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039 真犯人は

 時刻は夜の22時。

 僕ら10名は土竜獣のダンジョンを抜け、砂漠地帯を足早に駆けていく。

 このペースならば深夜0時頃には学園に到着するだろう。


「くっそ、今思い出しても腹が立つ……! あの野郎……!」


 僕らの先頭を走る大輝が拳を握り締めそう呟く。


「うん……。でもそんなことに・・・・・・気付かなかった・・・・・・・僕にも・・・落ち度があるんだ・・・・・・・・


 僕も大輝と同じように拳を握り締める。

 今思えば、最初の段階で・・・・・・気付くべきだった。

 『医士ドクター』である遠藤先生と『看護士ナース』である畑中先生を、僕らの記憶から・・・・・・・消去したであろう・・・・・・・・容疑者を挙げたときに・・・・・・・・・・――。


高等部2年1組・・・・・・・辻雄一郎・・・・――。彼のジョブが『詐欺士トリッカー』だと知りながら、まんまと騙されてしまうなんて――」





 土竜獣のダンジョンの地下で目を覚ました御神さんと彩芽。

 僕らはすぐに、御神さんに『催眠』のスキルを解除するように要求した。

 目を丸くした御神さんだったが、周囲の状況に気付いたのか、すぐに『催眠』を解除してくれた。

 ――そして、僕らの記憶の中に遠藤先生と畑中先生が蘇る。

 

 4人の話を聞き、僕らは驚愕した。

 

 事の起こりは、辻が『グランドビーストの群れに生徒が捕まった』と遠藤先生と畑中先生に伝えたことから始まった。

 その言葉を信じた2人はすぐに学園を抜け、土竜獣のダンジョンへと向かったらしい。

 正門に待機していた教師らも、『理事長からの指示』だと信じ、2人を送り出してくれたという。

 恐らくここでも辻は『詐欺』のスキルを使用したのだ。


 次に狙われたのは御神さんだった。

 辻の言葉巧みな話術により、御神さんは皆から2人の教師の記憶を消すため『催眠』のスキルを使用したのだ。

 辻からは『皆に余計な心配をかけたくないから、一時的に2人の記憶を消して欲しいと理事長から頼まれた』と伝えられたらしい。

 そこにたまたま彩芽が手作りのお弁当を持って登場する。

 現場を見られたと判断した辻は、彩芽に対しても『詐欺』のスキルを使用した――。


 僕と瞳が容疑者の4人に事情を聞きにいったのが、このすぐ後だ。

 御神さんも彩芽も、辻の言葉に騙されて、僕に『真実』を黙っていたのだ。

 もちろん辻も飄々とした表情で僕に嘘を吐いた。


 しかし辻も焦ったのだろう。

 僕らが理事長へと報告にいっている間に、2人を学園から外へと誘導したのだ。

 そして2人は辻に言われるがまま、土竜獣のダンジョンへと向かってしまう――。





「グランドビーストの巣には決して足を踏み入れてはならないと言われていたのだけれど……。生徒が奴らに捕まったと聞いて、居ても経ってもいられなくてね……」


 申し訳なさそうに遠藤先生がそう話す。


「私もそうです……。それで、2人でダンジョンの中に入って……」


 遠藤先生の後に続いた畑中先生。

 2人のジョブは回復専門職だから、助けられると信じて向かってしまったのだろう。


「でもよく奴らに捕まらずに最下層まで行けましたよね……」


 瞳が疑問を口にする。


「ええ。相羽さんが作ってくれたこれ・・を持っていたから……」


 畑中先生は懐から一つの薬を取り出した。

 僕は咄嗟にそれを『解析』する。


------

携帯忌避剤(対土竜獣)

