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023 延々と続く砂漠

 重厚な正門が教師、用務員ら4人掛かりで開かれていく。

 学園敷地の先に見えるのは、まだ日が昇っていない延々と続く砂漠道だ。

 目視できる範囲内にはおよそ食べ物になりそうなものは見つけられない。


「……優斗。死ぬんじゃねえぞ」


 珍しく真剣な面持ちの大輝は右手の拳を僕に突き出してくる。


「そっちこそ。必ずみんなの食料を見つけてくれよ」


 同じく真剣な表情で僕も右手の拳を突き出す。

 お互いの拳が触れ合ったのが出発の合図となる。


「優斗ー! 頑張ってねー!」


「藍田君ー! 必ずまたここで会いましょう!」


 里香と楠先生が手を振ってくれる。

 大輝ら食料調達班は正門を抜け東へ。

 僕ら異世界調査班は砂漠道を真っ直ぐに進んでいく。


 校舎を振り返ると伊ノ浦理事長がじっとこちらを見つめていた。

 その瞳は僕になにかを伝えたがっているようにも見えた。


「お兄ちゃーん!」


「うわっ! ちょ、楓! いきなり背中に抱きつくなよ!」


 妹の楓に抱きつかれ、僕は意識を仲間たちに戻す。

 僕が選別した異世界調査班のメンバー。

 妹の楓。

 中等部3年の『くっころ先輩』こと日高澪。

 同じ学年で4組の小沼透。

 そして高等部2年のやよい先輩と来栖先輩だ。


「ふふ、仲の良いこと」


 色気のある声でそう答えたのはやよい先輩だ。

 高校2年生とは思えないほど大人っぽい。


「けっ、藍田ばかり女子から人気あってよぅ……。面白くねぇな……」


 そう言い悪態を吐いたのは高等部1年4組の小沼透。

 僕と同じ中等部出身の生徒だが、面識はあまりない。

 というかあまり学校に来ている姿を見たことがなかった。

 もしかしたら登校拒否をしていた時期があったのかもしれない。


「そうか。優斗は女子どもから人気があるのか。ほうほう」


 僕を下の名前で呼び捨てにしたのは、中等部3年の澪だ。

 いつの間にか『優斗』という呼び名が定着したらしい。

 ……僕、先輩なのに。


「ねえねえ、くっころ先輩。いつも私のことを『藍田』って呼ぶじゃないですかぁ。あれ、お兄ちゃんと混同しやすいから、今度から私のことを『楓』って呼んでもらえますかぁ?」


