表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

53話~60話

 ※53「古の存在」


 私のおばあちゃんは、生粋の猫又だ。

 物語に出てくるような魔法じみた力を使える。その中には、ひみつ道具のように便利な力もあったけど、本人の意志とは無縁に発動するものもあった。

「私はね。そこにいるだけで、ヒトに富をもたらすんだよ」

 招き猫。という置物があるだろう。私はねぇ、まさにそれなんだ。

 おばあちゃんは、あまり自分のことを語らない。

 週末にやってくる使用人を除き、私たちは二人きり、人気のない山間の僻地。古びた大きな家の中。とてもゆったりとした、時間が止まった様な場所で静かに暮らしていた。

「でもおまえには力がない。ただ、ヒトと猫の間を彷徨うだけだ」

 お婆ちゃんは繰り返し、私に言った。

「なにももたない、望まない、ただの猫として生きるのが、平和で良いと思うけどね。おまえも縁側で日向ぼっこするのは好きだろう?」

 その時の顔は、寂しそうで、すまなそうで。

 私も心の中ではそうだと思う反面、むず痒くて、耐えられない気持ちが押し寄せた。それを突き詰めていくとたぶん「私がニンゲンを選んだら幸せにはなれないよ」という、遠回しな忠告を感じ取ったからだと思う。


 ――幸せになれるかどうか、決めるのは、私でしょ。


 反感があった。子供らしい「やってみなくちゃわからないでしょ!」という気持ち。でも同時に、ずっとまとわりついている、ほの暗い感情もあった。


 ――おばあちゃんは正しいよ。だって、私の両親は、私を捨てたのだから。


 正しいヒトじゃなかったから。形が定まらず、いつも〝ふあんてい〟だったから。


 ――一体、どちらが正しいの?


 もし、この世界のどこかに、私を受け入れてくれるヒトがいたとしても。そのヒトもきっと、どちらか一方だけを望むだろう。それに私の心が応えられる自信はなかったけれど、

「嫁さん、朝だよ」

 一人いた。両方の私を必要としてくれるヒトがいた。



 ※54「嫁さんと、低血圧」


 私は朝起きるのが苦手だ。嫌いなものを一つだけあげなさいと言われたら、まっさきに目覚まし時計の名前が浮かぶ。

 ヒトとして生きることを決めた日。私の身体と心は、少しずつ〝安定〟しはじめた。

 それまでは一週間のうち、半分以上の時間を猫として過ごしていたけれど、次第にヒトの形でいることの方が多くなった。

 時々、猫の姿に変わった時、世界のなにもかもが巨大に映り、毛皮だけの姿を自覚すると、むしょうに恥ずかしくなって、ベッドに潜り直したこともある。

 道を決めてからは、ヒトの世界で生きてきた。ヒトの時間を流れてきた。けれど、朝に目を覚ますのがツライのはいつまでも変わらず、やっぱり猫のままの方が良かったなぁ。と後悔することも多い。

「――嫁さん、朝だよ」

 だけど今の目覚まし時計は、これまでのジンセイの中でも、とびぬけて素敵だった。リンリン耳をつんざく音もなければ「いつまで寝てるの、そんなんじゃ嫁にいけないよ」と面倒なお小言を口にすることもない。

「嫁さん、起きてくれ。朝だ」

 そのヒトは私とは真逆だ。自分の中で、とても正確な時を刻み続けている。

 焦らず、頑固で、辛抱強い。ただゆっくりと、こっちの肩を揺らすだけ。静かな森の囀りのようなやさしい声で、同じ言葉をかけ続けてくれる。だからか、時々いじわるしたくなる。

