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037 皆で力を合わせればきっと

「うおりゃあぁぁぁ!」


 大輝が叫びながら地棘竜の剛牙剣を振り回し、グランドビーストの群れに突撃する。

 あれは大輝の得意技である『ぶん回し』だ。

 身の丈以上の大きさの大剣を、まるでジャイアントスイングでもしているかのように振り回している。


「《五月雨突きレイニィランス》!」


 その横では里香が、千年木の長槍を目にも止まらぬ速さで連続突きをしている。

 どのグランドビーストもほぼ一撃で消滅するほどの威力だ。


「ああ、もぅ! きりがないよぅ!」


 彼らの後ろで泣き言を漏らしながら、愛梨沙は光魔法を詠唱している。

 彼女の胸に眩い光が収束していく。


「今だ! 愛梨沙!」


 大輝の掛け声とともに大輝と里香が左右に飛び退いた。

 収束した光は愛梨沙の掌に圧縮されていく。


「いっけええぇぇぇ! ――《光子砲フォトンガン》!」


 愛梨沙の手から発射された光子は、まるでレーザーのようにグランドビーストの集団を焼き尽くしていく。


『ギギギィ……!』


 なんとか直撃を避けた一匹が、鋭い牙をむき出しにしながら愛梨沙に飛び掛かろうとした。


「おっと! そうはさせねぇぜ!」


 すぐ背後で構えていた真柴さんが警鉄棒を投擲する。

 それを避けようとしたグランドビーストだが、警鉄棒はまるで意思でもあるかのように追尾した。

 あれは恐らく『追尾攻撃』――。


『ブギェエエェェ!』


 大きく迂回し回りこんだ警鉄棒は、見事グランドビーストの腹部にヒットした。

 そしてボンっと音を立ててグランドビーストは消滅した。


「ナイス! 真柴さん!」


 大輝の言葉にガッツポーズで応える真柴さん。

 

