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004 校内探索

 

 教室を出ても相変わらず校内放送は鳴り続いていた。

 僕らは慎重に廊下を歩いていく。


「特に荒らされている様子とかは無いですね……」


 何故か僕の後ろに隠れるようにしながら里香が呟く。

 さっきはあんなに威勢よく戦っていたというのに……。


「油断はしないで。どこから飛び出してくるかも分からないんだから」


「大丈夫ですよ! 楠先生は俺が命に代えても守りますから!」


 胸を大きく叩き、良い顔をしようとする大輝。

 僕は軽く溜息を吐き、先へと進む。


 隣のクラスの扉を楠先生が遠慮がちに開ける。

 中にはうちのクラスと同じように生徒らと担任教師が怯えた表情で蹲っていた。

 軽く事情を説明した楠先生は、決して教室から出ないようにと強調する。

 隣のクラスの担任は、確か楠先生の後輩だったと思う。

 頼りない感じの童顔の女教師。

 完全にガクガクと震えていて、周りの生徒に慰めて貰っているし。


「じゃあ、後は宜しく頼むわよ。今のところ教室の近くに獣はいないみたいだから、私たちが出たら外から扉が開かないようになんとか工夫して」


「は、はい……!」


 震えた声で返事をした担任教師。

 僕らはその姿を確認して教室を後にする。



「楠先生。どうして僕の『見る力』を説明しなかったんですか?」


 教室を出た僕はすぐに楠先生に質問する。

 さっきはクラスメイト全員を『解析』させたのに、今回は何故そうしなかったのかと。


「お前馬鹿だな。他のクラスの奴らよりうちのクラスのほうが優秀だと思い知らせるために決まって――」


「違うでしょ。馬鹿」


 横から大輝の頭にチョップをかます里香。


「た、多分ですけど……。こういった異常な状況下で興奮状態の彼らに、未だ謎に包まれている優斗くんの『解析』を説明するのは危険だと判断したんじゃないでしょうか……」


 おずおずと楠先生の代わりに説明する瞳。


「そうね。それもあるわね。それと今はあまり時間をかけられないし、中から扉が開かないようにしておけば、ある程度の侵入は防げるはずだから……」


「ああ、なるほど。そっちのほうが危険が少ないって訳ですね。もしも扉を破壊されそうなほど騒いだら、隣にいるうちのクラスの奴らも気付くでしょうし」


 楠先生の説明に大輝が納得の声を上げる。


「でも状況の判断がある程度済んだら、全員に説明しないと駄目でしょうけどね」


「……一体なにが起こっているんでしょうか……。私たちのこの『力』も、校舎の外にいる獣も……。なにもかもが謎だらけです……」


 身を震わせそう呟いた瞳。

 その姿を見てなにも言わずに里香が後ろから抱きしめてやる。


「とにかく、このまま理事長室に急ぎましょう。理事長ならばきっとすでに対応を取られているはずだから」


 楠先生の言葉に力強く頷く僕ら4人。

 最大限の警戒を解かぬまま、廊下を進んでいく。





 校舎を抜け、学園の敷地内に出た僕らは辺りを見回す。

 理事長がいる校舎は、この先にある中等部の校舎と寮の敷地の先だ。


「やっぱり居ないな……。学園の敷地内に侵入したのは、あの一匹だけだったんじゃないか?」


 安堵の溜息を吐いた大輝が腰に手を当てそう呟く。


「うちの校舎は敷地と外を隔てる塀がけっこう頑丈だもんね。もしかしたら異常に気付いた教員が即座に正門を閉めたのかも知れないし」


「ああ、なるほど。その時に一匹だけ紛れ込んじまったのかもな」


「でも、それなら校内放送で注意を呼びかけるんじゃ……。あれだけずっと流しているんですし……」


 瞳の鋭い指摘に口を噤む大輝と里香。

 もしかしたら、正門を閉めた教員はさっきの獣に――。


「理事長のいる校舎に行く前に、正門がきちんと閉まっているかの確認もしておきましょう。開いたままだとしたら、大変なことになってしまうわ」


「き、危険じゃないんですか……? もしかしたらさっきの獣の集団に襲われてしまうかも……」


「正門が開いてたらそっちのほうが危険だろ! ささっと確認だけ済ませば大丈夫だって、瞳!」


「う、うん……」


 瞳の不安を払拭するように、大きく胸を張りそう言った大輝。

 こういうときだけは異常に頼りになる。


「優斗くんは獣を見つけたらすぐに私達に知らせてね。私達の命運は貴方に掛かっているのだから」


「う……。なんかプレッシャーですね……」


 楠先生の期待が重く圧し掛かってくる。

 少しおなかが痛くなってきた……。


「もう、男の子でしょう! シャキッとしなさいシャキッと!」


「いてっ! ……背中を叩くなよ里香……」


 情けない声をあげた僕を笑うみんな。

 少しだけ緊張が解れてきたのだろうか。

 僕も釣られて笑ってしまう。


「さあ、気を引き締めて。大友くんと寺島さんは前衛、私と那美木さんは後衛で、優斗くんは中衛ね」


 楠先生の指示で一つに纏まりながら、僕らは敷地内を進む。





 広い敷地内を南へ進むと右手側に大きな正門が見えてきた。

 大人が2人がかりでやっと動かせるくらいの、巨大な正門。

 中等部と高等部、寮や体育館、実験棟、グラウンド、理事長棟などがある巨大な私立学園の象徴ともいえる門。


「ちゃんと閉まっているわね……。それにあの獣の集団……」


「うげぇ……。一体何匹いるんだよあれ……」


 楠先生の指差す先には、門外に蠢く獣の集団の姿が。

 奴らの頭上に表記されるステータスにはどれも『グランドビースト』と記載されている。


「正門の外にいる奴らだけでも100匹はいるでしょうね……」


「ひっ……! そ、そんなに……!」


 僕の言葉に震えだす瞳。

 それ以外にも、校舎の敷地をぐるりと囲うようにして奴らはうじゃうじゃと蠢いている筈なのだ。

 もしかしたら500匹とか1000匹くらいはいるのかもしれない。


「でもとりあえず、侵入は阻止できているみたいね。ここはもういいわ。理事長室へ急ぎましょう」


 正門の鍵を視認した楠先生は踵を返し、理事長棟へと歩を進める。

 

 

 僕らはなにも言わずに先生の後を追った。


















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