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002 見える力

「うおおおりゃああぁ!」


「はああああぁぁ!!」


 大輝と里香の咆哮が教室中に響き渡る。

 大輝の振り回す椅子が獣にヒットしたと同時に里香が大きく跳躍する。


『グルルルゥ!』


「今だ里香!」


 大きく口を開けた獣の口内を目掛け、勢いよくホウキの柄を突き出す里香。


ズンッ――!


 という音と共に、獣の喉の奥深くへと突き刺さる。


『ググ……!』


「これで最後だ! うおおおおおおお!」


 もう一度大きく椅子を振り上げた大輝は、獣に突き刺さったままのホウキに渾身の力を込めてぶち当てた。


『ブギャアアアァァ!!』


 断末魔の叫びを上げた獣は、そのまま倒れて動かなくなってしまった。


「……やった……のか?」


 静かになった教室。

 楠先生も他の生徒らも微動だにしない。


「勝った……。勝ったよ……! やっつけたんだよ……!!」


 里香の言葉に徐々にどよめきだす生徒達。

 そして次の瞬間、歓喜の声に包まれる。


「おっしゃああああ! 大したことなかったな! これだったら残りのやつら――」


ボンッ――!


「う、うああああ! ……って、あれ……?」


 腰を抜かした大輝が、先程倒した獣を指さし、素っ頓狂な声を上げた。

 そして皆の視線が大輝の指さす先に注がれる。


------

【Acquisition】

土竜獣の肉×1

土竜獣の皮×1

土竜獣の爪×2

------ 


「また表記が……」


 Acquisition……?

 ということは『獲得品』という意味か……?


「一体なんなんだよ……。変な音で爆発したかと思ったら……肉?」


「こっちは皮と爪みたいね……」


 獲得品を拾う大輝と里香の周りに生徒らが集まってくる。

 やはり皆には、この緑色の表記が見えていないのか……。

 でも、今はそんなことよりも――。


「他にも、すでに校舎の中に入り込んでいる獣はいるのかしら……」


 楠先生が険しい表情で開け放たれた教室のドアに視線を向け、そう呟く。

 窓の外には、まだまだあの獣がうじゃうじゃと犇いているのだ。

 一匹倒したからといって安心など出来ない。


「ど、どうしましょう……。校内放送では絶対に教室から出ないようにって……」


 喜びもつかの間、瞳が全身をガクガクと震わせながら楠先生にしがみ付いている。


「……優斗」


「え? どうしたの、里香?」


 いつの間にか僕に視線を向けていた里香。

 何かを言いたそうな目でじっと僕を見つめている。


「俺もお前に聞きたいことがある」


「……大輝?」


 里香に続いて大輝までもが腕を組み、俺に視線を向けている。


「藍田くん。貴方のおかげで私達はあの獣を倒せたのよ」


 楠先生が2人を代弁するように僕に語り掛けてくる。


「え? いや、僕はなにも――」


「嘘を言うな。お前が俺達に『何かをした』から、俺達は戦う力を身に付けられたんだ」


 僕の言葉を遮るように、大輝は真剣な面持ちでそう話す。


「そうよ。私も優斗に見つめられた後……なんだか急に力が湧いてきて……」


「藍田くん、私のことをさっき『治癒士キュアベル』とか言っていたわよね。あれは一体どういう意味なの?」


 里香に続き、楠先生までもが僕を問い詰めてくる。

 周りの生徒も僕に注目している。

 

 僕は溜息を吐き、分かる範囲で正直に話すことにした――。





「ステータスが見える?」


「うん。さっきの獣の名前は『グランドビースト』っていうみたいだ」


 獣の名前以外にもLVやHPなどの数字が表記されていたこと。

 そして大輝や里香、楠先生にも同じような表記が記されていることなどを掻い摘んで話す。


「……なんだかゲームの世界の話みたいね」


 里香が僕が考えていたことと同じ感想を述べる。


「確かに……。その、グランドビースト? そいつを倒したあとも、急に肉やら爪やらに変化しちまったし……。まるでゲームの世界の戦闘で、敵を倒したあとのドロップアイテムみたいな……」


 大輝が首を捻りながらそう答える。


「でも、その『ステータス』って私達には見えないのよね。どうしてなのかしら」


「それは僕にも分かりません……」


 楠先生の質問に僕は正直に答える。

 僕にだけ『見える』ということは、何か理由があるはずなのだけれど――。


「……優斗は私達みたいに自分のステータスとか見れないのかな」


「え?」


 里香の言葉にはっとする。

 そういえば僕はまだ、自分の・・・ステータスを・・・・・・見ていない・・・・・


「あ、でも……3人の場合はなんかこう、目を合わせたときにステータスが見えたから……」


「じゃあ鏡で自分の目を見ればいいんじゃね?」


 大輝の言葉に一瞬、言葉を失う僕。

 どうしてそんなことも思いつかなかったのだろう。

 僕は慌てて携帯用の手鏡を探す。


「もう……。ほら、私の貸してあげる」


 制服のポケットをあちこち探していた僕に、里香が手鏡を渡してくれる。

 礼を言った僕は、小さく息を吐き、鏡に自身の姿を映し出す。


「あ――」


 映った瞳に目を合わせた瞬間、今までと同じように表記が浮かんだ。


------

NAME ユウト

LV 1

HP 10/10

AP 5/5

MP 0/0

ARTS ---

MAGIC ---

SKILL 『解析』

------


「どうだ? ステータスは見えたか?」


 後ろから覗き込むようにして大輝が声を掛けてくる。


「うん……。SKILLの部分に『解析』って書いてあるけど……」


 今までと同じ要領で瞬きをしてみる。

 すると別の表記に切り替わった。


------

NAME ユウト

JOB 解析士アナライザー

WEAPON(R) ---

WEAPON(L) ---

BODY 私立伊ノ浦学園の制服

WAIST 私立伊ノ浦学園の制服

SHOES 黒い革靴

ACCESSORIES 腕時計

------


解析士アナライザー……」


解析士アナライザー? てことは、それのおかげで優斗はステータスを見ることが出来るってことか」


 僕の代わりに大輝がみんなに説明してくれる。

 僕のこの『見る力』は『解析士アナライザー』の力……。

 獣のステータスを見ることが出来たのも、皆のステータスを見ることが出来たのも、この力のおかげ――?


「なるほどね……。そういうことなら、話が早いわ」


「楠先生……?」


 ニヤリと笑った楠先生。

 その大人びた笑顔に、僕は少しだけドキッとしてしまう。


 ――そして楠先生は、僕にこう提案した。



「藍田くん。今からクラス全員を『解析』してちょうだい。みんなで力を合わせて、この窮地を脱するのよ――」

















〇『解析』

解析士アナライザーのユニークスキル。

対象のステータスを見ることができる。

レベルアップにより、より詳細な解析ができるようになる。

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