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011 特訓

 この異世界に学園ごと転移してしまってから2日目の朝を迎える。

 早朝からあちらこちらのクラスで今後についての話し合いが行われていた。

 僕と武則は楠先生と共に理事長室へと向かっている。

 今朝はあの魔獣たちの鳴き声が聞こえてこない。

 もしかしたら夜行性の獣なのだろうか。


「やべぇ……。俺、緊張してきた……」


 理事長棟に到着し、あの長い階段を上っている最中。

 武則が情けない声をだした。


「大丈夫よ。いつもどおりリラックスして、理事長と話をするのよ」


「武則はいつもリラックスしすぎだと思うけどね」


 僕がからかうと武則は安心したのか。

 昨日の夜、鼻の穴にコンセントを突っ込まれたときのような変顔で僕を笑わせてくる。


 最上階まで上った僕らは理事長室の扉をノックする。


「どうぞ」


「失礼します」


 扉を開けると、いつもの席に理事長は座っていた。

 そして笑顔で僕らを出迎えてくれる。


「待っていましたよ、藍田くん。そして、木田武則くん」


「は、はい!」


 名前を呼ばれ、背筋をピンと伸ばした武則。

 やっぱり緊張するよな。

 だって理事長なんだし……。


「報告は昨夜に受けています。さっそくで悪いのですが、藍田くんの見解を聞かせてください」


 理事長に招かれ、僕らは応接室のソファへと座る。

 昨日、僕が寝かされていたソファだ。

 僕はひとつ咳払いをし、理事長に説明を始める。


「昨夜の検証で、個人のレベルを上昇させるにはユニークスキルを熟練させることが必要だと分かりました。それにより、アーツ魔法マジックを使用できるようになります」


「よくそこに気付きましたね。ということは、君が見ることのできるステータスのうち、『AP』はアーツポイント、『MP』はマジックポイントということで認識しても宜しいでしょうか」