「嫁さん? どうした、起きてくれ」

「…………」

 子供みたいに、眠った振りを続けるとどうなるか。試したりしてみたくなる。

「起きないと、しっぽ触るぞ」

「っ!」

 忘れていた。今日は日曜だった。二股のしっぽに伸びた手を、肉球ぱんちで払い退ける。

「痛っ」

 しっぽはダメ。ダメったら、ダメ。ニンゲンの裸は何度もさらしているし、あんなことや、こんなことをする日もあるけれど、しっぽだけは、ダメなんです。

「にゃあにゃあ!」

 ぴしぴし、叩き続ける。私の旦那さんは、さすがに煩わしそうな顔をした。

「……嫁さん、朝食抜きな」

「ふにゃあ!?」

 しまった。静かに、本気で怒らせてしまった。



 ※55「旦那さんは、クリエイター」


 旦那さんの実家はケーキ屋さんをやっている。お義父さんと、お義母さんは、とても美味しいケーキを作って、贈ってくれる。私たちの結婚式のウエディングケーキも、二人が担当してくれた。お義父さんは号泣していた。なのに、私の旦那さんと来たら「ケーキは食べ飽きたよ」なんて言うのである。非常に贅沢な人だ。

 そんな旦那さんは、日曜日の朝、決まってホットケーキを焼く。

「嫁さん、できたよ」

 彼が初めて覚えた料理が、ホットケーキだったそうだ。実家のアルバムには、四歳でエプロンをつけた旦那さんを撮った写真がある。

 台座に乗って、大きなヘラを操り、ホットケーキをひっくり返そうと悪戦苦闘したり、初めて作ったホットケーキをお皿に乗せて、満面の笑顔でピースしている超可愛い男の子がいる。

 萌え死ぬかと思った。あと、羨ましかった。


「……うん、うん……」

 日曜日の朝ごはん。なにも付けていない、プレーンなホットケーキを口にしながら、彼は誰ともなく小言を呟いたり、頷いたりを繰りかえす。

 その側で私もまた、朝はダイエット用の安いキャットフードを食べながら「始まったか」と思いながら、彼の様子を観察する。

「……よし。あぁ、いいぞ……うん。そうだ……もう少し奥行きを出して……」

 正直、初めて見た時は、ちょっとひいた。うん。ちょっと。すごくちょっとだけね。

「悪くない。よぉし、悪くないぞ。それでいこう……」

 フフ。ハハハ、アハハハハ……。旦那さんの表情に色濃い笑みが浮く。

 私はこれを『朝の暗黒微笑タイム』と呼んでいるのだけど、絵描きさん、あるいは、漫画とか小説とかのクリエイターと呼ばれるヒトは、みんなこういう一面があるのだろうか。

 あんまり知りたくないので、深入りはしない。

「ククッ、ごちそうさまでした」

 旦那さんがしっかり両手を合わせて席を立つ。それから、自分と私のお皿を持って、流しに運んだ。その後、彼は私を一撫でして仕事部屋に入っていく。そこは、奥さんの私ですら立ち入れない場所だ。

「――にゃあ」

 この家の居間は、よく陽が入る。今日は良いお天気で、きっと雨は降らない。私はPCタブレットの前に座り、いつものようにタブを開いていく。平日にデジカメで撮った写真をネットにあげる。ニンゲンの目で見て、手で触れて、記憶した欠片を知ってほしくて。



 ※56「決別の選択」


 私の家にはアルバムがなく、一枚の写真もない。お婆ちゃんが、そういう物を嫌うからだ。

「むかし、ヒトと暮らしていた頃の記憶はね。もう何処にも残しておきたくないんだよ」

 その言葉に、どんな意味が込められているかは知れない。

 ただ、百年以上の〝人生〟を生き延びる間に、幾人もの男性と恋をしたのは確かだ。相手の男性はみんな、富を持って幸福になった。だけどその男たちは全員、様々な形で亡くなった。

