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030 消えた2人

 それから数日が経過した。

 危惧していた巨人の侵攻もなく、僕らは徐々にこの異世界での生活に慣れていった。

 

 僕らの生活は至ってシンプルだ。

 まず、食料確保。

 これは前衛職のJOBを数名、護衛役としてパーティに招き入れ。

 あとは採集や狩猟、捕獲に特化しているJOBをメインメンバーとして導入する。

 彼らが調達してきた食材を、学園で待機している料理に特化したJOBの人に渡し、学園にいる全員に配給する、という流れだ。


 次に学園設備の強化。

 これは引き続き島田先生を中心として日夜作業が行われている。

 設備強化に必要な素材を学園外から持ち帰るのも僕らの仕事の一つだ。


 そして個々のレベルアップ、及び装備品の強化。

 これらは上記2つの業務を行う傍ら、魔獣から獲得した素材を南先輩らのような技術職の人間に託し、より強力な装備を作成してもらう。

 『紋章士エンブレイマー』である奈緒美先輩も能力を覚醒してくれたおかげで、武器や防具に秘められた力を解放できるようになった。

 

 僕の仕事は訓練を重ねている皆を『解析』し、レベルアップをさせること。

 そしてなるべく学園外に遠征するメンバーに同行し、常に戦況を分析し、仲間の危機を未然に防ぐことだ。


 今では僕と皆とのレベル差もなくなり、ほぼ50前後で拮抗している。

 これが急成長といえるのかは分からないが、あの巨人のレベルは1万を遥かに超えていた。

 もしかしたら、この異世界にはあのレベルの化物が何体も生息しているのかもしれない。

 そう考えてしまうと、恐怖で身体が硬直してしまいそうになる。

 でも、僕らは生き抜かなければならない。

 

 誰一人欠けることなく、必ず元の世界へと――。



「あ、優斗くん。頼まれていたもの、用意してきたよ」


 教室でひとり窓の外を眺めていると、後ろから瞳が声を掛けてきた。

 彼女は一枚のレポート用紙を僕に見せる。


「ありがとう、瞳。ええと……」


 僕はレポート用紙に書かれた情報に目を凝らす。


------

採集士コレクター/『採集』

狩猟士ハンター/『狩猟』

風水士ゲオマンサー/『風水』

祈祷士シャーマン/『祈祷』

販売士バイヤー/『値引』

舞踊士ダンサー/『舞踏』

医士ドクター/『治療』

看護士ナース/『献血』

救命士パラメディック/『蘇生』

気象士メテオ/『驚天動地』

焔剣士フレイア/『炎剣』

霊媒士ミスティック/『口寄』

忍術士ニンジャ/『巻物』

絵士ペインター/『絵描』

牧士レクター/『説教』

------


「あ、やっぱりいるよね。『医士ドクター』とか『看護士ナース』とか……」


 僕が彼女に頼んでいたのは、未だに能力が覚醒できていない、もくしくは覚醒していても成長が遅い生徒や教師。

 そしてなぜか所在が不明・・・・・の人達だ。


「うん。私が覚えているっていうことは、確かに全校集会のときに優斗くんが『解析』したってことだと思うけど……」


 こめかみを押さえ、記憶を呼び覚まそうとする瞳。

 彼女の『暗記』のスキルは人探しにも役立つ。

 しかし――。


「……うーん。やっぱり思い出せないなぁ……。ジョブとスキルは確かに覚えているのに、誰だったか・・・・・が思い出せないの」


 しきりに首を傾げる瞳。


「でも、可能性はあると思うよ。瞳のスキルが発動しないように『邪魔をするスキル』とか……」


 そこまで言って、ハッとする。

 もしもそんなスキルを持った人間が僕らの中にいて。

 悪意を持って『医士ドクター』や『看護士ナース』といった能力を持つ人達を隠していたとしたら――。


「ち、ちょっと待ってね……」


 もう一度こめかみに指を当て、記憶を呼び覚まそうとする瞳。

 僕は彼女が口を開くのを待つ。


「……『封印士シーラー』、『催眠士ヒプノティスト』、『詐欺士トリッカー』……。それに『隠蔽士ハイド』とか、あげようと思えばそれらしい能力の人はいっぱいいるけど……」


