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029 明日への展望

 学園に帰還したのは18時を過ぎた頃だった。

 食料調達班を含め、全員が無事に帰還したことに理事長は安堵の溜息を吐いてくれた。

 しかし、僕ら異世界調査班の報告を聞き表情は一変する。


 巨人の存在――。

 あの巨人はこの学園の存在を知ったとき、果たしてどのような行動をとるのか。

 知性は人間のそれに匹敵するのか。

 僕ら学園の人間を捕食対象として定めるのか。


 そのまま緊急職員会議が開かれ、僕らは眠れない夜を明かすこととなった――。



『生徒の呼び出しを致します。1年1組、藍田優斗君。理事長がお呼びです。理事長室までお越しください』


 次の日の朝。

 教室でクラスメイトらと雑談を交わしていると校内放送が掛かった。

 僕は無言で椅子から立ち上がり、教室を出ようとする。


「優斗、俺らも行くぜ」


 僕の前に大輝と里香、瞳が意を決した表情で立ちはだかった。

 でも僕は首を横に振った。


「優斗……」


 里香が悲しそうな顔で僕を見る。

 瞳も今にも泣き出しそうな顔だ。


「大丈夫。みんなはここで待ってて。すぐに戻ってくるから」


 そう言い残した僕は、ひとり教室を出る。

 背後でクラスのみんなが不安そうな視線で僕を見ているのが分かる。

 しかし、今の僕には笑顔で振り返られる余裕などこれっぽっちもなかった。

 身体の芯まで震え上がるほどの恐怖――。

 今までの人生で感じたこともない異常な感情に、僕自身どうして良いか分からなかった。


 校舎を抜け理事長棟へと向かう。

 昨夜はまたグランドビーストの群れの鳴き声が学園外に木霊していた。

 大輝らの話では、奴らの巣らしきものを発見したとのことだった。

 これらは既に理事長へと報告されている。


 理事長棟へと到着し、重い足取りで長い階段を上る。

 部屋の前に到着すると、中から話し声が聞こえてきた。

 あの声はきっと楠先生だろう。


「失礼します」


 軽くノックをし、返事を待つ。

 そしてすぐさま扉が開く。


「……待っていたわ、藍田くん」


 中から扉を開けてくれたのは楠先生だ。

 僕は軽く礼を言い、中へと入る。


「昨日は本当にご苦労様でした。朝から呼び出してしまってすいません。さあ、座ってください」


「ありがとうございます」


 伊ノ浦理事長に促され、いつものソファに腰を掛ける。

 楠先生は電気ケトルからホット珈琲を入れてくれた。

 しかしよく見るとその手が震えていた。

 伊ノ浦理事長に視線を移すと、やはり険しい表情のままだった。

 僕は意を決し、先に質問をする。


「昨日の職員会議では、どんな結論が出たのでしょうか」


 いきなり核心を突かれたのか。

 楠先生は困惑した顔で理事長に視線を向けた。


「……そうですね。ひとつひとつ、説明しましょう――」


 大きく息を吐いた理事長はゆっくりと丁寧に説明をしてくれた。

 

 僕ら異世界調査班が報告した学園周囲20kmまでの地形の状況、建造物の有無、魔獣の生息分布についての内容。

 特に繫ぎ目シームについては議論が深まったらしい。

 それと大輝ら食料調達班が報告した食料調達場所について。

 彼らもあの陽炎に遭遇し、別の場所へと出てしまったらしい。

 僕らとは違い、大輝らが発見したのは海岸だった。

 そこで貝や魚を採取できたのは僕らにとっては朗報だ。

 

 そしてもう一つ。

 それは学園近辺にグランドビーストの巣を発見したこと。

 出発前に理事長から決して足を踏み込むなとの注意があったので、発見報告までに留まったのだが、これは今後チームを編成して巣の探索に向かうことが決定したらしい。


「大丈夫なのですか? あの大群の中、巣を調査するなんて危険なことを……」


「グランドビーストの生態は少しずつですが分かってきています。藍田君も知ってのとおり、奴らは日の出ている間はほとんど活動しないようです。それにあれだけの数が夜間に徘徊していることを考えると、奴らの『女王』が巣にいるはずです」


