んだ。

 素直に(うなず)いて身を伸べる蓮を、そっと夜具に包み込む。

 蓮はやはり躰が(つら)いのだろう。婆に話をせがむ事もなく、ぐったりと瞳を閉じた。

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