表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/57

001 襲いかかる獣

「ん……」


 目を覚ます。

 ここは、いったいどこだろう……?


 周囲を見回すと、クラスのみんなが倒れていた。

 焦った僕は隣で倒れている里香の身体を揺り動かす。


「うーん……。あれ? 優斗……?」


「良かった……。無事みたいだね」


 目を覚ました里香は目をぱちぱちとさせ、周囲を見回している。

 僕はその隣に倒れていた瞳を同じように起こす。


「あ……。優斗くん……。私、一体……?」


 同じく目を覚ました瞳は、少し恥ずかしそうにしなが身体を起こす。


「僕にも分からない。でも今は、みんなが無事か確認しよう」


「え、ええ……」


 僕と里香と瞳は、3人で手分けをして身近な生徒達を起こしていく。

 幸いにも怪我人は居ないようだ。

 最後に僕は机の下で寝転がっている大輝を起こす。


「……うおっ!? ……あ、あれ……? ここは誰だ? 俺はどこだ?」


「なに寝ぼけてんだよ……」


 起きた早々、いつものボケをかます大輝。

 いまだにこいつが天然なのか狙ってやっているのか判断がつかない。


「みんな無事みたいですね……。他のクラスはどうなのでしょうか……」


 ざわつく教室を見渡した瞳は教室の扉を開けようと手を掛ける。

 すると同じタイミングで勢いよく扉が開いた。


「きゃっ!」


「あ……ごめんなさい! 大丈夫、那美木さん?」


 慌てて教室に入ってきたのは、今しがたホームルームを終え、職員室に向かっていったはずの楠先生だ。

 しりもちを付いた瞳に手を差し伸べ、クラスの全員に視線を向ける。


「良かった……。全員無事みたいね……」


 ホッと胸を撫で下ろす楠先生。


「一体なにが起こったんですか?」


 僕の質問に教室中の注目が集まる。


「……それはまだ分からないわ。もしかしたら大地震が起きたのかも知れないし、今理事長が緊急職員会議を――」


『ぜ、全校生徒に通達します! 決して教室から出ないよう注意してください!』


 いきなり大音量で流れた校内放送。

 僕を含め、クラス全員が飛び上がらんばかりに驚いてしまった。


『繰り返します! 絶対に教室から出ないでください! 各教員は生徒らの安全を最優先して――』


「安全……? 別に俺ら、怪我なんかしてないけど……」


 なおも流れ続ける校内放送に耳に指を突っ込みながらそう呟く大輝。


「ちょっとみんな! 窓の外を見て!」


 ヒステリックに叫ぶ里香の言葉に、クラスの生徒らは一斉に窓の外を見る。

 そこに居たのは――。


「なんだよ、あれ……」


 うじゃうじゃと群がる見たこともない獣の集団。

 野犬にしては大き過ぎるし、牛より少しだけ小さい感じの――。


「……あれ?」


 獣の群れのすぐ上空になにかが浮かんでいるのが見える。

 緑色の文字のような、数字のような――。


「お、おい! 奴ら校舎に向かってくるぞ!」


 大輝が怯えた声で叫ぶ。


「怖い……。ねえ、優斗……」


 珍しく里香が僕の学生服の裾を掴んで震えている。

 彼女のこんな姿を見るのは初めてだ。

 でも、僕だって怖い。

 一体どうしたら――。


『グルルゥ……』


「え――」


 教室の扉の隙間から低い唸り声が聞こえ、教室中の視線が一点に集まる。


「な、なんでもう校舎の中に……」


「みんな……! お、落ち着いて……! ゆっくりと窓際へ移動しなさい……!」


 楠先生が震えた声で生徒らに指示を出す。

 その声に従い、みんな少しずつ一箇所に集まっていく。


『グルルルゥ……』


 見たこともない獣は、扉の隙間から鼻だけ出して教室内の匂いを嗅いでいるようだ。

 剥き出しの牙がここからでも容易に確認できる。

 あれに噛まれたら一巻の終わりだろう。

 僕は生唾をごくりと飲み込む。


(……あれ?)


 なにかがまた視界にちらつき目を擦る。

 扉の隙間から見える獣の上部になにかが見える。

 僕は目を凝らし、そのなにかを凝視する。


------

NAME グランドビースト

LV 4

HP 42/42

AP 15/15

MP 0/0

ARTS UNKNOWN

MAGIC UNKNOWN

SKILL UNKNOWN

------   


「グランド……ビースト?」


 淡く緑色に光る文字にはそう記載してあった。

 LV……HP……?

 一体なんなんだ……?

