九.
翌日、昼近くにようやく重い頭を上げた蓮は、泣き腫らされた真っ赤な瞳をしていた。
ひと晩中苛まれたのだと、誰の目にも明らかだった。
衣を払った白い肌に刻まれた、愛撫の跡が生々しい。
ぬるい湯に身を沈めた蓮は、それが滲みたのだろう。眉根を寄せて貌を背けた。
そんな蓮の様子を伝え、婆は操に苦言を呈した。
惨い。と言うのである。
いつもなら婆の言にも耳を傾ける操だが、鼻先でそれを笑った。
「後で行く」
婆は溜め息を持って辞すしかなかった。
解っていたのだ。今あの子を救うには、より強い支配者が必要だと。
夜の夢に訪れて苦しめる、過去の亡霊ではなく、それを上回る、強く巨大で、現実のものとして目の前に立ち塞がる力――
そして蓮は、それに立ち向かわねばならない。
惨い……
再び婆は思った。
運命とは、なんと皮肉なのだろうと。
婆にその豊かな髪を梳かれていた蓮は、室を訪れた影に脅え、身を翻した。
少し足を引き摺りながら奥へと逃げ込む姿に、影の主は苦笑を漏らした。
「一夜で嫌われてしまった」
そんな操に、やれやれと婆は溜め息をついた。
「明日一日時間が出来た。蓮を連れて行くぞ」
室を辞す婆に操が告げた。
歳若い天子を迎えたばかりで国事に追われている彼が、丸一日という時間を割くのは容易なことではない。
それを無理にでも叶え、蓮のために使う。
その意味を、あの子は解っているのだろうか。
そんな婆の思いを一笑に伏し、操は室の奥へと屨を進めた。
暗い室の片隅の小さな影にゆっくり近づくと、操は傍らに屈み、背に流れる髪を取る。絹のようなそれに接吻けると、蓮は小さく吐息を漏らし、身を震わせた。
「そなたは髪の先まで感じるのか」
からかいの言葉から逃れるように身を捩る蓮を抱き止め、細いうなじに舌を這わせる。
「牀よりここが良いのか?」
はっとした蓮が身を翻そうとしても遅かった。
抗うのをその場で組み敷き、白い肌を夜へとさらす。
そこに短く愛撫を加えると、操は衣を背に纏ったまま押入るように蓮を抱いた。
さすがに苦しいらしく、蓮は声にならない悲鳴を上げて、操の衣に爪を立てた。
「その程度では傷ひとつ負わせられぬぞ」
操は蓮をきつく抱き締め、乱暴に腰を動かす。
一気に高みへと衝き上げられた蓮は、そのまま操の腕の中で意識を失った。