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014 メンバー選出

「この異世界の……調査?」


「ええ。我々もいつまでもこの学園に留まっているわけにはいきません」


 理事長棟の最上階にある理事長室。

 僕は恵理子と美香子の件を報告するため、ここまで一人でやってきたのだ。


「藍田くんは珈琲、飲めたわよね」


「あ、はい。ありがとうございます」


 盆に乗った珈琲を3人分用意し、テーブルに置く楠先生。

 僕はまじまじと珈琲カップを覗いてしまう。


「? あ、これね。電気ケトルが食堂にあったから、ちょっと武則くんに頼んで沸かしてもらったの」


「……もしかして、武則の鼻の穴にコンセントを……」


 ということは武則はグラウンドで雷魔法の訓練をしながら、電気ケトルでお湯を沸かしていたのか。

 想像しただけで吹いてしまいそうになる。


「鼻の穴? ううん、別に普通にコンセントを手で握ってもらって、電気を起こしてもらったけど……?」


 首を傾げる楠先生。

 その様子に苦笑する伊ノ浦理事長。


「きっと藍田君はからかわれたのでしょう。木田君ならば、電気の起こし方は知っているはず……。そうですよね?」


「……はい。武則はお調子者だから……はぁ」


 きっと大輝もそれを知っていて、わざと武則とふざけあっていたのだ。

 もしかして知らなかったのは僕だけなのかもしれない……。

 熱々の珈琲に息を吹きかけ冷ます。

 鼻腔いっぱいに珈琲の芳醇な香りが広がっていく。


「すいません、理事長。話の腰を折ってしまって」


 珈琲カップをテーブルに置いた僕は、理事長に向きなおりそう言う。


「いいえ。……君は少し真面目すぎる性格なのかな。もう少し他の学生のように肩の力を抜いて――」


「理事長。藍田くんはこれで良いんです。他の生徒らみたいにふざけられたら、私が困ってしまいます」


「う……。まあ、楠先生がそう言うのであれば……」


 ぴしゃりと答えた楠先生に苦笑いをする伊ノ浦理事長。

 なんだろう。

 何だか不思議な感覚だ。

 そういえば、伊ノ浦理事長はいくつくらいの歳なんだろう。

 たしか楠先生は――。


 そしてふと僕は視線を楠先生と合わせてしまった。


------

NAME リョウコ

LV 4

HP 21/21

AP 0/0

MP 42/42

ARTS ---

MAGIC 『応急措置 LV.1』

SKILL 『治癒』

------


「あ……」


「ご、ごめんなさい楠先生……。つい……」


「ふふ、良いのよ。でもばれちゃったわね。私もこっそり『治癒』を特訓してたんだから」


 軽く舌をだし、照れながらそう答える楠先生。

 その姿に僕はドキッとしてしまう。


「楠先生は『治癒士キュアベル』ですからね。生徒らになにかあったときに、彼女の力は必要ですから。……では、話を戻しましょう」


 そう答えた理事長は珈琲に軽く口をつける。

 そして真剣な表情で話しだした。


「昨日お話したとおり、島田先生には今朝から学園の補強に当たってもらっています。彼の指揮の元、『設計士プランナー』、『木工士ウッドウォーカー』、『鉄工士アイロンウォーカー』、『溶接士ウェルダー』のJOBを持つ教職員や生徒らが力を合わせ、すでに正門は補強が終了しました」


「え? もう出来たんですか?」


 まだ正午を少し過ぎたくらいの時間だ。

 ということはかなり早い時間から補強工事に当たっていたのだろう。


「後で彼らには藍田君の『解析』を受けてもらい、更なる力を得てもらうとして……」


 一旦ここで区切った理事長は楠先生とアイコンタクトを交わす。

 ひとつ頷いた楠先生は、理事長室の傍らに置いてあった紙袋を取りだした。

 そして中に入っていたあるもの・・・・をテーブルに広げる。


「これは……」


 僕の目は、それを見た瞬間、『解析』をしてしまう。


------

土竜獣の肉×1

土竜獣の皮×1

土竜獣の爪×2

------


「これは、君たちを襲った『グランドビースト』を倒したときの戦利品です。君にはこれらの表記が見えますね?」


「……はい。『土竜獣の肉』、『土竜獣の皮』、『土竜獣の爪』……です」


 まるでスーパーにでも売っているかのように加工された『肉』。

 『皮』にはフサフサとした毛がついていて、『爪』はナイフのように先が尖っている。


「私はこれを食料や武器、防具などの装備として利用できないかと考えています」


「え……?」


 食料……?

 この魔獣の肉を……食べる?


「藍田くん。知っていると思うけど、この学園に残された水と食料はわずかしかないの。水は友原さんの能力でなんとかなりそうだけれど、食料はどうしようもないわ」


 厳しい表情でそう語る楠先生。


「……ということは、誰かが・・・学園から・・・・外に出て・・・・、この異世界を調査しながら食料を集めなくてはならないということですね」


 そして、その話を僕にするということは――。


「もちろん、そんな危険なことを君に押しつけるつもりは毛頭ありません。ですが、君には『見る力』がある。そして今までの傾向として、JOBは大きく3種類に分けることができます」


「3種類……?」


 僕の言葉に頷く理事長。


「1つ目は君のクラスの大友君や寺島さんのような『戦闘職』、2つ目は木田君や友原さん、三浦さんのような『魔法職』。恐らく楠先生もこの部類に属するのでしょう。そして3つ目は島田先生のような『技術職』です。私の『教学士エンライト』もこの部類に属するのかもしれません」