------


「忌避剤……? もしかしてこれでグランドビーストを……?」


 見た目は薬局などでよく売られている『ねずみ避け』の薬に見えるけど――。


「マジかよ……。そんな薬があるんだったら、俺らも持っていけばこんなに苦労しなかったのによ……」


 そう言い大きく肩を落とす大輝。

 しかしもう済んでしまったことは仕方がない。

 そもそも僕らはグランドビーストの巣に向かう予定ではなかったのだから。


「で、御神さんと彩芽はこの『忌避剤』を持っていなくて、奴らに捕まっちゃったってわけね」


 里香が後ろを振り向きそう話す。


「ちょっと! そんな言い方はないでしょう! 辰巳は私を助けるためにあの魔獣に襲われて――!」


「やめるんだ、彩芽。僕は本当に情けないよ……。君を守れなかったばかりか、辻にもいいように騙されて……」


「辰巳……」


 落ち込む御神さんに優しく手を差し伸べる彩芽。


「うわぁ、なにこの雰囲気ぃ……。あの2人だけ別世界みたい……」


「……俺も御神を叱ろうかと思ったんだがな。予想以上に上杉の嬢ちゃんに『本気』みたいでな……。何も言えなかったんだよ……」


 愛梨沙と真柴さんの言葉に僕らは苦笑してしまう。


「でもまあ、みんな無事だったんだし、女王ビーストも倒したし、あとは帰って辻の野郎をシバけば一件落着だな」


「うん。とにかく早く学園に戻ろう。畑中先生、その『忌避剤』はまだ余っていますか?」


「ええ。多めに持ってきているから、学園までは持つと思うわ」


 さっそく忌避剤を使用してくれた畑中先生。

 これで道中でグランドビーストに遭遇しても余計な戦闘を回避できる。


 ――そして僕らは最短距離で学園へと向かう。





 深夜0時。

 僕らの帰りを知らせる鐘が校内に鳴り響いた。

 重厚な正門が開かれ、僕らは学園敷地内へと足を踏み入れる。

 そしてそのまま理事長棟へと報告に向かった。



「待っていましたよ。君達ならきっと、事件を解決してくれると信じていました」


 理事長は笑顔で僕らを迎えてくれた。

 しかし、僕らは絶句する。

 彼の横には蓮城先生に捕らえられた辻の姿が――。


「おいおい……。もしかして、理事長が真犯人をとっ捕まえたってことか……?」


 口をあんぐりと開けたまま大輝がそう呟く。

 辻は顔面蒼白のまま、床に正座をさせられていた。


「ええ。君達が出発したあと、辻君がやけにそわそわしながら正門前をうろついていたのでね。私の『教育』スキルで白状させてみたら……このとおりですよ」


「ひっ……! ごめんなさい、ごめんなさい……! ちょっとした悪戯心だったんだ……! まさかこんなに大事になるなんて、これっぽっちも――」


「言い訳はいいから黙ってろ! 今は理事長が話しているだろう!」


 蓮城先生に怒鳴られた辻は、そのまま大人しくなってしまった。


「悪戯心……? たったそれだけの理由で私たちは……」


 瞳が信じられないといった表情で辻を見下ろす。


「彼は『怖かった』のだそうです。藍田君らが報告してくれた巨人の存在――。いつ自らが命を落とすか分からない状況で、彼は死ぬ前に、自分の力を試してみたかった……。『詐欺』という能力がゆえに、同じ人間に対し、ね」


 辻を見下ろしながらそう話す理事長。

 辻は俯いたまま、唇を噛みしめている。


「彼の罪は非常に重い。しかし、藍田君らのお陰で、皆無事に帰還することができました。まさか女王ビーストまでも撃破してくるとは思いもしませんでしたが」


「分かるのですか?」


 理事長の言葉に驚き、ついそう聞き返してしまう僕。


「ええ。あれだけ深夜になると聞こえていた奴らの鳴き声が聞こえなくなったのです。理由は一つしか考えられませんからね」


 僕の質問に笑顔で答える理事長。

 まるで何もかもお見通しといった表情だ。


「彼の処分ですが、ここにいる蓮城先生に『封印』のスキルを使用してもらい、今後二度と『詐欺』が行えないようにしていただきました。本人も反省しているようですし、もしも皆さんの許しが得られるのでしたら、空き教室での1週間の謹慎処分ということにさせたいのですが、いかかでしょうか?」


 理事長の提案に皆が顔を合わせる。

 確かに辻は許せない。

 しかし、ここにいる誰もが辻に罰を与えようとは考えていなかった。

 

 しばらくの沈黙の後、僕は皆を代表して発言した。


「……分かりました。理事長がそう仰るのであれば、僕らはそれに従います」


「ありがとう。君達ならば、そう言ってくれると思っていました」


 ほっと安堵の溜息を吐いた理事長。

 そしてそのまま蓮城先生に向き直り首を縦に振る。


「ほら、立て辻。皆にきちんと謝れ」


 襟首を掴まれた辻は泣きだしそうな顔で僕らに何度も謝罪した。

 そしてそのまま蓮城先生に連れられ、理事長室をあとにする。


「ともあれ、これで解決ですな。じゃあ俺は仕事に戻らせていただきます。おい、御神」


「はい。伊ノ浦理事長、大変お騒がせして申し訳御座いませんでした」


 真柴さんに促され、深々と頭を下げる御神さん。

 2人もそのまま理事長室をあとにした。


「今夜はもう遅い。皆さんも教室に戻ってください。明日、またお話を聞かせていただきましょう」


 理事長の言葉で皆が理事長室をあとにする。

 最後に部屋を出ようとした僕は、ふと理事長の横顔を見てしまう。


 ――何故か彼は・・・・・驚くほど・・・・冷徹な表情で・・・・・・笑っていた・・・・・


 僕の背筋は一瞬にして凍ってしまう。


「……? おや、藍田君。どうかされましたか……?」


「い、いえ……。失礼しました」


 慌てて頭を下げた僕は、そのまま理事長に背を向ける。

 そして僕の背中越しに、彼はこう答えた。



「おやすみなさい。今夜は良い夢が見れそうですね――」

















第四節 土竜獣のダンジョン fin.

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