「寿命で、病気で、戦争で。中には呪い殺してやろうか。なんて思ったのもいたっけねぇ」

 最後のは冗談だよ。とお婆ちゃんは言ったけど、真相はやっぱり知れない。

 ただ、そういった恋愛を含めた人生を繰り返して、お婆ちゃんは最終的に世俗を断った。

「永く生き過ぎたせいでね。もう猫の姿には戻れず、ヒトの姿で安定してしまったんだよ」

「あんてい?」

「それが、私に相応しい生き方ということだね。おまえは、まだまだ不安定だ」

「どうしたら〝あんてい〟するの?」

「さぁねぇ。それはおまえ自身が求め、決めることだ。ただ、ヒトとして安定することは、無理だろうね」

「どうして?」

「向いてないのさ。毎日、大勢のニンゲンと暮らしてお喋りするよりも、そっと、静かに息を潜めている方が落ち着くだろう?」

「わかんない。けど、学校はあんまり好きじゃない……」

「ふっふ。そうだろう。おまえには猫の方が合ってるさね。ほら、食事にするよ」

 お婆ちゃんには、不思議な力があった。その中には、未来が見える予知もあった。

 大きいものから、小さなものまで。深く広く見渡せる瞳には、この国のえらいヒトたちが、今も密かに頼っていた。そのヒトたちはそれを、占い、あるいは予言と呼んでいた。

 予言を行う条件は、日曜日。この古い屋敷に直接、単独で来ること。面会は簾越しに行われ、お互いの顔は確認しないこと。返事はその場で行わず、後から謎かけのような書簡のみで返された。

「その広間は、けっして覗いてはいけないよ。もし約束を違えば不幸が起きるからね」

 どこまで本気かは、お婆ちゃんにしか知れてない。

 ただ、訪れるヒトたちは信じていた。大人たちは、誰もが不安げに、心細そうに、右往左往しながら、肩を縮こませてやってくる。私は猫の姿になって、物陰からそんな様子を窺ったりしていた。お婆ちゃんにはもちろんお見通しだった。

「さて。おまえは人間になりたいかい?」

 お婆ちゃんはいつも、広く深く、静かに、私に問いかけた。



 ※57「嫁さんと、個人情報」


 私的なことを言えば、旦那さんとのいちゃいちゃラブラブツーショットを、ネットに投稿しまくりたい。けど旦那さんは「絶対にダメだ」と怒るので控えている。

 代わりに、平日の通勤途中に撮った写真や、旦那さんの実家から送られてきた美味しいケーキやお菓子をアップしている。

 反応がくるのは嬉しい。旦那さんも普段は「描いた絵は、受け手に渡った時点で俺のものじゃないから」と言うのだけど、良い反応があれば、やっぱり顔をほころばせる。

 私は、そういうのが好きだ。

 カタチとして残る、記憶の連なりが嬉しい。

 ニンゲンはやっぱり面倒だなと思う時があるけれど、ありのまま自然で生きる猫には、けっして見出せない喜びがある。――でも、もちろんその逆もあるのだ。


「喜びが大きければ、大きいほど。失った時は不幸になるよ」


 お婆ちゃんは言った。

「お日様を浴びて、時には雨に打たれる。それだけで、本当はとても幸せなことなのに。ヒトは、そのことを忘れてしまうんだよ。どうしてもね」

 猫になった私を膝に乗せ、背中を撫でながら語ってくれた。確かに私はそれだけで幸せだった。猫として生きる可能性も存在した。でも、

『うちの嫁さんは可愛いなぁ。深夜のアニメ枠で放送とかしないかなぁ』

 ただの猫は、吾輩は、ツイートという高等な芸ができないのである。ぽかぽかお陽さまのあたる部屋で、こたつ机の上をタオルケットを被って優雅にゴロゴロしつつ、タイムラインを流れるおもしろ画像を見れないし、写真のアップロードもできない。

『撮った写真いつも楽しみにしてます。何気ない日常に風情が感じられますね。流石です』

 吾輩は、ゴロゴロしてるだけでも、誰からも称賛されない。

 いいよ~。もっと褒めて褒めて~。

 旦那さんは、ぜんぜん、その辺りの事情がわかってにゃい。お嫁さんを蔑ろにして、仕事に明け暮れるひどいヒトなのである。

『美しい、完璧な、この世に二人といない嫁さんの御姿をぜひ、拝見したく候』

『嫁うp希望』

 えへへへへ。照れちゃうな~。でもな~。旦那さんに身内バレする写真は止められてるしなぁ。困っちゃうなぁ。ふふふふふ~。

 最近、私はこうも思う。やっぱりニンゲンも、たまにはいいよね!



