024 解析士の力
僕はもう一度デザートシャークのステータスを確認する。
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NAME デザートシャーク
LV 22
HP 315/315
AP 142/142
MP 0/0
ARTS UNKNOWN
MAGIC UNKNOWN
SKILL UNKNOWN
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レベルは22と、以前戦ったグランドビーストとは桁違いに高い。
しかし、僕らもこの数日間で必死に訓練をしてきたのだ。
必ず、勝てる――。
「日高さんは『応援』のスキルを! 楓はそのまま『歌姫』のスキルを使い続けて!」
『応援』は一度使えば戦闘終了まで仲間全員の攻撃力、防御力ともに上昇するスキル。
『歌姫』は歌い続けている間は仲間全員のHP、AP、MPが自動回復していくスキルだ。
「よし!」
「分かったよ! お兄ちゃん!」
2人が同時に返事をしてくれる。
「それでは、いくぞ……! 《べ、べつに私の為に頑張ってとか、そういうんじゃないけど応援してるから! か、勘違いしないでよね!》」
澪の『応援』により仲間全員の力が上昇していくのが分かる。
ていうか――。
「なぜにツンデレ!? 澪先輩意味分かんない!」
「う、うるさい! お前も早く歌え!」
「ひー!」
澪に叱られ、恐る恐る『歌姫』を発動する楓。
「ふふ、緊張感ゼロね。まあ、これはこれで面白いけど」
「やよい先輩は戦闘職の中でも前衛特化です。なので、申し訳ないのですけれど――」
「分かっているわよ。皆の盾になりながら、あの鮫に攻撃を加え続ければいいのでしょう?」
そう言い妖艶に笑うやよい先輩。
僕はその言葉に首を縦に振る。
「ふふ、正直な子ね」
そう答えたやよい先輩は軽鉄剣を構えた。
「ほら、玲人。起きているんでしょう? サポート、お願いね」
「……ん」
眠たそうに目を擦り、そう答えた来栖先輩。
本当に大丈夫なのだろうか、この人は……。
「く、来るぞ!」
透の叫び声に合わせ、デザートシャークが大きな口を開け砂中から飛び出してきた。
『ギシャアアア!』
「……《凍結》」
低い声でそう唱えた来栖先輩は、木杖を軽く振るった。
ピキン、と音を立て一瞬のうちにデザートシャークが凍りつく。
「ふふ、ありがと。――《暗黒の裁き》」
地面を蹴ったやよい先輩は流れるような剣捌きで技を発動した。
『ギギギィ!!』
パリン、という音と共に血しぶきを上げたデザートシャークは、堪らず砂へと潜っていった。
「うわー、すごい連携……」
来栖先輩とやよい先輩の見事なコンビネーションに目を奪われる楓。
しかしまだまだ致命傷には至っていないようだ。
再び踵を返したグランドシャークは、砂飛沫を上げながらこちらに向かってくる。
「お、俺だって……!」
鉄棒を握り締めた透は、向かってくるデザートシャークに突っ込んでいく。
「駄目だ透! 戻って!」
「舐めんじゃねぇよ! 俺だってこんな奴に――」
「前見て! 前!」
「え――」
前方から向かってきたはずのグランドシャークは砂中深くに潜り。
そして透の足元から大きな口を開け飛び出してきた。
バクンッ――!
「透!!」
「うわあああああ!!」
下からの急襲を回避出来なかった透は、グランドシャークに喰われたまま砂中へと引きずり込まれてしまった。
「どどどどうすんのお兄ちゃん! 食べられちゃったよ、あのひと!」
「ちょっと待って……!」
僕は砂の中に目を凝らす。
そして透のステータスを発見し、『解析』する。
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NAME トオル
LV 15
HP 152/188
AP 105/105
MP 0/0
ARTS 『二度撃ち LV.2』『跳弾 LV.1』
MAGIC -
SKILL 『必中』
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「大丈夫……! まだ生きてる……!」
透のステータスは凄い勢いで砂の中を移動している。
恐らく喰われたまま、引き摺り回されているのだろう。
徐々に透のHPが減っていくのが確認できる。
(どうする……? 楓の『歌姫』だけじゃ、HP回復が追いつかない……!)
相羽さんに用意してもらった回復薬を使おうにも、まずは砂から引きずり出さなければ使えない。
「玲人、砂の中まで氷魔法は届くかしら?」
「……無理だな。多少でも隙間があれば、話は別だが」
「隙間……」
僕の脳内でなにかが閃く。
隙間を、作る――?
「お兄ちゃん……?」
「……みんな。ちょっとだけ下がってて」
「何か案でもあるのか、優斗」
「うん。成功するかは分からないけど、やってみるしかない……!」
僕の言葉に楓と澪が頷く。
「ふふ、面白そうね」
「……」
ニヤリと笑ったやよい先輩と無言のままの来栖先輩。
彼らも僕から少しだけ後ろに下がった。
僕が覚えた技。
学園内では忙しくて、まだ一度も試したことがなかったけれど――。
僕は右手を砂の上に翳す。
そして念じる。
僕は『解析士』――。
全ての事象を解析し、答えを導く者――。
「――《結合》!!」
砂上に一筋の線が伸びていく。
そして右と左に大きく分かれていく。
「これは……!?」
「へぇ、面白い。砂を左右に分けて結合させたって訳ね」
驚く澪に説明するやよい先輩。
やよい先輩の言うとおり、僕は砂を直線状から左右に分け、それぞれを結合させた。
左右に分かたれた砂は岩石のように固まってしまっている。
「居た……! お兄ちゃん! 鮫の尻尾が見えたよ!」
「来栖先輩……!」
「……ん」
僕の声に反応した来栖先輩は、微かに見えるグランドシャークの尻尾にむかい氷魔法を詠唱した。
「……《氷柱》」
ビキビキと音を立て、凄まじいスピードでグランドシャークの尻尾に命中した氷魔法。
「ほら! 澪先輩の出番だよ!」
「え? わ、わたし? 私が引っ張るの?」
嫌そうな顔をした澪だったが、皆の無言の圧力により溜息を吐き、氷柱を掴んだ。
「ちべたい! くそ……! このおおおおおおおおおお!!!」
力いっぱい氷柱を引き上げた澪。
そのままデザートシャークが引き上げられていく。
「生きてるか! 透!」
「……げほっ! げほっ、げほげほっ!!」
いくらか砂を飲み込んだのだろう。
デザートシャークに咥えられたまま、地上に引き上げられた透。
『ピギィ……』
「あら、まだ息があるのね。あとどれくらいかしら、優斗くん」
やよい先輩の言葉の意味を理解した僕は、再びデザートシャークを『解析』する。
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NAME デザートシャーク
LV 22
HP 202/315
AP 142/142
MP 0/0
ARTS UNKNOWN
MAGIC UNKNOWN
SKILL UNKNOWN
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「残りHP、あと200ちょっとです……!」
「そう。じゃあ皆で一斉に行きましょうか」
そう答えたやよい先輩は軽鉄剣を構える。
それに続き澪と来栖先輩が武器を構えた。
「へ? あ、ちょ、俺、喰われたまま――」
青ざめた透の制止を聞かず、3人は各々の技と魔法を発動する。
「勘弁してくれえええええええええ!!」
透の叫び声が、砂漠の空に空しく響き渡ったのは言うまでもない――。
【Acquisition】
『デザートシャーク』
砂暴鮫の牙×2
砂暴鮫の強皮×2
砂暴鮫の長舌×1
砂暴鮫の鱗×4
砂暴鮫の鋭尾×1