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027 繫ぎ目

 見渡す限りの砂漠。

 その中心でレジャーシートを敷き、昼食の缶詰を食べた僕ら。

 もう日が高く上っているというのに、そこまで気温は高く感じない。


「やっぱりおかしいよここ……。炎天下の砂漠地帯だよ? どうしてこんなに涼しいの?」


「楓の言うとおりだな。学園での生活も日中はさほど暑くなかったし、これだけ周囲が砂漠で覆われていたら学園内だって高温になるはずだしな」


 楓の言葉に澪が続く。

 僕らも皆一様に首を縦に振る。


「ふふ、本当にゲームの世界に迷い込んでしまったのかもね。全てが作り物の世界。全てが偽りの世界――なんてね」


「……こんなときによく冗談が言えるな、やよい」


 やよい先輩の言葉に眉を潜める来栖先輩。


「あら、『こんなとき』だからじゃない。食料もあとわずか。楠先生たちのチームだって、もしかしたら食料を確保できないかもしれない。そうしたら、私たち全員、餓死しちゃうのよ?」


 本気なのか冗談なのか分からない表情でやよい先輩がそう言う。


「そんなことはないです。大輝達だったら、きっと食料を見つけてくれます」


 僕は立ち上がり、皆を見回しそう言った。


「お兄ちゃんの言うとおりだよ! 私も大輝さんや里香さんのことを信じる!」


 僕に続き立ち上がった楓。


「私も信じよう。ここが異世界なのかゲームの世界なのかはしらんが、そんなのはどっちでもいい。『元の世界に戻る』。ただそれだけだからな」


 澪も立ち上がり、やよい先輩らを見下ろしそう言った。

 僕ら3人の言葉にやれやれといった表情のやよい先輩。


「……お喋りはこれくらいにして、そろそろ動くとしよう」


 立ち上がった来栖先輩は、遠くの景色に視線を移す。

 僕も釣られてその先に視線を凝らした。


(……あれ?)