 まるでいつもやっているゲームみたいな――。


『ガウウゥ!』


「お、おい! こっちに来るぜ!」


 勢い良く扉を開けた獣は、牙を剥き出しながらこちらの様子を窺っている。

 このままでは僕らはあいつに喰われてしまう――。


「せ、生徒に手出しはさせませんよ……! た、食べるなら私を食べなさい!」


「楠先生……!」


 生徒らを守るように前面に立つ楠先生。

 その姿に感銘を受ける生徒達。


「くっそ……! こうなったら俺も行くぜ……!」


「馬鹿、やめろ大輝!」


「止めるな優斗! お前は里香や瞳たちを守ってやれ!」


「駄目だ! 僕が行くから大樹が里香たちを――」


 そう叫び、大輝の腕を掴んだ瞬間。

 同じような表記が大輝の頭上に浮かんだ。


------

NAME ダイキ

LV 1

HP 20/20

AP 13/13

MP 0/0

ARTS -

MAGIC -

SKILL 『咆哮』

------


「大輝……お前、それ……」


 大輝の頭上の表記を指差しそう呟く僕。


「はあ? 何を言っているんだ優斗?」


「何って……。これだよ、この表記……。スキル……?」


 先程の獣にはUNKNOWNで示されていたSKILLの箇所に『咆哮』と記載してある。

 慌てて瞬きをすると、今度は別の表記が浮かんだ。


------

NAME ダイキ

JOB 重戦士ウォーリア

WEAPON(R) -

WEAPON(L) -

BODY 私立伊ノ浦学園の制服

WAIST 私立伊ノ浦学園の制服

SHOES 黒の革靴

ACCESSORIES リストバンド

------


「なんなんだよこれ……。JOB……? 重戦士ウォーリアって――」


「……来るぞ! 楠先生! そこをどいてください!」


 僕の腕を押しのけ、大輝は楠先生の前へと躍り出る。


「大友君……! 下がって!」


『ガウウウゥ!!』


 宙を舞う獣。

 そしてそのまま大きな口を開け、大輝の喉元へと――。


「《ふざけんな! こいつらは俺が守んだよ!》」


 大輝の声が空気を振動させる。

 それと同時に宙を舞っていた獣がなにかに弾かれたように地面へと着地する。

 あれは……?


「……へ? なんだ今の……」


「SKILL……『咆哮』……」


 クラスの生徒らも楠先生も呆気に取られている。

 大輝も気付いていない。

 そもそも、あの獣や大輝に示されている表記が、僕以外・・・誰にも見えていない・・・・・・・・・――。


 僕はもう一度獣に視線を移す。


------

NAME グランドビースト

LV 4

HP 42/42

AP 15/15

MP 0/0

ARTS UNKNOWN

MAGIC UNKNOWN

SKILL UNKNOWN

------ 


 恐らく、あのHPという数字をゼロにすることが出来れば、奴を倒すことが出来る――。

 僕だけが『見ることができる』この力と、大輝の力を合わせれば――。


『グルルゥ……』


「くそ、なんだか分かんねぇけど、まだ向かってくるか……!」


 一瞬、面食らったようすの獣だったが、再び標的を大輝にしぼり牙を剥き出しにしている。

 考えろ――。

 どうしたらみんなを助けられる――?

 どうしたらこの獣を退治できる――?


「優斗……」


 里香が再び僕の学生服の袖を掴む。

 僕はそっと彼女の手に自分の手を重ねる。


「大丈夫。きっと大丈夫だか――」


 彼女と目が合った瞬間、彼女の頭上に表記が出現した。

 僕は無意識に視線を向けてしまう。


------

NAME リカ

LV 1

HP 7/7

AP 6/6

MP 0/0

ARTS -

MAGIC -

SKILL 『跳躍』

------


「里香まで……。なんなんだよ、一体……!」


「え? どうしたの優斗……?」


 再び瞬きをすると、大輝と同じように別の表記が出現した。


------

NAME リカ

JOB 槍撃士ランサー

WEAPON(R) -

WEAPON(L) -

BODY 私立伊ノ浦学園の制服

WAIST 私立伊ノ浦学園の制服

SHOES 茶色の革靴

ACCESSORIES 熊のキーホルダー

------


「今度は槍撃士ランサー……?」


 大輝が重戦士ウォーリアで里香が槍撃士ランサー

 これでは本当にゲームの世界みたいだ。

 でもどうして僕以外に誰も表記を見ることが出来ないんだ?

 一体なんなんだ、この力は――?


