021 鍛冶士と洋裁士
店内は思ったよりも広かった。
即席でこれだけのものを作れるのだ。
時間をかけてじっくりと補強すれば、本当のお店に見えてしまうかもしれない。
「早く……! 早く見せてくださいよぅ! 南先輩!」
「……まあそう急かすな。……これだ」
急かす里香に促され、作業台の上に武具を並べていく南先輩。
僕はそれを『解析』する。
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土竜の爪槍×1
土竜の爪剣×1
重鉄剣×1
木弓×1
木杖×4
鉄棒×2
軽鉄剣×1
鉄針×1
土竜の皮鎧×1
重鉄鎧×2
重鉄腰鎧×3
軽鉄鎧×4
軽鉄腰鎧×4
木鎧×3
木腰鎧×3
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「すごい……。こんなに沢山……。……? この『土竜の爪槍』とかは……?」
「ほう。お前にはそう表記が見えるのか。そうだ。お前らが持ってきた『爪』から作った武器だ。それにそこの剣と鎧もな」
南先輩は『土竜の爪剣』と『土竜の皮鎧』を指差しそう答えた。
確か、あのときグランドビーストが落とした素材は『土竜獣の爪』が2つと『土竜獣の皮』が1つだったはずだ。
それらを全て武具に加工してくれたということなのだろう。
「ひー、ふー、みー……。ねえ、南先輩。武器は12人分あるみたいだけど、防具が少し足りないような……?」
数を数えていた里香がそう南先輩に質問する。
「ああ。お前らの探索メンバーの中で2人ほど『魔法職』の人がいただろう。俺が作る防具は魔法職の人間は装備できないのだ。そっちは明日田場さんが用意してくれている」
「へぇ、そうなんですか。知らなかった……」
生産職である南先輩がそう言うのだから、確かな情報だろう。
鍛冶士のJOBで作成できる装備は、武器は全職業、防具は魔法職以外と覚えておこう。
「ね、ね、南先輩! 私の装備ってどれですかぁ! わくわく!」
「里香……」
頭を抱え溜息を吐く僕。
しかし南先輩は鬱陶しそうにはせず、優しく微笑み里香の装備を選んでくれる。
そしてキャッキャと騒ぎながらそれらを装備する里香。
「ほうら優斗! 解析、解析!」
「はいはい……」
仕方なく僕は里香を『解析』する。
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NAME リカ
LV 12
HP 135/135
AP 95/95
MP 0/0
ARTS 『閃光の槍 LV.3』『演武 LV.2』
MAGIC -
SKILL 『跳躍』
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そしていつもどおり瞬きをする。
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NAME リカ
JOB 槍撃士
WEAPON(W) 土竜の爪槍
BODY 軽鉄鎧
WAIST 軽鉄腰鎧
SHOES 茶色の革靴
ACCESSORIES 熊のキーホルダー
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「どうどう? 格好良い?」
「うーん……。南先輩の武具の表記は格好良いけど、靴とアクセサリーが台無しにしてるかな」
「ちょっと待ったー! 靴はいいとしても、私のこの熊ちゃんを馬鹿にするなクマー!」
そう叫んだ里香は爪槍を上空で回し始めた。
「ちょ、分かったから! 危ないからそんなの店内で回したら駄目だよ!」
何とか里香を宥める僕。
南先輩は怒るどころか声を押し殺して笑っているし……。
やっぱ見た目と違って優しい先輩なんだな……。
「ていうか止めてくださいよ南先輩も!」
「……あ、すまない。つい可笑しくてな」
そう答えた南先輩はひょいと里香を持ち上げてしまう。
まるで赤子を抱くお父さんのように。
「あ、ちょ、南先輩ー! 私が悪かったですー! 降ろして恥ずかしい!」
高い高いをされたまま、顔を真っ赤にして叫ぶ里香。
ちょっといい気味だと思ってしまったのは内緒にしておこう……。
