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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
104/138

百三.

 もう許へ着いたかな……

 牀の中で操を想う。

 小さな発作ではなかったが、周りの迅速な行動が蓮を救った。

 病を完治させる有効な手立てはなかったが、血脈を整えてもらうにつれ少しずつ楽にはなって、この数日は置き上がれるまでに蓮は回復していた。

 だが、明日にも操が許へ戻るとの知らせに、一気に(とこ)を上げたのがまずかった。

 凱旋を迎えに行くつもりだったので、髪を洗うの湯を使うのと立ち騒いだあげく、蓮はすっかり疲れてしまい、夕刻から高い熱を出して()せった。

 熱はだいぶ下がったのだけれど、婆は絶対外に出さないと息巻いて、蓮を牀へと押し込める。

 帰還する気配が少しでも伝わらないかと耳を澄ませてはみるが、それがここまで届くはずもなかった。

 逢いたいなあ……

 もう数日の辛抱だと思ってみても、寂しさのあまり涙が(こぼ)れる。

 それを拭い拭い夜具(やぐ)(からだ)を丸めたところへ、馬の(いなな)きが聞こえたような気がした。

 空耳かと思ったが、ざわざわと立ち騒ぐ気配が近付く。

 ――なんだろう?

 身を起こした蓮のもとへ、その人が飛び込んで来た。


「蓮!」

 呼ぶなり、操は蓮を胸に抱いた。

 まだ軍装も()いていない。

 彼が動くたびに武具が音を立て、蓮にその体温さえ伝えてくれない。

 だけど……

 思い掛けないそれに、涙が零れた。

「すまぬ。痛かったか?」

 咄嗟(とっさ)の行動を()び、それを解いた操に首を振ると、蓮は自分から腕を伸ばした。

 (すが)りつく蓮を、操はしっかりと抱き留めてくれた。

「良かった……」

 吐息をつくように(つぶや)く。

 蓮の知らぬ間に知らせが行ってしまったのだろう。

 どんなにもどかしい思いで戻って来てくれたのか、その一言で痛いほど伝わった。

 申し訳ないと蓮は思った。

 砂塵(さじん)に汚れたままの頬を撫でる。

「ああ、こんなナリですまんな。一度府へ入ったものの、矢も盾もたまらず馬を返してしまったのだ。誰ぞ、追ってくるかもしれんな」

 操は笑いながら蓮の涙を拭う。

「熱があるな。(つら)くないか?」

 大丈夫だと蓮は笑った。

「そうか。それならまた出直して来るからな」

 名残惜しそうに瞳を(のぞ)き込みながら、操は蓮を離した。

 思わずそれを引き止める。

 せめて……

 操の(くちびる)に指を伸ばし、求める。

 彼は察し、甘く接吻(くちづ)けてくれた。

「なるべく早く戻る」

 そう言い置くと、操は足早に室を出て行った。

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