 皆、この乱戦状態の中で必死に戦っている。

 絶対に生きて帰る――。

 そのためには――。


「優斗くん……! もう少しで追いつくよ!」


「ああ! 瞳は大輝たちに付与魔法エンチャントを! 僕は背後にいる奴らを足止めする!」


 彩芽達を救出し、10匹のグランドビーストを撃破した僕と瞳。

 そのまま僕らは大輝らと合流するために、ぞろぞろと湧き出してくるグランドビーストの群れを蹴散らしていた。

 しかし倒しても倒してもきりがない。

 ドーム状の遺跡の至るところに大穴が開いていて、そこからいくらでも湧いて出てくるのだ。


「四則演算――《乗算マルチプリケイション》!!」


 瞳が大輝らに向け付与魔法エンチャントを発動する。

 皆の攻撃力が一時的に高まる魔法だ。


「万物は神が与えし力に屈する――《結合ユニオン》!!」


 背後から迫ってくるグランドビーストの群れにアーツを発動する僕。


『ギギギィ!?』

『プゲエェェ!!』


 僕から一直線に伸びた線は扇状に広がり、グランドビースト達に襲いかかる。

 そしてそれに触れた奴らは、次々と結合していった・・・・・・・

 意識はバラバラで身体が一つとなった魔獣は、足元がおぼつかずにその場で地団太を踏んでいる。


「優斗! 待ってたわよー!」


 追いついた僕を歓迎してくれる里香。


「みんな、怪我は?」


「さっきの愛梨沙の『光子砲』と『HP変換』のスキルで全快したぜ!」


 僕の質問に笑顔で答える大輝。


「もーおー! 遅いー! 優斗ぉ! せっかく私のスキルで回復させてあげようと思ったのにぃ!」


「まあまあ愛梨沙ちゃん、いいじゃないか。で? そっちは大丈夫なのかい?」


 膨れっ面の愛梨沙を宥めてくれた真柴さんは、少し離れた場所にいる御神さんら4人を指差し、聞いてくる。


「はい。やはりあの2人は行方不明になっていた『医士ドクター』と『看護士ナース』でした。今は御神さんの傷を見てもらっていますが、恐らく大丈夫だと思います」


「良かった……」


 僕の言葉にほっと胸を撫で下ろす里香。

 しかしその間にもグランドビーストの大群は僕らを取り囲んでいく。


「くっそ、マジできりがねぇぜ……! やっぱあのデカブツを叩くっきゃねぇか……!」


 前方にいる巨大な女王ビーストに視線を向ける大輝。

 その周囲にも続々とグランドビーストの群れが集まってきている。

 恐らく女王を守ろうと、奴らも必死になっているのだろう。


「なんか良い方法は無いの? 優斗……?」


 里香の言葉に皆が僕に視線を向ける。

 確かにこのままでは女王ビーストに辿り着く前に、僕らの体力が底を突いてしまう。

 何でもいい――。

 奴らの気を少しでも逸らすことが出来れば、大輝と里香だったら一気に女王の元まで駆け抜けてくれるはず――。


 僕の脳内は目まぐるしく回転する。

 皆のジョブ、スキル、アーツ、マジック――。

 今のこの状況を打開できる方法は――。


「……ひとつだけ、ある」


 僕の呟きに、皆の顔が輝いた。

 もう考えている時間もない。

 この方法に掛けてみるしか――。


「愛梨沙は僕が合図をしたら『眩い光』を使って、一瞬だけグランドビースト達の目を眩ませてくれ」


「う、うん……。いいけど……」


 何か言いたげな愛梨沙を制し、僕は真柴さんに向き直る。


「そうしたら真柴さんはすぐに『警報』の魔法を使ってください」


「え? あー、しかし、あれは相手に危険を知らせるだけの魔法だから、今はあまり意味が――」


「大丈夫です。僕を信じてください」


 僕の言葉に口を噤む真柴さん。


「……分かった。優斗君を信じよう」


 真柴さんの言葉に皆が頷いてくれた。

 僕は、その信頼に必ず応えてみせる――。


「じゃあ、いくよ! 天の恵みに我等は崇め、奉らん――《眩い光ライトニング》!」


 愛梨沙が杖を高々と掲げ、その先から眩い光が照射される。

 一瞬、目を眩ませたグランドビースト達。


「世の悪党共は、善なる警笛に驚嘆せん――《警報ワーニング》!」


 すかさず『警報』を発動させた真柴さん。

 遺跡のドーム全体に甲高い音が響き渡る。

 そして僕は――。


「この世の全ての理は、真実さえも覆い隠す――《視覚効果ヴィジュア》!!」


 グランドビーストの群れを『赤』と『青』の迷彩が包み込んでいく。

 強烈な光による視覚の刺激と、警報による聴覚の刺激――。

 そこに僕の『視覚効果』のアーツが加われば――。


『グギャアア!!』

『ゲエエェェ!!』


「お、おい……。あいつら、共食い・・・し始めたぞ……」


 唖然とした表情でそう呟く大輝。


「こら大輝! 今がチャンスだってのが分かってるんでしょうね!」


 大輝の頭を槍の柄で小突く里香。

 技の効果は、そう長くは持たない――。


「みんな! 今のうちに女王ビーストの元へ!」


 僕の掛け声で皆が意識を集中させる。

 まずは大輝と里香が大群の中へと突進し、女王までの道筋を作る。

 僕ら4人は彼らが取りこぼした魔獣に止めを刺し、後へと続く。


 これは奴らと僕らの、生き残りを賭けた戦いなのだ。

 情けは無用――。


(……あ、れ?)


 今、一瞬だけ記憶が飛んだ。

 なんだろう……。

 何故か分からないけれど、情けは無用と・・・・・・考えた瞬間に・・・・・・――。


「優斗! ぼけっとしてないで!」


「え? あ、うん……!」


 里香の言葉に我に帰る。

 きっと戦いの疲労で幻覚を見たのだろう。

 もしかしたら『視覚効果』のアーツが僕自身にも影響を及ぼしたのかもしれない。


 あと少し――。

 あの大群を抜けたら、その先には女王ビーストが待ち構えている。

 とんでもないレベルとHPの、土竜獣達のボス――。


 でも、僕らだったらきっと倒せる。

 そして全員無事に、学園に帰還するんだ――。



 ――僕は脳裏に浮かんだ『悪夢』を打ち消し、ただひたすらにグランドビーストに止めを刺していったのだった。

















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