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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
109/138

百八.

 蓮は少し(からだ)を丸めるようにして牀に在った。

 蒼褪(あおざ)めた頬に涙を残したまま、その肩が時折不規則な呼吸に揺れる。

 (ひたい)にはまだ微熱があった。

 操は指先でそっと蓮の頬を拭うと、闇から守るように傍らへ身を伸べた。

 せめて穏やかに眠れるようにと……。

 朝方目覚めた蓮は、暖かな腕に包まれている事を不思議に思った。

 それとも、まだ夢の中にいるのだろうか?

 それならどうか()めないで欲しい……

 心地良いそれを離したくなくて、ぬくもりに身を寄せ瞳を閉じる。

 そんな蓮の髪をゆっくりと撫でながら、操は穏やかなひとときを過ごした。

 やがて本格的に覚醒した蓮は、自分を包み込むそれが夢ではないような気もして、怪訝(けげん)そうに視線を上げた。

 そんな蓮を落ち着かせるように操が(ささや)く。

「昨日遅くに来たのだよ」

 蓮は少し虚実が混同しているようで、確かめるように操に触れた。

 不思議そうな蓮を笑い、そっと接吻(くちづ)ける。

「どうだ? (うつつ)に感じられたか?」

 蓮はまだ不可解な顔つきながら、にこりと笑い、操の胸に頬を寄せた。

『蓮は操の夢を見ていたの。そうしたらここに居たから、まだ眠っているのかと思った』

「そうか。具合はどうだ。苦しくはないか?」

 蓮はこくりと(うなず)き、操の指を(もてあそ)ぶ。

『起こしてくれれば良いのに……』

 少し不満らしく、愛らしい(くちびる)(とが)らせる。

「はは。良く眠っていたからさ」

 操は愛しさのあまり蓮を抱き寄せた。

「蓮。共に府へ行くか?」

『行っても良いの?』

「そう思って輌を用意してある。慌ただしくてすまぬな。もう少しゆっくり出来れば良いのだが」

 そんな操に首を振り、笑みを寄越す。

『来てくれてありがとう。蓮は嬉しい』

 腕を廻して抱き着くと、その体温を味わうようにしばし頬を寄せた。

 やがて躰を離した蓮の瞳は、潤んで濡れていた。

『すぐに仕度をするから待っていてね』

 涙を殺して笑うと、そう記し、牀を出て行く。

 操が多忙である事も、無理を通してここに来た事も、解っているのだろう。

 互いを欲しながら、口に出せば相手を困らせる事も、蓮は承知していた。

 おそらくは府へ戻る事もないと覚悟していたのだろう。

 そんな蓮が哀しかった。

「抱いて行こう」

 操は壊れ物を扱うようにそっと蓮を抱き上げると、府へ向けて輌を進めた。

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