「あれ、なんだろう……。なんだか分からないけど、力が湧いてきたような……」


「……里香?」


「私も……私も大輝と一緒に戦う……! みんなを守りたい……!」


 そう返事をした里香は、生徒らを掻き分け掃除道具が納められているロッカーを開けた。

 そして長ホウキを取り出し獣に向かい構える。


「駄目よ寺島さん……! 下がりなさい!」


「私だってみんなを守りたいんです! 先生こそ下がっていてください!」


 楠先生の制止を聞かず、里香は大輝の横へと立つ。

 僕は慌てて彼女の後ろを追った。


------

NAME リカ

JOB 槍撃士ランサー

WEAPON(W) 長ホウキ

BODY 私立伊ノ浦学園の制服

WAIST 私立伊ノ浦学園の制服

SHOES 茶色の革靴

ACCESSORIES 熊のキーホルダー

------


(WEAPONの表記が変化した……。やはりこれは……)


「女の出る幕じゃねえ! 下がってろ里香!」


「なに一人で格好つけてるのよ! 貴方だけに死なれたら後味悪いに決まってるでしょう!」


 長ホウキを構えそう叫ぶ里香。


「知らねぇぞ……! どうなっても……!」


 頭をクシャクシャに掻きむしった大輝は近くの椅子を拾い上げ構える。


『ガウウゥゥゥ!!』


「来た!」


 地面を蹴り再び跳躍した獣。

 しかしそれに合わせ、里香も高飛びの要領で跳躍する。

 あれは――?


「えい!!」


『ギャギャン!』


 見事、獣の額に攻撃を当てた里香。

 しかしすぐに体勢を立て直した獣は里香の着地を狙い牙を向ける。


「させるかよ!」


ガンッ――!


 という大きな音ともに大輝が椅子をフルスイングでぶち当てる。

 完全に不意を突かれた獣は後方に大きく吹っ飛んでいく。


「凄い……。2人とも、あの化物と渡り合ってる……」


 瞳が目を輝かせている。

 クラスのほかの生徒らも、2人の検討ぶりに期待の眼差しを向けている。


------

NAME グランドビースト

LV 4

HP 35/42

AP 15/15

MP 0/0

ARTS UNKNOWN

MAGIC UNKNOWN

SKILL UNKNOWN

------


(今の2人の攻撃でHPが7減った……。でも、いつまでもこちらが優勢とは限らない……)


 獣はまだギラギラとした目を2人の獲物へと向けている。

 もしもこのHPという数字が、ゲームと同じシステムだとしたら。

 大輝と里香のHPがゼロになってしまったら――?


(考えろ、考えろ、考えろ……! 大輝はなぜ重戦士なんだ? 里香はなぜ槍撃士なんだ……?)


 他の生徒らも同じような能力が備わっているのだろうか?

 もしもそうならばきっと決められたパターンが存在するはず。

 ここまでゲームと同じ設定なのだから、もうゲームの感覚になってしまったほうが良い。

 考えろ。

 レベルの差があるモンスターを倒すのに、必要なJOB――。

 大輝は柔道部……里香は……陸上部?

 確か里香は走り高跳びの選手じゃなかったか?

 もしかして――?


「……な、なに?」


 僕の視線に気付いた楠先生は素っ頓狂な声を上げた。


「楠先生は確か、前は保健の教師でしたよね」


「え、ええ。そうだけど……」


 一か八か。

 僕は楠先生に視線を向け、凝視する。


「あ……」


------

NAME リョウコ

LV 1

HP 13/13

AP 0/0

MP 20/20

ARTS -

MAGIC -

SKILL 『治癒』

------


 楠先生のすぐ頭上に浮かぶ表記。

 やはり思ったとおりだ。

 僕は即座に瞬きをする。


------

NAME リョウコ

JOB 治癒士キュアベル

WEAPON(R) -

WEAPON(L) -

BODY 白のシャツ

WAIST 茶色のスカート

SHOES 黒のブーツ

ACCESSORIES イヤリング

------


治癒士キュアベル……。これなら――」


「きゃああ!」


「里香!」


 里香の悲鳴で思考を止める。

 慌てて彼女に視線を向ける。


------

NAME リカ

LV 1

HP 3/7

AP 6/6

MP 0/0

ARTS -

MAGIC -

SKILL 『跳躍』

------


「楠先生! 彼女に『治癒』を!」


「え? あ……うん!」


 血を流し倒れている里香の元に駆け寄る楠先生。

 そして傷に右手を当て、目を閉じる。


「これは……傷が消えていく……?」


 見る見るうちに里香の傷が癒えていく。

 これならいける……!


「大輝はそのまま『咆哮』を使いつつ奴を足止めしてくれ!」


「え? ……ああ、任せろ!」


「楠先生は後方で回復を! 里香は大輝が奴を足止めしたら『跳躍』で攻撃を!」


「優斗……? ええ、分かったわ! やってみる!」


「私は2人をサポートすればいいのね……!」


 3人が僕を振り返り頷いてくれる。

 沸き立つクラスメイト達。

 

 そして再び戦闘が始まった――。


















〇『咆哮』

重戦士ウォーリアのユニークスキル。

怒号で一喝し、一瞬だけ相手の動きを止める。

攻撃判定はなし。


〇『跳躍』

槍撃士ランサーのユニークスキル。

地面を大きく跳躍し、通常の1.5倍の威力の攻撃を当てる。

命中率は通常の2倍に上がる。


〇『治癒』

治癒士キュアベルのユニークスキル。

MPを消費せずに、対象のHPを10回復させる。

レベルアップにより効果は増大する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=89033001&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