 なにかがキラリと光った気がした。

 なんだろう……。

 気のせいだろうか……。


「どうした? 藍田?」


 不思議そうに僕に声を掛ける透。


「あ、いや……。なんか今、光ったような……」


「え? なになに? 宝石? ジュエリー?」


 僕の前に立ち、目をキラキラと輝かせた楓。


「……砂漠に宝石が落ちているわけがないだろう……」


「えー、分からないですよ澪先輩。もしも宝石だったら澪先輩にはあげませんですよーっだ!」


 そう答えた楓は僕の視線の先へと走っていく。


「あ、こら! 危ないから離れるんじゃない!」


「大丈夫だよお兄ちゃんー! もうかなり戦闘は繰り返してきたから、コツも掴んでき――」


 刹那――。

 ――楓の全身が・・・・・半分になった・・・・・・


「え――」


「おい! 楓!」


 慌てて澪が楓の元に駆け寄ろうとする。

 しかし、残り半分となった楓の身体もすぐに消えてしまう。


「な、な、なんだよ!? 消えた!?」


 怯えた表情で叫ぶ透。

 僕の頭は真っ白になった。

 楓が、楓が――。


「落ち着け優斗! もしかしたら新手の魔獣が襲ってきたのかもしれないぞ!」


 澪が僕の身体を揺らし、そう叫ぶ。

 しかし僕の瞳は定まらない。

 今、目の前で、楓は――。


「……やよい。分かるか?」


「うーん。ちょっと待って」


 来栖先輩の言葉に首を捻ったやよい先輩は、今しがた楓が消えた場所まで歩いていく。


「お、おい……! 大丈夫なのか……!」


「勝手に動くんじゃない! 私達のリーダーは優斗だろう! 優斗の指示を待て!」


 透と澪が同時に叫ぶ。

 しかしやよい先輩は歩みを止めない。


「……ふーん。なるほど……」


 なにかを発見したのか。

 やよい先輩は僕らにこちらに来るよう手招きをする。


「お、おい! どうすんだよ藍田!」


「……行こう。やよいを信じろ」


 来栖先輩は僕らを促す。

 一度深呼吸をした僕は、意を決し、やよい先輩の元へと歩いていく。


「見える? ここ。貴方が見た『光』ってこれのことじゃない?」


 そう言ったやよい先輩は何もない空間・・・・・・を指差す。

 ……いや、なにかが、ある。

 薄い陽炎のような、わずかに太陽の光に反射しているなにか・・・が。


「な、なんだこれは……? 延々と向こうまで続いているぞ……?」


 澪の指差す先を凝視すると、確かに薄い陽炎のようなものがずっと先まで一直線に伸びていた。

 これは――。


「えい」


「ちょ、やよい先輩!?」


 陽炎に腕を伸ばしたやよい先輩。

 その腕の先が――無くなっていた。


「な――!?」


「え? ええええ?」


 声にもならない声を上げる透と澪。


「……なるほどな。ということは――」


「ええ。この先に楓ちゃんがいるはず・・・・なんだけど……」


 来栖先輩にそう答えたやよい先輩は、今度はその陽炎に顔を――。


「く、首がない! 首がない!! 今度は首がああああ!!!」


 泡を吹いて倒れる澪。

 透は顔面蒼白でその場にへたり込んだ。


「……情けないな、お前ら」


 いつもと変わらぬ表情で来栖先輩は2人を見下ろす。

 もう僕は何が何だか訳が分からなかった。

 今、目の前にいるのは首の無いやよい先輩で――。

 何故かそのまま僕らを手招いていて――。


「……行くぞ」


「え? あ、ちょっと――」


 澪と透の襟首を持ち、僕にも付いてくるように促した来栖先輩。

 というか背中を膝で押されて――。


「うわああああああああ!」



 ――そして僕らは陽炎の中へと。





「あはははは♪ 何その格好!」


 最初に聞こえてきたのはやよい先輩の笑い声だ。

 恐る恐る目を開けると、頭上に生首姿のやよい先輩が――。


「……いつつ……。おい、やよい。お前……」


「ごめーん、玲人。ちょっと悪戯してみたくなっちゃって。えいっ」


 そう叫んだやよい先輩は生首姿――ではなく、五体満足の姿で僕らの元に着地する。

 ここは、一体――?


「ふええええん! お兄ちゃああああん! 助けてよー!」


 今度は下から楓の声が聞こえてきた。

 僕は慌てて視線を向ける。


「楓! 大丈夫か――って、あれ?」


 そこには蔓に絡まっている、五体満足な楓の姿があった。

 というか、ここは森――?

 僕らは蔦が生い茂っている森の中にいるのか?


「う……ん。ここは、どこだ……?」


「何なんだよ一体……。俺たち砂漠にいたんじゃねぇのかよ……」


 目を覚ました澪とあたりを見回す透。

 2人とも見事に蔦に絡まっている。


「さっきの陽炎。あれはたぶん繫ぎ目シームね」


繫ぎ目シーム?」


 蔦に絡むことなく、木の枝に立ったまま、やよい先輩が説明してくれる。


「優斗くんもゲームはやるでしょう? RPGとかでよく使われるじゃない。戦闘パートと移動パートが別だったり、街の外に出ると画面が切り替わったり。あの繫ぎ目シームよ」


 やよい先輩の言葉が僕の頭でぐるぐると回る。

 繫ぎ目シーム……。

 確かに僕がよくやるゲームにも使われている技術だ。

 最近ではその繫ぎ目をなくす『シームレス』という技術のゲームも存在している。

 さっきの陽炎が繫ぎ目シーム……。

 ということは、ここは砂漠とは別のエリアだということなのか……?


「あ、あの、お兄ちゃん……? お話は後にして、助けれくれないかな……」


「あ、ごめん! ……ていうか、僕も蔦が絡まって動けない……」


 全身に絡まった蔦は、ちょっとやそっとじゃ切れないくらいの強度のようだ。

 これはやよい先輩に手伝って貰わないと厳しいかもしれない……。


「ふふ、いい眺めね」


「……おい、早く助けろ」


「はいはい。あー、楽しかった」


 鋭い眼光で睨んだ来栖先輩に臆することなく蔦を切っていくやよい先輩。

 もう二度と、こういう悪戯は勘弁してほしい……。



 苦い顔をした僕だったが、楓が無事だったことに胸を撫で下ろしていたのは言うまでもなく――。


















【Acquisition】

『深緑の森』

護謨樹の蔦×10

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