 ※58「ダメだこの嫁、俺がしっかり見てないと…」


 嫁さんは凡欲にまみれている。一歩間違えれば、絶対に〝炎上〟するタイプだ。ハッキリ言って自制心が低い。なので普段から、彼女の機嫌が悪そうであれば、実家からのケーキや物を与え、ヘマをしないように管理してやっている。

 おかげで気苦労は絶えない。だが限界が近づいてくると、対価として、たまに猫の姿で甘えてくるので、ふわふわの毛並をなでることで、こちらも精神の安定を図っている。

 その辺りができるまでは、割と喧嘩が絶えなかったが、最近は互いの距離感というか機微を理解し、二人して悟りを開いた感がある。

 もし、貴方が賢者に転職したければ、とりあえず結婚することをオススメしよう。遊び人のレベルを20まで上げる必要も、悟りの書も不要だぞ。


 日曜日の夜。腹にたまる食事をして、風呂に入り、人間的な感覚を取り戻した。あと数時間もすれば憂鬱な月曜がやってくる。この時間帯は『サザエさん症候群』が発生するそうだ。

 実家の場合は、どちらかといえば逆だった。定休日を月曜にしていた両親はむしろ、のんびりとした調子で、サザエさんのテーマを鼻歌で合わせていた。

『おさかにゃくわえた、どぉらぁねぇこぉ~……』

 実家近くの商店街には、月曜も開いている理髪店があったので、父親に至っては毎週「明日は髪切りいくか~」とか言っていたものだ。

『をーいかけーてー……』

 父親にとって、サザエさんのテーマは、一仕事終えたあとの、リラクゼーション効果のある音楽だったはずだ。最後のじゃんけんは、決まってチョキを出していた。

『はーだしーでぇ、やってーくるー……げつよーびぃ~……』

 ツイートのタイムラインが流れていく。

 目の前に座ったタマ、ではなく、嫁さんが、虚ろな眼差しでキーを叩いていた。

『さぁ、でーかけよーおー。かーいしゃーへー。しりょー、どうぐーつめこんでぇー』

「嫁さん、それ、ラピュタな」

 真人間に戻っているので、突っ込む余裕もある。対して嫁さんの背中はひどく小さく、俺の突っ込みを無視して、延々と月曜日への呪詛を謡っていた。

『吾輩は猫である! 働きたくないのである! やっぱり家が一番である!』

「……バレたら実家に帰るんじゃなかったのか?」

「にゃあにゃあにゃあああ~~~んっ!」

 駄々をこね始めたので「よしよし、いい子だから明日から頑張ってな」と撫でてやる。

 そしてこれが、日曜の仕事を終えた自分へのご褒美である。我ながら、安かった。



 ※59「旦那さんのメモ帖」


 この家で暮らすようになってから、体内時計の針は狂うことが減った。

 平日は毎朝六時半に目を覚ます。昨日と違って身体が軽いのは、猫の嫁さんがどこにも張り付いていないからだ。

「……すぅ、すぅ、すぅ……」

 その代わり、隣の枕下からは、ささやかな寝息が聞こえてくる。彼女を起こさないように(といっても些細な音では起きないのだが、)静かに布団をめくり、寝室を後にする。

 階段を降りて顔を洗った。寝癖が少しついていたので、櫛と寝癖なおしを使って、そこだけ手身近に整えた。あとは朝食をとってからでいいだろう。台所に向かう。


 米櫃から、今日一日分の米を落とす。洗ってといだら、炊飯器に入れて味噌汁の準備だ。

 平日の朝は基本的に和食のみ。白米は至高。俺は甘いものは苦手だが、酢の物や漬物は得意な方で、炊き立ての米に梅干しを乗せ、海苔を巻いて食べるのが一番好きだ。沢庵も良い。