 戦闘職。魔法職。技術職――。

 確かに約1000名の解析結果も、これらに属する人がほとんどだったと思う。


「じゃあ、僕の『解析士アナライザー』は……?」


「君の能力は、これらのどれにも属さないですね。『技術職』に近い感じもしますが、やはり違和感があります」


「きっと藍田くんはどこにも属さない『特殊職』ってことなのでしょうね」


 理事長に続き、楠木先生がそう答える。

 特殊職――。

 確かに僕は、皆とはまったく違った能力だ。


「ですから藍田君には、『異世界調査班』と『食料調達班』を選出していただきたいのです。そして、できれば、そのどちらかの班の班長リーダーとして、指揮を執ってもらいたいと思っています」


「え? 僕が班長をやるんですか?」


 一瞬、冗談でそう言われたのかと思ったが、理事長も楠先生も真剣な表情のままだ。

 異世界調査班の選出と、食料調達班の選出――?

 そんな危険な仕事を、僕が生徒や教師らから選ぶ――?


「で、できません……。僕が……命を落とす危険のある学園外での任務に……みんなを……」


「藍田君」


 僕の肩にそっと手を置く楠先生。

 いつの間にか僕の全身は震えていた。


「さっき理事長も言っていたけれど、貴方にこの責務を押し付けるつもりはないの。貴方が適任だと理事長に推薦したのは私なのよ」


「楠先生が……僕を推薦……?」


 すがるような目で楠先生を見つめる僕。

 彼女の目は真剣で、でも温かく僕を包んでくれるような目で――。


「だから、全ての責任は私がとるわ。君が選出した人たちに、今後なにが・・・・・あったとしても・・・・・・・、私が全て背負う」


「楠……先生……」


 彼女は本気だ。

 僕と歳は10も離れていないのに。

 どうしてそんなに強くなれるのだろうか。


「楠先生。全責任をとるのは理事長である私ですよ。貴女の推薦を受け、決定を下すのは私ですから」


「……もう。いつもいつも格好つけ過ぎです」


「う……」


 顔を膨らませた楠先生は、それでも笑顔を理事長に向けている。

 目を逸らし頬を掻く理事長。

 2人とも、本当に凄い……。

 大人って、こんなにも格好良いものなのだろうか……。


 守るべきもの――。

 自分の命、仲間の命。

 そして、みんなの命――。


 大輝も里香も瞳も。

 武則も恵理子も美香子も。

 学園のみんなが一つになって、頑張っているんだ。

 だから、僕は――。


「……分かりました。自信はないですけど、メンバーを選出してみます」


「……良いの? 蒼田君……?」


「はい。だって楠先生にそんなこと言われちゃったら、やるしかないですもんね!」


 立ち上がり、両手に力を込める僕。

 こんな時に大輝や里香が居てくれたら、思いっきり僕の尻を叩いてくれたのだろうけど。


「本当に、ありがとう。私も君を全力でサポートします。それぞれの班は……そうですね。6人前後を目処にメンバーを選出してもらえると助かります。あまり人数が多すぎるのは逆に危険ですからね」


 ほっとした表情でそう答える理事長。

 その顔はいつものような厳粛な顔ではなく、心優しい青年のようで。

 それを見た楠先生も嬉しそうに微笑んでいて――。

 そこでようやく気付いた僕。


(そうか……。2人は……)


「? どうかした? 蒼田くん」


「いいえ。……伊ノ浦理事長。メンバーの選出と所属班を決めたら、そのあとはどうしたら良いでしょうか」


 首を傾げた楠先生に笑顔だけ送り、僕は理事長に尋ねる。


「出発の前に装備を整えなくてはなりません。ですので中等部の相羽さんに『薬士メディサー』として覚醒してもらうことと、あの魔獣に対抗できる武器や防具などを作れるJOBの人間が分かれば――」


「それなら瞳に聞けば分かると思います。それらも合わせて報告に伺わせてもらいますね」


「助かります。私のほうはこのまま楠先生と学園補強の追加指示、および電気設備に関する装置の検証を進めたいと思います。どうか、宜しくお願いします」


 そう言った理事長は僕に頭を下げた。

 この人だったら楠先生を任せられる――。


「じゃあ、僕はもう行きますね」


「うん。頑張ってね、藍田くん」


 理事長室を出た僕は、足早に階段を降りる。

 別に、初恋なんかじゃない。

 でも楠先生は憧れの先生で。

 だから僕は、先生に構って欲しくて授業にわざと遅刻してきたりして――。


 なぜか、一滴の涙が零れ落ちた。

 こんなんじゃ里香に女々しいと笑われてしまう。

 

 今は余計なことは考えずに、みんなと一緒に生き残ることだけを考えよう――。



 涙を拭いた僕は、心の奥でそう強く誓った。


















〇『設計』

設計士プランナーのユニークスキル。

時間や物に限らず、正確な設計を行うことができる。

レベルアップにより設計できる種類が増加する。


〇『木工』

木工士ウッドウォーカーのユニークスキル。

木材の加工を瞬時に素早くこなすことができる。

レベルアップにより加工できる木材の種類が増加する。


〇『鉄工』

鉄工士アイロンウォーカーのユニークスキル。

鉄材の加工を瞬時に素早くこなすことができる。

レベルアップにより加工できる鉄材の種類が増加する。


〇『溶接』

溶接士ウェルダーのユニークスキル。

木材や鉄材、その他素材を瞬時に素早く接合できる。

レベルアップにより溶接できる素材の種類が増加する。

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