百二十一.
夜半から降り出した雨は朝になっても止まず、時折激しく大地を叩いた。
こんな雨じゃ今日も来ないかな……
蓮はしょんぼりと夜具へ躰を丸める。
ここに来てまだ数日なのに、逢いたくてたまらなかった。
バカみたい……
泣くくらいなら、府にいたらいいのに……
恋しさのあまり、そんな事を思う。
だけど、これは自分で決めた事だった。
きっとこうやって泣くだろう事も予想して、蓮はその孤独に震えて泣いた。
それでも選んだのは、こうでもしなければあの人を引き止めてしまうから。
あのまま傍にいれば、きっと自分は戦に行かないでくれと、泣いて彼に縋っただろう。
戦に行けばもう逢えない。
漠然とではあったが、確かな予感が胸に在った。
操は困ってしまい、言葉に窮して自分を抱き締めるだろう。
すまない。
きっとただそう繰り返す。
謝らなければならないのは、蓮のほうなのに。
大好きな人を困らせたくなかった。
蓮のために、たくさんたくさん心を尽くしてくれた人。
愛しくて、愛しくて、ひとときでさえ傍を離れたくない人。
なのに、蓮は泣いてばかりで、哀しみばかり残してしまう。
だからせめて……
ぐいと、零れる涙を拭う。
「蓮。薬湯だよ」
帳の外で婆が声を掛けた。
それを割って顔を出すのに、蓮は少し大儀そうに躰を起こした。
雨の日は体調を崩す事が多い。少しの気温の変化にも過敏に反応して、ここへの移動もこたえたのか、寮へ来てからは牀で過ごす時間が増えていた。
「さあ、これをお飲み。少しは楽になるだろう」
蓮は婆への礼を脣で告げると、促されるままにそれに口を付けた。
婆の介添えを受け、ゆっくりとそれを飲み込む。
「このままお休み」
この雨では孟徳様は来ないだろうからと言い掛けて、婆は口を噤んだ。
素直に頷いて身を伸べる蓮を、そっと夜具に包み込む。
蓮はやはり躰が辛いのだろう。婆に話をせがむ事もなく、ぐったりと瞳を閉じた。