「女王? ということは女王蟻や女王蜂のように、奴らは卵から孵っているということですか?」


 理事長の意外な答えに驚きの声を上げる僕。

 しかしそれならば、あれだけの数が学園周囲に湧き出てくるのも頷ける。


「ええ。ですから、近いうちにその『女王』を叩きます。その時はまた、藍田君にメンバーの編成をお願いするかも知れません」


 そう答えた理事長は立ち上がり、窓から外を眺める。

 まるでこれからが『本題』だと示すかのように――。


「それと、問題の『巨人』の件ですが――」


 僕は生唾を飲み込む。

 一体職員会議でどのような結論が出たのだろうか。


「教師の中には、学園に脅威が迫る前に、こちらから打って出ようという意見もありました」


「なっ――!?」


 僕はその言葉につい立ち上がってしまう。

 あの巨人と、戦う?

 そんな無謀なことを一体誰が――。


「落ち着いてください、藍田君。もちろん、私がその提案を却下しました」


「……ごめんなさい、藍田くん。でも、ステータスを見ることができるのは貴方だけなのよ・・・・・・・。教師の中には、それに関して懐疑的な意見を持つ人も居て――」


 悔しそうにそう話す楠先生。

 僕の『解析』を信じていない人達がいる――?


「……そういうことですか。でも、確かにそうですよね。他の人には分からないですよね……」


 僕は拳を握り締め、再びソファへと腰を降ろす。

 一人として『同じ能力を持っていない』ということは、他人にはその能力が理解できないということだ。

 特に僕のような特殊な能力では、懐疑的な人間が現れてもおかしくはない。

 でも――。


「嫌な気分にさせてしまい、本当に申し訳ありません。我々も今は少し、浮き足立っているというか、藍田君に覚醒してもらった能力により舞い上がっていると感じるのも事実です。その中での『巨人』の存在の報告――。自身の力を過信してしまう人間が出現しても無理はないと思っています」


 理事長は僕を諭すようにそう言ってくれる。

 異世界に転移した不安。

 魔獣による急襲、食料に対する不安。

 その中で目覚めた能力。

 一人一人に与えられた未知なる力――。

 僕らの心は常にジェットコースターにでも乗っているかのように、不安定な状態のままだ。

 そこで巨人の存在が議論に上がる。

 確かにこれでは通常の思考は不可能だろう。

 それに、これは今の僕・・・にも当てはまることだ。


「……いえ、すいませんでした。少し、興奮してしまって……」


 素直に謝罪をする僕。

 その様子を見てホッと胸を撫で下ろした楠先生。


「いいえ。ですが、先程も申し上げたとおり、巨人に対する攻撃は却下してあります。それにまだ、学園のことは気付かれていないようですし、繫ぎ目シームの件もありますからね。果たして巨人が繫ぎ目シームを跨ぐことができるのか。我々人間を捕食対象として捉えているのかもまだ不明です。ですので、この件は保留ということに決定しました」


 そこまで話し終えた理事長は、再びソファへと座り珈琲を啜る。

 やはり伊ノ浦理事長はすごい。

 物事を大局的に見て判断している。

 でも、皆の為に一人の犠牲を良しとはしない考えだ。

 だからこそ僕は、彼を信頼できる。

 

「分かりました。これから僕らはどうしたら良いでしょうか?」


 少し気持ちが落ち着いた僕は、今後について質問する。

 当面は、大輝らが見つけてくれた海岸での食料確保が最優先になるのかもしれない。


「そうですね……。しばらくは海岸への食料調達、武器や防具などの素材集め、並びに薬などの素材も集めておきたいところですね。各自のレベルアップも必要ですし、もしもの時の為に学園外壁をもっと強固にする必要もあるでしょう。そのための素材確保も急務です」


 僕はメモを取り出し理事長の言葉を箇条書きにする。


「それと、もっと戦力を強化したのちにグランドビーストの巣への侵攻、及び女王ビーストの撃破でしょうか。あの大群からの脅威がなくなるだけでも、我々の生存確率は飛躍的に上がるでしょう」


 生存確率――。

 僕らは誰一人として欠けることなく、元の世界に戻るんだ。

 弱気になったら駄目だ。

 きっと、あの巨人に対抗できる策はあるはず――。


 僕の心に少しだけ光が差し込む。

 一人で抱え込んだって、なにも解決なんてしない。

 982人、全員の力を合わせ、生き残るんだ――。



 楠先生の淹れてくれた珈琲を啜りながら、僕は今後について思案していた。

















 

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