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020 即席の作業場

 それから丸1日、僕らはそれぞれの『職務』を全うした。

 大輝や里香を始め、探索に向かうメンバーは個々のユニークスキルを鍛錬し、レベルを上げ。

 学園外壁の補強に当たっているメンバーはこの広い敷地全体を、まるで要塞のように変貌させた。

 恵理子は水を自在に出現させることができるようになり、僕らの飲料水の心配もなくなった。


 特に成長が著しかったのは武則だ。

 この数日で、学園内にあるほぼ全ての電気設備に通電できるようになった。

 今では照明やエアコンを始め、家電製品全般は使用できるようになっている。

 それに対し、成長が遅いのは美香子だ。

 火の魔法は扱えるようになったが、威力の調整に手間取っているらしい。

 いずれはコンロやストーブ、焼却施設などに利用できれば良いのだが、今はまだ備品のライターで事が足りている。

 落ち込んでいた美香子だったが、皆の励ましにより元気を取り戻した。


 そして僕はというと――。



------

NAME ユウト

LV 42

HP 384/384

AP 212/212

MP 0/0

ARTS 『分解 LV.1』『結合 LV.1』『視覚効果 LV.1』

MAGIC -

SKILL 『解析』

------


「うーん……。なんか最近、皆の『解析』ばかりでアーツの効果とかは全然試していないけど……」


 手鏡を仕舞い、僕は独り言を呟く。

 この2日間、訓練をしている全ての生徒、教師、用務員らを定期的に『解析』していた僕。

 大輝や里香にいたっては、理事長室での一件以来、ものすごい気合を入れて特訓を始めたから、レベルの上昇が凄まじかったし。

 学園設備の強化に当たってくれている島田先生のメンバーらも、寝る間を惜しんで作業に取り組んでくれていたから、どんどんレベルが上昇していた。


「明日の早朝には出発だし、検証は学園外に出たときになるかな……」


 腕時計を見るとすでに午後の15時を回っていた。

 異世界に転移しても、時計は正常に時を刻んでいる。

 校内にある壁掛け時計も別に狂ったりはしていなかった。


「今日は南先輩と明日田場あすたばさんの所に行かないと」


 水道の蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗う。

 そしてフカフカのタオルで顔を拭いた。

 蛇口を捻れば水は出るし、用務員室にある洗濯機はちゃんと動くし。

 一見すると、何不自由ない生活を送っているようにも見える。

 しかし、学園内に備蓄された食糧はもってあと1日か2日。

 これでも皆が協力して節約してくれたお陰で、予定よりも長く持っている。


「……よし!」


 気合を入れた僕は化粧室を出て教室へと向かう。

 今日は手分けをして各生産職の人たちから装備品を受け取る予定になっている。

 僕は里香と共に南先輩と明日田場さんの所へ行き、大輝と瞳は奈緒美先輩と未来みくさんの所に行く予定だ。


「おー、来たわね」


 教室の扉を開くと、さっそく里香が出迎えてくれた。


「大輝と瞳は?」


「もう行っちゃったわよ。なんか大輝ったら張り切っちゃってさ。鼻の下を伸ばして、だらしないったらありゃしないわ」


「あー……なるほど」


 恐らく奈緒美先輩と未来みくさんに会えるからだろうと予想する。

 確かに2人とも美人だから、年上好きの大輝にしたらテンションが上がってしまうのだろう。


「男って年上のお姉さんに弱いのかしら……」


 何故かちらっと僕の方に視線を向けながらそう呟く里香。

 僕は目を逸らし乾いた笑いをするしか出来ない。

 あれから、いったい何度、里香を始め大輝や瞳に楠先生のことをいじられたことか。

 思い出すだけで赤面してしまう……。


「ほ、ほら里香! ぐずぐずしてると日が暮れちゃうよ! 行こう!」


「あ、待ってよ優斗! この年上大好きっ子がー!」


 赤くなった顔を見られないように僕はそそくさと教室を後にした。

 慌てて追いかけてきた里香が何か騒いでいるが、僕は耳に両手を当てそのまま廊下を走る。


 何も聞こえない、何も聞こえない……。





 高等部の校舎から学園の敷地内に出た僕らは体育館へと向かった。

 そこには即席の作業場が作られ、南先輩らはそこで僕らの武具を作成してくれていた。

 

