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三國志抄 戀〜lian〜  作者: 月
102/138

百一.

 城を取り囲んでしばらくが過ぎたころ、操は軍師の荀公達と軍師祭酒の郭奉孝を召し、極内輪での軍議を重ねていた。

「このままでは劉表の援軍がやって来ますぞ。いい加減、何を(たくら)んでいるのか教えてくだされ」

 ぷんぷんと攸は怒ってみせる。

「企んでいるなどと、人聞きの悪い事を申すな」

 操は笑って見せるが、彼のそんな顔が通用する攸ではない。

「まあ、そう怒るな。(わし)とて、とっととケリを着けて帰りたいのが本音だが、敵もなかなかにがんばる。どうしたものかな」

 その視線が嘉へと向けられた。

 攸もそれに続く。

「ケリを着けろと仰るのなら、荀軍師の策を用いればよろしいかと。今からでも遅くはありますまい。ですが、ここまで来たのなら、いっそ呂布を吊り上げませんか?」

 その言葉に操がにやりと笑う。

 彼もとっくにそれを考えていたのだろうと、全てを飲み込んだ攸が首を振った。

「まったく。早く言えば良いものを。なんて人の悪い。どうせ、軍を進めた当初から考えておられたのでしょう」

 ギロリとふたりを(にら)む。

「公達よ。人が良くては軍師は務まるまい?」

 お前も同類だと君が笑う。

「それで、負けたように見せながら、被害を受けずに勝利せよと仰るか?」

「そこまで解っていれば話は早い。すぐに餌を()け」

 ぽんと操が攸の肩を叩いた。

 ほどなく陣中に袁紹が許を(うかが)っているとの報が届き、操は撤退を指示した。

 無論、(ちょう)(はな)ってあるから敵には筒抜けである。

 案の定、彼らは退く曹軍を追った。

 それを罠に()め、敵に損害を与えながら、大敗だと曹軍は天下に吹聴した。

 さらに劉表の援軍がその退路へ廻り込む。

 敵を迎え撃ちながらの退却に、行軍は僅かばかりしか進まなかったが、そんな中でも操はいたって上機嫌であった。


主公(との)。もう少しそれらしいお顔をしていただかねば困ります」

「おお、そうか。だが、どちらにしろ、ご機嫌麗しいと蓮に書き送るのであろう? (うそ)を書かずに済むではないか」

 にやにやと笑う君に、嘉は(はばか)りもせずに溜め息を返した。

「この状況をどう書き記せば良いのやら、悩んでおりますのに」

「なんだ。そのまま書き送れ。許に向けて退却しているが、行軍は遅々として進まず。だが、必ず破ってみせるゆえ心配するなと。そちから言われれば蓮は安心するぞ。孤がもう、奉孝がなんとかするから大事ないと知らせてしまったからな」

 からからと笑われて、嘉は思わず頭痛をこらえる。

「そちはおもしろいな。まだまだ絞れば次々と策が出て来るのであろう。奉孝の頭の中には何が詰まっておるのかな」

 それはこっちの台詞だと、愉快そうな君に思う。

 多芸多才なこの人に言われても、あまり嬉しくはなかった。

「そう仰る相手は、私ではなく公達殿でしょう。主公の無理難題に良く(こた)えていらっしゃる」

「孤の無理難題か?」

 意味ありげな視線が流れる。

「もう安衆は間近だな。どう料理してくれよう」

 忍ぶように君が(わら)った。

 結局彼はこの状況を悲観もせず、勝てると踏んでいるのだ。

 孫子に“帰師(きし)(とど)むるなかれ”と云う言葉がある。帰路にある兵と戦うと、帰りたい一心で反撃するから、苦戦は(まぬが)れないと(いさ)めているのだ。

 兵法に精通している彼は、こんな状況でも自信に満ちていた。

 安衆で張劉連合軍と対峙(たいじ)した曹軍は、苦戦を重ねながらも策を()らし、やがてそれを打ち破るのだった。

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