(そういえば、あれは何時だったかな……)

 確か小学生ぐらいの時、ごはんのおかずに沢庵だけをモリモリ食っていると、あきれた父親が「沢庵だって砂糖が入ってるはずだぞ」と言い放ち、心底おどろいた。


「閃いた! 父さん、沢庵ケーキを作ろうよ! 新商品だよ! 売れるよ!」


 小学生の俺が目をキラキラして言うと、父親は「まぁ考えといてやるよ」と言って、どこか寂しげな顔をした。あの日「コイツ、ケーキ屋には向いてねぇわ」と悟ったのかもしれない。

 そんなどうでもいい回想が終了するまでの間、味噌汁を作り終え、冷凍のししゃもを焼いて、卵焼きを作り、ゴマ和えのほうれんそうと一緒に皿に乗せてから、エプロンを外した。

「よし、嫁さんを起こしに行くかな」

 時間は七時十五分。いつも通りだ。スケジュールが狂わないことは気持ちが良い。ひとつ満足して階段のある廊下に向かうと、

「ふわあぁ~。……あっ、旦那さん、おはようございます」

 若干、千鳥足の嫁さんが、欠伸まじりに階段を降りてきた。なんということだ。

「嫁さん、アンタ、なんで一人で起きてくるんだ」

「それはまぁ、私にだってそういう日もありますよ。褒めてください」

「ダメだ。やりなおし。カット、ボツ、リテイク」

「はい? なに言って――ちょ、きゃあっ、旦那さん!?」

 嫁さんを抱きかかえて、俺は階段を上がり、布団の中に放りこんだ。



 ※60「嫁さんと、CONTINUE」


 月曜日。いつもの憂鬱が押し寄せてくる日、珍しく自力で目を覚ました。眠たいなぁと思いながら階段を降りると、ちょうど私を起こしに来るつもりだった旦那さんと顔を合わせた。

「嫁さん、アンタ、なんで一人で起きてくるんだ」

「それはまぁ、私にだってそういう日はありますよ。褒めてください」

 冗談交じりに伝えると、何故か怒った顔をされた。

「ダメだ。カット。やりなおし。ボツ、リテイク」

 旦那さんは、ずんずん大股で近づいて、私の身体を抱きかかえた。意外と力持ちな彼だが、さすがに階段を上がるのは辛いのか、ぜぇぜぇ息を荒くして、寝室の布団に「おらっ」と投げられた。ぐんっと、顔が近づいてくる。

「だ、旦那さんっ、これから仕事に行くのに、そんな、朝から……っ!」

「嫁さん、朝だ。起きろ」

「………………はい?」

「よし、起きたな。飯できてるから、早く降りてこいよ」

 近づいていた顔が離れる。そのまま背中を向けて、去っていこうとする。

「いやいや、ちょっと待ってください!?」

「なにが」

「なにがじゃないでしょう!? お姫様だっこからの、お布団連行ダイブで、なにもせずに起きろは意味がわかりませんっていうか、私、起きてましたよね!?」

「だらしなく眠っている嫁さんを起こすのは、スケジュールの一環に入ってるんだよ。きちんと実践しないと、気持ちが悪い」

 旦那さんは、猫又の私が言うのもなんだけど〝変わりモノ〟過ぎる。


 朝ごはんを食べて、デザートに、スティックケーキを半個平らげる。美味しかった。

 それから身だしなみをしっかり整えて、スーツを着る。腕時計をつけて、ビジネスバッグの中身も確認して、スマホの充電もチェック。最後に旦那さんに声をかける。

「それじゃ、行ってきますね」

「わかった」

 二人で玄関先に向かう。パンプスを履いて、彼と向かい合う。

「では旦那さん、いつものお願いします」

「ん」

 頬に手が伸びてくる。軽く目を閉じると、唇に優しい感触が降ってきた。元気がでる。

 今日も一日、がんばるぞい!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