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032 共犯者

「ほう……。『共犯』、ですか……」


 理事長室に戻った僕らはソファに腰を掛けることもなく、そのまま理事長に説明をする。

 楠先生の姿は見当たらないが、恐らく職員室か教室に戻ったのだろう。


「はい。御神さんの『催眠』スキルにより僕らは記憶を操作され、2名の人間のことを忘れてしまい――」


「……そして上杉さんの『隠蔽』スキルにより、その2名がどこかの場所に隠されている、と。ふむ……」


 顎に手を乗せ思案する伊ノ浦理事長。

 本当はこんなことを理事長に報告したくない。

 でも、何故か嫌な予感・・・・がする――。

 口では説明できないけれど、何となく気分が落ち着かない――。


「……そのお二人がお付き合いをしている、という情報は確かに少しだけ耳にしたことがあります。以前、御神さん本人に確認したところ、そんな事実は無いと回答をいただいたのですが」


「え……? 伊ノ浦さんも知っていたんですか……?」


 理事長の言葉に驚きを隠せない様子の瞳。

 しかしクラスで噂させているくらいなのだから、理事長の耳に入っていたとしても別段おかしくはない。

 

 少し間を置いた後、理事長は椅子から立ち上がった。

 そして意を決した表情で、僕らに話を切りだした。


「……分かりました。そのお二人を校内放送で呼び出しましょう。私が直接話を聞きます」


 その言葉は力強く、有無を言わさぬ迫力があった。

 僕と瞳はほっと胸を撫で下ろし、このまま事件が解決するのだと信じて疑わなかった。


 しかし――。





「2人が、いない?」


 理事長室に来たのは慌てた表情でしきりに汗を拭っている校長と教頭だった。

 部屋の隅で彼らの言葉に耳を傾ける僕と瞳。

 どうやら僕らが話を聞きに行った直後、そのまま行方を眩ませてしまったらしい。


「はい……。恐らくは学園の外に向かったのだと……。正門に常駐していた教員からは、『理事長の許可を貰っている』との言伝があったとのことで……」


「そんな許可を私が出すと思っているのですか? 外出時には最低でも6名でメンバーを編成するように、職員会議でさんざん伝えたはずですが」


「そ、それは……」


 迫力のある理事長の言葉に交互に額の汗を拭く校長と教頭。

 そして何度も頭を下げ、2人は理事長室を後にした。


「……お聞きのとおりです。私の教育が行き渡っていなかったばかりに、容疑者2名を学外に取り逃がしてしまうとは……。本当に情けないですね」


「そんな……。伊ノ浦さんは悪くないと思います……」


 瞳が理事長に同情の言葉をかける。

 しかし、こうなってしまっては後を追う以外に方法がない――。


「有難う、那美木さん。そして、藍田君」


「はい」


 理事長に名指しされ、しっかりと返事をする僕。

 すでに彼の次の言葉は予想できている。


「毎度、君ばかりを頼りにしてしまい、本当に申し訳ないのですが……。君に『行方不明者捜査班』を編成していただきたい。メンバーはいつもの通り6名で、うち1名は私の方で適任者を選出させていただきましょう」


「適任者?」


 僕の言葉にコクリと頷く理事長。

 きっとなにか考えがあってのことなのだろう。


「分かりました。すぐに残り5名を選出させていただきます。出発はすぐですよね」


「ええ。メンバーを集め、装備やアイテムを確認後、正門に集まってください。もしかしたら一刻を争う事態に発展してしまうかもしれません。準備が整い次第、出発していただきます」


 目を合わせ、しっかりと頷いた僕ら。

 行方不明者2名と容疑者2名の捜索――。

 学園の敷地外には無数の魔獣が犇いている。

 グランドビーストの群れは眠っていたとしても、しっかりとしたメンバー編成をしていなければ、死に直結する事態になりかねない――。


 僕と瞳は理事長室を後にし、職員室へと向かう。

 もうすでに僕は心の中でほぼメンバーを決めていた。

 

 残りはあと一人誰にするか、だ――。





 校内放送で次々と名前が呼ばれていく。

 大友大輝、寺島里香。

 そして同じクラスの鏡愛梨沙かがみありす――。 

 3人は一緒に職員室まで足を運んでくれた。


「あれ? 俺らを呼んだのってお前らなんか?」


 大輝が頭の後ろに手を組みながら声を掛けてくる。

 口の周りに食べ物のカスが付いているが、きっと食事中だったのだろう。


「ひーとーみーさーんー? どーうーしーてーゆーうーとーとー……2人っきりなのよ!!」


 ゆっくりと話しながら瞳に近付いてきた里香は、急にダッシュし瞳を捕らえる。


「うわぁ! ちょっと里香ちゃん! 違うの! これは違――ぐえっ」


 怖い顔で瞳の首を絞めている里香。

 本気なのか遊んでいるのか、僕にはまったく判断できない……。


「もぅ、なにー? どうして私まで呼ばれるのー? アリス分かんなーい」


 ゆるいパーマの掛かった髪を弄りながら、つまらなそうにそう話す愛梨沙。

 僕は苦笑しながら、彼女に説明する。


「鏡さんのジョブは『光命士グライマー』だろう? 万が一日が落ちたときのために、光魔法が使えるひとが居た方がいいと思って」


「お。てことは、学外に行くメンバーってことか。俺らは」


 僕の言葉の意味を瞬時に理解した大輝。


「えー? わたし行きたくないよぅ。だって危ないんでしょう? 里香くらい凶暴だったら大丈夫だろうけど、わたしみたいなか弱い女の子は無理――」


「聞こえてるぞ愛梨沙ー! お前の首も一緒に絞めてやるー! うがー!」


「ちょ、なにこの野獣ー! こっち来ないでよぅ!」


「……た、助かった……」


 標的を愛梨沙に定めた里香。

 解放されほっと胸を撫で下ろす瞳。

 いつもどおりのクラスメイトの光景。

 なので僕と大輝は特に止めることもせず、話を進める。


「優斗と俺、里香に愛梨沙……。あとは誰がメンバーなんだ?」


「あ……。わ、私も……」


 大輝の言葉におずおずと手を上げる瞳。


「え? 瞳? 大丈夫なん?」


「うん。あとで説明するけど、今回はちょっと色々あってね……。残り1名は理事長が選出してくれるから、また6名で出発するんだけれど……」


 瞳の代わりに大輝の質問に答える僕。

 

「ふーん。なんだか面白そうじゃんか。……まあ、お前の顔をみる限りじゃ、結構ヤバい感じに発展しちゃってるんだろうけどな」


 僕の表情に気付き、真剣な面持ちに変わる大輝。

 僕は何も言わずにコクリと頷く。


「……まあ、その前にこの馬鹿どもを大人しくさせないとな」


 大輝の視線の先には未だに騒いでいる里香と愛梨沙の姿が。



 僕と大輝は大きく溜息を吐き、2人を止めに入ったのだった――。


















鏡愛梨沙かがみありす

高等部1年1組の女子生徒。

両親に溺愛され、アイドル育成塾に通う毎日らしい。

性格は天然で、喋り方も特徴的。


〇『HP変換』

光命士グライマーのユニークスキル。

光魔法で攻撃した際に、与えたダメージを仲間のHPに変換することができる。

レベルアップにより効果が上昇する。

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