大人しくなった里香をそっと降ろす南先輩。
「ふぃー……。まさかこの歳で高い高いされるとは思わなかったわ……。焦ったー……」
「里香が調子に乗って武器を振り回すから――」
「なんですってー! 元はといえば優斗がこの熊ちゃんを――」
「……はいはい。お前ら、もう用は済んだのだろう? 早く明日田場さんのところに寄って服を受け取ってこい」
「あ」
「ひっ!」
僕と里香の首根っこを掴みひょいと持ち上げた南先輩。
どうして僕まで……。
そしてそのまま店外に連れ出されてしまった。
「……台車を用意しておくから、明日田場さんの所で服を受け取ったらまたここに来い」
そう言った南先輩はそのまま体育館から出ていってしまった。
「じー」
「な、なんだよ里香」
里香のジト目が僕に突き刺さる。
僕は口笛を吹き、体育館の奥へと進んだ。
「逃げる気かー! 熊ちゃんに謝るクマー!」
再び僕に襲いかかる里香。
もう、どうにでもしてください……。
◇
体育館の奥に進んだ僕らは『洋裁店』の看板の前に辿り着く。
ここで明日田場さんから魔法職のひとの防具を受け取れば今日の仕事は終わりだ。
明日は早朝から出発するから、今日は早めに寝ておかないといけない。
楠先生には19時就寝だと言われているし。
「失礼しまーす」
声を掛け扉を開く里香。
僕も里香の後に続く。
「やあ、待っていたよ。……とういうか、すごいアンバランスな格好だね」
里香の姿を見た瞬間、溜息を吐いた明日田場さん。
「うー、明日田場さんにまで同じ事を言われた……」
がっくりと肩を落とす里香。
僕はその姿に苦笑する。
「南君が作れるのは武器や魔法職以外の防具だからね。僕が作れるのは、魔法職専用の防具と靴かな」
「靴も『洋裁士』の方のお仕事なのですね」
僕の言葉に首を縦に振る明日田場さん。
「もちろん、もう用意してあるよ。ちょっと待っててね」
そう答えた明日田場さんは、店の奥からメンバー全員分の靴と数枚の服を用意してくれた。
作業台に並べられたそれらを僕は『解析』する。
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強化皮の具足×10
軽皮の靴×2
シルクの法衣×1
シルクの腰蓑×1
毛皮の法衣×1
毛皮の腰蓑×1
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「これらは全部学園の敷地内にある素材で作ったものだよ。君達が探索に出掛けて、色々な素材を集めてきてくれれば、魔法の力を高める服とか、素早く動けるようになる靴とかも作れると思う」
「……まさか。空飛ぶ靴とかも……?」
またもや目を輝かせながら明日田場さんに質問する里香。
「可能だろうね。まあでも、そのために必要な素材も相当レアだろうし、素材があっても僕がもっと鍛錬してレベルが上がらないと作れないだろうし」
明日田場さんの答えに色めき立つ里香。
空飛ぶ靴が作れるかもしれない……。
もしも、それを穿いて空を飛べるようになったら――。
「あぁん! 夢が広がるぅー!」
「里香……」
普段とは違う、気持ち悪い声を出した里香。
もう彼女は誰にも止められない……。
「藍田君、寺島さん。大変だろうけど、頑張ってね。僕は僕で皆の役に立てることをするよ。何か困ったことがあったらすぐに言ってくれ」
「はい。有難う御座います」
「今度は私も可愛いお洋服とか着てみたいです!」
「……いや、里香は戦闘職だから明日田場さんの作る服は装備できない――」
「知ってるわよ! 分かってて言ったの! もう! 夢を壊さないでよ優斗!」
「いてっ! もう……いちいち背中を叩かないでよ……」
痛む背中を擦りながら、僕らはもう一度明日田場さんに礼を言い店を出た。
体育館の入り口に視線を向けると、ちょうど南先輩が台車を持ってきてくれたようだ。
手を振った僕と里香は南先輩へと駆け寄っていく。
探索メンバー用の武器と防具はこれで揃った。
大輝と瞳は体育館では見かけなかったが、恐らくどこかで仕事を進めているのだろう。
僕らは南先輩から台車を受け取り装備を積み、校舎へと戻っていった――。