 瞳はそれぞれの能力を持つ人をレポート用紙の裏に記載していく。


------

封印士シーラー/『封印』/蓮城白児れんじょうはくじ/化学教師

催眠士ヒプノティスト/『催眠』/御神辰巳みかみたつみ/用務員

詐欺士トリッカー/『詐欺』/辻雄一郎つじゆういちろう/高等部2年1組

隠蔽士ハイド/『隠蔽』/上杉彩芽うえすぎあやめ/高等部1年4組

------


「彩芽……」


 彩芽は僕と里香の共通の友人だ。

 いや――友人だった・・・といったほうが正しいかもしれない。

 小学校にあがるまではよく3人で遊んでいたけれど、彩芽は別の学区の中等部へと進学したのだ。

 そして再び高等部で一緒の学校になったのだが、彼女は変わってしまっていた。

 目つきは鋭くなり、話しかけても返事をしてくれなくなった。

 噂では通っていた中学でイジメに合い、それから性格が変わってしまったのだとか――。


「……この中の誰かが、私の『暗記』を封じて、この2人をどこかに隠して……?」


 怯えた表情でそう話す瞳。


「いや、まだそうと決まった訳じゃない。とにかく一度、理事長に相談してみよう」


「う、うん……」


 僕は瞳を連れ教室を後にする。





「……確かに、藍田君の指摘のとおり、この学園にいる人間は980名に・・・・・減っていますね・・・・・・・


 理事長室の一角で、僕と瞳、それに楠先生が理事長の言葉に驚愕する。

 僕と瞳の報告により、すぐさま全校生徒、全職員、全用務員の点呼が行われたのだ。

 瞳の予想どおり、2名の人間が姿を消した――。

 そしてその人間とは恐らく『医士ドクター』と『看護士ナース』のJOBを持つ人達だ。


「でも、おかしくありませんか? どうして誰もその2人の事を覚えていないのでしょうか?」


 楠先生が僕らも感じた疑問を理事長にぶつける。


「……『人の記憶を封じるスキル』。そういったものが存在するとすれば、あるいは……」


「じ、じゃあ、やっぱり私もそのスキルで『暗記』の能力を封じられて……?」


 理事長の言葉に震えだす瞳。

 もしもそんな能力が存在したとして、どうしてそんなことをするのだろうか?

 今は全員が一つになって、窮地を脱するときだというのに――。


「……藍田君、那美木さん。今は非常に大事なときです。学園内でお互いの不信感が広まってしまっては、せっかく築き上げた『絆』が崩れ去ってしまう可能性もあります」


 僕と瞳をじっと見つめ、諭すように話す理事長。


「理事長! それはこの子達に『このまま黙っていろ』という命令ですか!」


 口を開きかけた僕に代わり、楠先生が声を荒げた。

 僕もまったく同感だ。

 2人の人間が行方不明になっている現状を、このまま見過ごす訳にはいかない。


「……涼子、落ち着いてくれ。私は別に行方不明の2人をそのまま放置するとは言っていない。藍田君、那美木さん。申し訳ないが、君達にお願いがあります」


 そう答えた理事長は組んだ腕を顎に当て、僕らを交互に見つめる。

 そして数秒待ったあと、ゆっくりと先を続けた。



「君達2人に、行方不明者の調査、及び犯人を特定して頂きたいのです。もちろんこれは極秘です。『解析』の能力をもった藍田君と『暗記』の能力を持った那美木さんにしかお願いできないことです。どうでしょう。受けていただけますか――?」


















蓮城白児れんじょうはくじ

伊ノ浦学園の化学教師。

物理教師である島田とは同じ大学出身の旧友の仲。

理論武装で相手の意見を封じるのが趣味だとか。


御神辰巳みかみたつみ

用務員の男性。

学園転移が起きた際に魔獣の存在に気付き、いち早く正門を閉じた功績者。

精神的な不安から一時期、催眠治療に通っていたことがある。


辻雄一郎つじゆういちろう

高等部2年1組の男子学生。

特徴の無い平凡な学生で、周りの人間とはそれなりに上手くやっている。

時折、とんでもない嘘を吐くことがあるが、あまり気にされずに事無きを得ている。


上杉彩芽うえすぎあやめ

高等部1年4組の女子生徒。

優斗や里香とは幼馴染で、小学校に上がるまではよく3人で遊んでいたらしい。

別の中等部に入学してから性格が変わり、隠し事が多くなったとクラスの中では噂されている。

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