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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
117/138

百十六.

 昼下がり。

 秋晴れの長閑(のどか)な午後の陽射(ひざ)しの中、操はひとり書と向き合っていた。

 そこへ、コトコトと扉を叩く音がする。

「蓮か?」

 筆を止め、呼び掛けると、少年が愛らしい(かお)(のぞ)かせ、にこりと笑った。

「目が覚めたか」

 待ち兼ねていた操が早速手招くと、蓮は操のもとへと歩を進めた。

 ふわりと腕に(すが)る仕草に良い薫りが(ひろ)がって、操はそれを(たの)しみながら髪を絡め、蓮を抱き締めた。

「今日は顔色も良いようだな」

 気分の良い様子が何より嬉しかった。

 蓮がふと文机へ瞳を向ける。

「そなたが読みたがるゆえ、急いでまとめておるのだ。いずれきちんと本にしたら、まず蓮にやろうな」

 操は昔から文武両道良く学んだが、学問では特に兵学を好んだ。

 各兵法家から抜粋した書を編纂し、四散していた孫子のそれを集めて注を付ける作業を多忙な中進めていた。

 急激に書を読み()くようになった蓮は、操の書くそれをせがむように読み進める。操は時間を見つけると、前にも増して筆を()るようになっていた。

 蓮は操の言葉に嬉しそうに(うなず)くと、胸に甘えて頬をすり寄せた。

 仕事中でないと解って安心したのだろう。

 物欲しそうに操の(くちびる)を指でなぞっていたが、やがて(つい)ばむように自らのそれを重ねる。

 幾度目かのそれが甘く絡み合い、蓮が覆い被さるようにふたりはその場にもつれた。

「こら。(わし)を襲う気か」

 操は笑いながら、そんな蓮を抱き止める。

(からだ)は良いのか?」

 蓮は自重する気などないのだろう。

 ひとつ(うなず)くなり操の(えり)元に手を差し入れ、首筋に脣を這わせる。

 操……

 それが、彼の名を(かたち)取った。

 思わず操も身を震わせて、その耳朶(じだ)へと脣を寄せた。

「誘惑しおったな。困ったやつだ」

 操はそっと蓮を組み敷くと、潤んだ瞳を覗き込む。

「良いか。ゆっくりとだぞ」

 こくりと頷く蓮に、操の脣が重なった。

 (から)め捕り、吸い上げると、蓮は身を震わせて腕を伸べる。

 白くなめらかな首筋を辿(たど)り、はだけた胸元へ舌を這わせると、そこはすでに乱れて浅い吐息で上下していた。

 たぎるような蓮の欲情を抑えるように、ゆっくりと操は蓮に触れた。

 蓮は転がるような吐息を(こぼ)し、操のぬくもりを求めて(ふところ)から手を差し入れる。

 (ころも)を抜こうとした手が、ふと止まった。

 回廊を足音が近付き、扉の前で(かしこ)まった。

主公(との)

「人払いだ。後に致せ」

 せっかくのところを邪魔されて、機嫌を損ねた操は、無下に追い払おうとする。

 だが、このあるじに仕える近習も心得たもので、用件を告げるだけ告げた。

「夏侯将軍よりご使者でございます」

 思わずふたりは貌を見合わせ、どちらからともなく吐息をついた。

 蓮は泣きそうな貌で躰を起こし、乱れた襟を整える。

「……解った。公室へ通せ」

 元譲よ、(うら)むぞ……

 内心で(つぶや)く。

 だが、相手は戦場にいる身である。愚痴を言ったところで、一喝されるのがオチだろう。

 苦笑しか出て来ない操の髪を、そっと蓮が撫で付けた。

「このままで良い」

 冠を整えようとするのを押し(とど)め、操はその手を引いて胸へと抱き寄せた。

「蓮……」

 強く抱き締める腕に、その(つら)さが伝わって、蓮は涙をこらえて笑顔を上げた。

「協議が終わったら訪ねよう。室に戻っておいで」

 腕の中で(あご)を引き、蓮は表へ向かう操を見送った。

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