033 容疑者の追跡
その後、僕ら5人は体育館に向かい、装備を新調し。
中等部にいる相羽さんから必要数の薬を受け取り正門へと向かった。
既に正門には伊ノ浦理事長と用務員長の真柴さんが待機していた。
それ以外にいるのは正門を監視している教師達だけだ。
「待っていましたよ、皆さん。すでに藍田君から事情は聞いているかも知れませんが、今一度、私の口から説明しましょう」
集まった僕らに事の顛末を説明する理事長。
2名の人間が行方を眩ませたこと。
容疑者の候補としてあがっていた彩芽と御神さんが、学園外へと向かったこと。
この場にいる全員が神妙な面持ちで理事長の言葉に聞き入っている。
「――という訳なのです。君達には2名の行方不明者の捜索、及び上杉彩芽さんと御神辰巳さんの保護をお願いしたいのです」
理事長はあえて『保護』という言葉を使った。
まだ犯人だと確定していない2人に対する、せめてもの礼儀なのだろう。
しかし、状況証拠は揃っている――。
あの2人だったら、僕らの記憶を封じ、2人の人間をどこかに隠すことができる――。
「あ、あの……。もう一人のメンバーって、もしかして……」
おずおずと手を挙げ質問する瞳。
「ええ。ここにいる真柴さんにお願いしようと思っています」
伊ノ浦理事長の紹介で一歩前に出る真柴さん。
しかし僕らは皆、顔馴染みだ。
この学園で何年も用務員を務めている真柴信二さん。
僕は咄嗟に真柴さんのステータスを『解析』する。
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NAME シンジ
LV 47
HP 452/452
AP 125/125
MP 98/98
ARTS 『追尾攻撃 LV.9』
MAGIC 『警報 LV.7』
SKILL 『追跡』
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そしていつもの通りに瞬きをする。
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NAME シンジ
JOB 追跡士
WEAPON(R) 警鉄棒
WEAPON(L) -
BODY 砂暴鮫の軽鎧
WAIST 砂暴鮫の軽腰鎧
SHOES 土竜の革靴
ACCESSORIES 身代わりの十字架
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「そうか……。真柴さんは『追跡士』……」
きっと彼がいれば彩芽達の行方が分かるということなのだろう。
それに真柴さんだったら、僕らも安心できるという理事長の計らいもあるのかもしれない。
「ま、そういうことだ。宜しくな、学生諸君」
がはは、と豪快に笑った真柴さん。
しかしすぐに真剣な面持ちで理事長に振り返る。
「この度は、うちの御神が本当にご迷惑をお掛けしました。首に輪を括りつけてでも、必ず見つけ出して説教をしてやりますから。ほんっと、あの馬鹿はどうしてこんな真似を……」
「真柴さん。お気持ちは分かりますが、まだ彼らが犯人と決まったわけではありません。それに外には凶暴な魔獣が徘徊しています。必ず彼らを見つけ出し、全員揃って生還すると約束してください」
理事長の言葉に姿勢を正し、深々と礼をする真柴さん。
きっと彼も辛いのだろう。
もしかしたら自分の部下が犯罪を犯してしまったのかもしれない――。
そう考えただけでも、心が締め付けられそうになるのだろう。
「――それでは皆さん。十分にお気をつけてくださいね」
理事長の言葉が終わったと同時に重厚な正門が開かれていく。
必ず彩芽らを見つけ出し、行方不明者2名も見つけ出す――。
僕らは静かにそう決意したのだった。
◇
正門を抜け、いつもの砂漠地帯へと足を踏み入れる。
学園周囲に出没する魔獣はすでにあらかた調査が済んでいた。
このメンバーだったらよほどの事がなければ大丈夫だろう。
特に今回は大輝と里香がいるのだ。
彼ら2人の戦闘能力は学園にいる前衛職の中でも1位2位を争うほどだ。
「なあ、優斗。お前、どう思う?」
真柴さんを先頭に砂漠地帯を歩いていると、ふいに大輝が質問してきた。
「どうって、なにが?」
「上杉と御神さんのことに決まってるだろ。お前、本当にあの2人が犯人だと思うか?」
「え? なになに? もしかして真犯人とか分かっちゃったわけ、大輝?」
僕と大輝の会話に混ざってくる里香。
何故か目がキラキラしている……。
「いや、そうじゃねぇけどよ。なんかしっくり来ないんだよなぁ。確かにあの2人だったら犯行は可能かもしれないけどよ。『動機』は一体何なんだ?」
「動機……」
大輝に言われ、顎に手を置き考えてみる。
確かに言われてみれば動機がまったく見えてこない。
「大輝の口から『動機』とか出てくると、なんかサブイボみたいなのが立ってきちゃう……」
「……どういう意味ですかね、里香さん」
ジト目で里香を睨む大輝。
「あー、もう~! 歩きにくい、ここー! アリス帰りたい~!」
僕らの最後尾で文句を言いながら付いてくる愛梨沙。
それをなんとか宥めている瞳。
さすがは学級委員長……。
「愛梨沙の馬鹿はどこ行ってもわがまましか言わないし……。瞳がいてくれてマジ助かったぜ……」