「……お前が私のことを『くっころ先輩』と呼ばなければな」


「目が怖い! 澪先輩、目が怖い!」


 澪にギロリと睨まれた楓は僕の背中に隠れる。

 僕は溜息を吐き、一人発言していない来栖先輩のほうに視線を向ける。


「……」


 来栖先輩は何も答えず、ただ黙々と僕らに付いてきていた。

 もしかして機嫌でも悪いのだろうか。


「あ、あの……。来栖先輩……?」


「……」


 返事がない。

 どうしよう……。


「……Zzz」


「……お兄ちゃん? この人、いびき掻いてない?」


「え――」


「……Zzz」


 ……確かに。

 来栖先輩からはいびきのような低い唸り声が聞こえてくる。


「はぁ……。まーた寝てるのかしら玲人は……。もーしもしー! 朝ですよー!」


 来栖先輩の耳元で大きな声を出したやよい先輩。

 下の名前で呼んでいるところをみると、2人は友人なのかもしれない。

 ……ていうか、寝てる・・・


「……ん。……なんだ、やよいか」


「『なんだ、やよいか』、じゃないわよ。朝が弱いのは知ってるけど、どうやったら歩きながら寝れるのよ」


 腰に手を当て、不機嫌そうにそう答えるやよい先輩。


「……知らん。いつの間にか寝てしまっていた。…………Zzz」


 そう言った来栖先輩は、また低い唸り声を上げ目を瞑ってしまった。

 両手を広げ、首を傾げるやよい先輩。


「か、変わった人間がいたものだな……」


「うん……。低血圧にも程があるよね」


 澪と楓が呆れ顔でそう答える。

 僕は苦笑し、改めて皆に向き直った。


「これから先、僕がリーダーとしてみんなをサポートしていきます。至らない点は多々あると思いますが、どうか宜しくお願いします」


 ペコリと頭を下げる僕。

 大輝のように皆をまとめられるとは思えないけれど。

 でも僕は僕でやるべきことをやるだけだ。


「よっ! さすがはお兄ちゃん! 頭を下げられる大人!」


「優斗は私が守ってやろう。大船に乗ったつもりでいろ」


「ふふ、宜しくね。可愛いリーダーくん」


「……Zzz」


「……けっ」


 各々が各々の反応を示し、僕らの異世界調査が幕を開けることとなった――。





 見渡す限りの砂漠。

 まるでこの世界すべてが砂で出来ているかのような錯覚に陥ってしまうほどだ。

 時刻は午前5時30分。

 もうそろそろ日が昇ってくる時間だ。


「本当に建造物なんてあるのかよ……。砂ばっかりで石ころすらねぇじゃねえかよ……」


 ブツブツと文句を呟く透。

 しかし彼の言うとおりだ。

 地平線の彼方まで砂漠が続いている。

 これでは学園周囲20kmはすべて砂漠で覆われているのかもしれない――。


「でも、なんか変な感じじゃない?」


「変な感じ?」


 楓の言葉に反応する僕。


「うん。なんて言えばいいのか分からないけど……。砂漠ってもっとこう、暑かったり寒かったりするのかなって……」


「そういえば、日が昇る前の砂漠って、凄く寒いって聞いたことがあるわね」


 楓に続き、やよい先輩がそう答える。

 僕はその場に屈みこみ、念のために砂漠の砂を『解析』してみる。


「……駄目か」


 特になにも表記は浮かび上がらない。

 どんなものでも『解析』できるわけではないのか……。

 レベルがもっと上がれば可能性はあるのかもしれないけれど……。


「なあ、藍田。もう帰らねぇ? これ以上進んだって意味ねぇよ」


「でも……」


「だって見てみろよ。見渡す限り砂漠しかねぇじゃんか。これじゃあ大友たちも食料なんて――」


「小沼! 後ろ!」


「へ――?」


 澪の叫び声に皆の視線が透の背後に集中する。

 そこには大口を開けた化け物が――。


「ちっ……!」


 いち早く動いた澪はそのまま透にタックルする。


バクンッ――!


 という音と共に空を噛む化物。


「ひ、ひいいいぃ!」


「お出ましね……! ほら、玲人! 起きなさい!」


「……ん」


 完全に腰を抜かしてしまった透。

 しかし来栖先輩は、まだ眠たそうに目を擦っている。


「お兄ちゃん……!」


「ああ……!」


 楓に急かされ、僕は化物に視線を向ける。

 そして『解析』を発動する。


------

NAME デザートシャーク

LV 22

HP 315/315

AP 142/142

MP 0/0

ARTS UNKNOWN

MAGIC UNKNOWN

SKILL UNKNOWN

------


「名前は『デザートシャーク』! LVは22でHPは315だ!」


 皆に聞こえるよう、大きな声で解析結果を伝える。

 そして倒れている透と澪に手を差し伸べる。


「くくく、さしずめ『砂漠の鮫』といったところか……!」


 不敵に笑う澪。

 そして腰に差した『土竜の爪剣』を抜いた。


「澪先輩……。それ、そのまま訳しただけじゃ……」


「う、うるさい! 楓はさっさと私の後ろに隠れろ!」


「ひー!」


 澪に怒鳴られた楓は大人しく後方へと下がった。


「日高さんとやよい先輩は前衛、僕と透は中衛、楓と来栖先輩は後衛でお願いします!」


 僕の指示に皆が動く。

 しかし透だけは腰が抜けてしまって上手く立てないでいた。


「あら、男の子なのにだらしないわねぇ」


「う……」


 前衛から見下すように透に視線を向けるやよい先輩。

 悔しそうに目を背ける透。

 でも、気持ちは分かる。

 誰だって怖いはずだ。

 いきなり化物に襲われたら、誰だって――。


「来るぞ! 集中しろ!」


 澪の言葉に全員が気を引き締める。

 砂の中を泳ぐように、巨大な鮫が徐々にこちらに向かってくる。



 そして、僕らの戦いの火蓋が切られた――。


















〇『吸血』

魔剣士ダークソルジャーのユニークスキル。

攻撃の際に与えたダメージの数%を吸収し回復できるスキル。

レベルアップにより回復量が増加する。


〇『必中』

銃剣士ガンブレイズのユニークスキル。

必ず攻撃が命中するが、威力は半減する。

レベルアップにより威力低下の割合が低減する。


〇『詠唱停止』

氷戟士アイスディザスターのユニークスキル。

確率により相手の魔法詠唱を強制的に止めることができる。

レベルアップにより成功率が上昇する。

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