「うわぁ……。なんか、すごいことになってるわね……」


 体育館に入った途端、里香が溜息を吐く。

 入り口向かって左側には南先輩の『鍛冶店』。

 その奥が明日田場さんの『洋裁店』。

 向かって右側には奈緒美先輩の『紋章店』。

 その奥が未来さんの『アクセサリーショップ』。


「うん……。なんか、本当にゲームの世界みたいだというか……」


 それぞれの敷地にはしっかりと看板が立てられている。

 もしかしたらあれも専門のJOBの人が作ったのだろうか。

 また、即席にしては頑丈な作りの、それなりの広さの小屋。

 きっと島田先生のメンバーで作ってくれたのだろうけれど、それにしても手際が良すぎる……。


「ほんと、何なんだろうね『JOB』って。優斗にしか見えないものだけど、『解析』してもらった一人一人には、しっかりとその意味が分かっているし。まあ、自分の能力に関することだけっていう条件つきだけど」


「そうだよね……。皆にも僕みたいにステータスの表記を見ることができれば、もっと安全に探索もできるし……。異世界調査班のリーダーだって僕なんかじゃなくても――」


「こら! また弱気になってるぞ優斗!」


「うわっ!」


 どん、と背中を叩かれ転びそうになる。


「優斗は優斗で良いんだよ。みんなそれぞれ違って当たり前なんだから。前に理事長も言っていたでしょう? 『人は一人として同じ人間はいない』って。だからみんな違う『JOB』なんだって」


 僕に手を差し伸べた里香は、優しい笑顔でそう言ってくれる。

 昔からそうだ。

 僕が落ち込んだり、小さい頃に友達と喧嘩して泣いて帰ったときも。

 いつも優しい笑顔で僕に手を差し伸べてくれて。


「……ありがとう、里香」


 僕は彼女の温かい手を握る。

 昔から変わらない、柔らかい手。

 とても安心する、里香の手。


「……こんな所で見せつけられても困るのだがな」


「きゃあ!」


「う、うわあ!」


 急に後ろから声を掛けられ悲鳴を上げる僕ら。

 大輝よりも長身の、学生服を着た男子生徒が驚いた僕らを見下ろしている。


「も、もう……。驚かさないでくださいよぅ、南先輩……」


 ほっと胸を撫で下ろす里香。


「……別に驚かせたつもりはないのだが。存在感が無いのは昔からだからな。気にするな」


「そ、それだけ体が大きくて存在感が無いっていうのも凄い気が……」


 体勢を立て直し、改めて南先輩を見上げる僕。

 身長は恐らく2メートル近くはあるのだろう。

 口調とは裏腹に優しそうな目をしている。


------

NAME キョウイチロウ

LV 12

HP 85/85

AP 65/65

MP 0/0

ARTS 『武器破壊 LV.1』

MAGIC -

SKILL 『武具作成』

------


 僕はいつものとおりに瞬きをする。


------

NAME キョウイチロウ

JOB 鍛冶士ブラックスミス

WEAPON(R) ---

WEAPON(L) ---

BODY 私立伊ノ浦学園の制服

WAIST 私立伊ノ浦学園の制服

SHOES 黒い革靴

ACCESSORIES 銘の入った鉄鎚

------


「……すまんな。また更にレベルが上がったようだ」


「いえ、僕にはこれくらいしか出来ないですから……」


 お礼を言われ、頬を掻きながら照れる僕。


「南先輩。頼んでいたものってもう出来てますか?」


 里香が目を輝かせながら南先輩に質問する。


「……ああ。さきほど完成したぞ。ただ、性能は期待するなよ。お前らから受け取ったわずかな素材と、学園にあるもので作っただけだからな」


「おお! 見たい! どんな武器が出来たのか見たいです!」


「里香……」


 急にテンションが上がった里香に溜息を吐く僕。

 でも、これが里香の良いところなんだけど……。


「……俺の店に来い。12人分、きちんと用意してあるぞ」



 そして僕らは南先輩につれられ『鍛冶店』へと向かう――。


















濱田小百合はまださゆり

中等部1年1組の女子生徒。

お調子者でクラスの人気者。

悪戯好きでブースカクッションをコレクションしているらしい。


七瀬美紀ななせみき

伊ノ浦学園の国語教師。

日本の文化をこよなく愛する大和撫子(一部の生徒談)。

弓道部の顧問を担当している。


九条直継くじょうなおつぐ

用務員の男性。

伊ノ浦学園で働き始めて10年以上のベテラン。

最近は腰が痛いらしく接骨院に通い電気治療を行うのが日課になっている。

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