僕が考えていたことと同じことを言う大輝。
「でもさあ、本当に『私達の記憶に無い2人の人間』なんているのかしらね……。それを探せって言われても、なにをしたらいいのかさっぱり分からんチンだよね……」
話を戻す里香。
「うん……。唯一の手がかりは、やっぱり御神さんだよね。彼が僕らに『催眠』を掛けていたら、そこから記憶を辿ることが出来るかもしれないけど、もしも『シロ』だったとしたら――」
そうしたら、またふりだしに戻ってしまうことになる。
そうこうしている間にも、行方不明者の2人は――。
「……まあ、俺たちは俺たちでやるべき事をやるしかないよな。その『行方不明者』ってのが、一体いつから行方不明になったのかも、俺たちには知る術がないんだからな」
「大輝の口から『行方不明者』とか出てくると、なんかサブイボみたいなのが立――」
「うるせぇな! 2回も言うんじゃねぇよ! さすがに凹むだろうが!」
今度は本気で怒った大輝。
里香は笑いながら後方にいる瞳たちの背後に隠れる。
相変わらずだな、この2人も……。
「ほれ、学生諸君。仲が良いのはいいことだが、お出ましだぞ」
前方を歩く真柴さんの言葉に全員が振り向く。
そこには今まで何度も戦ってきた砂漠地帯の魔獣の姿が――。
「さ、行きますか。おい里香!」
「はいはい、分かってますよー」
大輝の言葉に里香が返事をする。
そして真柴さんの前に出て、それぞれの武器を構える。
「ここいらの魔獣の強さは大体分かってるからな。俺と里香で十分だ。お前らはゆっくり観戦でもしてろよ」
大輝は背中に背負った特大の剣を構える。
僕の目にはそれが『地棘竜の剛牙剣』と表記される。
この砂漠地帯で一番の強敵である『スパニードラゴン』という全身が棘だらけのドラゴンから得た素材で作られた、特注の大剣。
しかも『紋章士』である奈緒美先輩の能力も付加されている。
僕はさらにその大剣を凝視する。
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【地棘竜の剛牙剣】
Attack 320/320
Emblem 『攻撃力50上昇』『命中率130上昇』『気絶率50上昇』
Durability 100/100
EX
地棘竜の素材で作った大剣。
あまりにも重いため重戦士にしか扱うことができない。
攻撃力は高めだが、命中率が極端に低い。
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命中率の低さを奈緒美先輩の『紋章』スキルによりカバーした優秀な武器。
そのための素材集めも苦労したらしいのだが、それに見合った性能を十二分に発揮できている。
そして――。
「さあさあ、かかってきなさいな! 里香様がお相手してしんぜようー!」
負けじと里香も異様に長い槍を構える。
先程と同じく、僕はその槍を凝視する。
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【千年木の長槍】
Attack 210/210
Emblem 『攻撃力20上昇』『貫通時攻撃力50上昇』『跳躍時攻撃力100上昇』
Durability 100/100
EX
千年木の素材で作った長槍。
あまりにも長い槍のため槍撃士でも扱いは難しい。
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里香の武器も、海岸近くに生えていた『千年木』という木から採取した素材で作られた特注の武器だ。
こちらも『紋章』スキルによる強化が施されている。
そして何よりも驚きなのが、その『長さ』だ。
まるで棒高跳びで使用するポールのようだ。
里香は陸上部でポールの扱いにも慣れているから、凄く使いやすいと言っていたけれど……。
「あの2人だったら安心だね」
「うん。僕らは大輝たちの邪魔にならないところで待機していよう」
瞳の言葉に同調する僕。
ここは大輝のお言葉に甘えて、戦いぶりを観察させてもらおう。
魔獣の動きを分析するのも僕の仕事のうちの一つだ。
そしてそれぞれの攻撃で、どれくらいダメージを与えられたかをノートにメモする。
それらをまとめた物を皆に渡すことで、僕のようにステータスを見ることができなくても、『感覚』で与えたダメージを予測することができる。
学園外の探索に、必ずしも僕が同行できるとは限らない――。
これは伊ノ浦理事長が皆に向けて放った言葉の一つだ。
「おいこら、里香! あんまりその長いのをぶん回すんじゃないぞ! 俺に刺さるだろ!」
「え? それはアレ? 『刺して欲しい』っていう前フリ?」
「んなわけねぇだろ! 集中しろアホ!」
「へーい」
大輝と里香の漫才により僕らは苦笑する。
本当、いつ見ても良いコンビだ。
そして日中の砂漠地帯に大輝と里香の咆哮が響き渡った――。
『行方不明者捜査班』
1藍田優斗/解析士
2大友大輝/重戦士
3寺島里香/槍撃士
4那美木瞳/算術士
5鏡愛梨沙 /光命士
6真柴信二/追跡士
〇真柴信二
用務員長を勤める男性。
伊ノ浦理事長とは旧知の仲で、警備会社に勤めていた経歴を持つ。
温厚な老紳士。
〇『追跡』
追跡士のユニークスキル。
対象の行動を追跡することができる。
レベルアップにより追跡範囲が増加する。