 理事長は昨日、僕が仮説したことと同じ内容を述べる。


「はい。それぞれアーツを使用するごとに、一定のAPやMPを消費します。恐らくこの数値が0になれば、使用できなくなると思います」


 このことは武則が『放電スパーク』を使用した直後、彼を『解析』したことにより判明した。


「なるほど。では、そのAPやMPを回復させる方法などは分かりますか?」


「……いえ。まだそこまでは……」


「分かりました。十分です。ではさっそくグラウンドに向かい再検証をしてみましょう」


 席を立った理事長に続き、僕らは理事長室を出る。

 そしてそのまま、再び階段を降りようとした。


「何度もすみませんね。でも木田君の能力が流用できるようになれば、このエレベーターも使えるようになるかもしれません」


 すまなそうにそう話す理事長。

 僕と武則は構わないが、楠先生だけは苦笑いをしている。


 そして僕らはそのままグラウンドへと向かった。





 昨夜と同じように武則から5メートルほど離れた僕ら。

 武則が詠唱を始める前に、僕は一度『解析』を使用する。


------

NAME タケノリ

LV 2

HP 12/12

AP 0/0

MP 31/31

ARTS -

MAGIC 『放電 LV.1』

SKILL 『詠唱強化』

------


「あ……」


「どうかしましたか? 藍田くん?」


「いえ……。昨日の夜、武則が『放電』を使用したあとは、MPの数値が減っていたと思うのですけど……」


 しかし実際の数値は覚えていない。

 あのときは興奮していたし、そのまま慌てて教室に戻ってしまったから。


「一晩経てば、消費したAP・MPは回復する、ということでしょうか。それならば今後の計画にも追い風になるのですが」


 思案顔でそう呟く理事長。


「おーい。もういいかー? 優斗ー」


「あ、ごめんごめん! いいよー!」


 僕の合図で詠唱を始めた武則。

 昨夜と同じく、青白い光と共に幾何学模様の魔法陣が武則の周囲に出現する。


「うわぁ……綺麗ね……」


「ほう。これは素晴らしい……」


 僕は昨日、瞳が『クリスマスツリーみたい』と言っていたのを思い出し、笑いを堪える。

 その表情を見た楠先生が首を傾げている。

 しばらくすると、武則の周囲の空気が震えだした。

 そして――。


「――《放電スパーク》!!」


 空に向かい、直線状に放電した雷。

 雷鳴にも似た音がグラウンド中に響き渡る。


「藍田くん。『解析』をお願いできますか?」


「はい」


 理事長の指示通り、僕は再度『解析』を使用する。


------

NAME タケノリ

LV 2

HP 12/12

AP 0/0

MP 26/31

ARTS -

MAGIC 『放電 LV.1』

SKILL 『詠唱強化』

------


「……MPの数値が5減っています」


「消費MPは5、ですか……。今の武則君の最大MP値は31でしたよね……。とすると……」


 なにやら計算しだした理事長。

 その様子を興味深そうに眺めている楠先生。


「……分かりました。それともう一つ、今度は木田君に質問があります」


「へ? お、俺ですか……?」


 急に話を振られ緊張する武則。


「はい。木田君のユニークスキルは『詠唱強化』とありますが、これにより『放電スパーク』を強化して使用できる、ということで間違いはないでしょうか」


「は、はい……。多分、今の感覚でいうと、1.3倍とか1.4倍くらいには強化できると思いますけど……」


 自信無さげにそう答える武則。

 そして理事長は再び僕に向き直る。


「ユニークスキルには使用制限がありませんでしたよね、藍田君。それにAPやMPといったものも消費しない」


「はい。それは確認済みです」


「そうですか……」


 再び何かを計算するように自分の世界に入ってしまった理事長。

 僕らはじっとその様子を見守っている。


「楠先生。後で木田君用に指示書をまとめておきます。そこに記載されたスケジュールどおり、彼を訓練してもらえますか」


「分かりました」


「げっ、訓練……? マジで……?」


 理事長の言葉に大きく肩を落とす武則。

 僕はうんうんと頷きながら武則の肩を叩く。

 いつもサボってばかりだから、少しは真面目になってくれるかもしれない。


「電気設備のほうはどういたしますか?」


「それはこれから考えましょう。木田君の起こせる『雷』を備蓄できる装置を作らなければなりません。ただし緊急で必要となれば、彼の身体に電源を触れさせれば使用出来るとのことですので、臨機応変に対処しましょう」


「うわぁ。じゃあ、また鼻の穴とか尻のあ――」


「はいストップ! それ以上言わない武則!」


「?」「?」


 慌てて武則の口を塞ぐ僕。

 その様子に首を傾げる理事長と楠先生。


「……まあ、いいでしょう。今日はこのままグラウンドを彼に貸切りましょう。木田君は出来る限り、無理の無い範囲で『詠唱強化』を行い、レベルアップを目指してください。それと『放電スパーク』もMPが尽きるまで使用してみてください。もしかしたら、使用回数により『放電スパーク』自体もレベルが上がるかもしれません」


「わっかりましたー! おっし、やるぞー!」


 理事長に指示を出され、俄然やる気の出た様子の武則。

 もしかしたら理事長は『教育』のスキルを使ったのかもしれない。


「伊ノ浦理事長。もし宜しければ、理事長を『解析』させていただいてもいいでしょうか?」


「あ、そうですね。確かレベルアップには藍田君の『解析』が必要でしたよね」


 理事長から許可を貰い、僕は『解析』のスキルを使用する。


------

NAME シン

LV 6

HP 52/52

AP 31/31

MP 19/19

ARTS 『教鞭 LV.1』

MAGIC 『傾聴 LV.1』

SKILL 『教育』

------


「ほう……。これが『レベルアップ』……」


 自身に溢れ出す力に手ごたえを感じたのか。

 理事長は嬉しそうにそう呟いた。


「もしもまた『教育』を使用されて、熟練度が貯まったと感じたら声を掛けてください。定期的に『解析』をしますから」


「助かります。私も時間が許す限り『教育』と自己のアーツ魔法マジックの鍛錬を行うとしましょう」


 満足げな表情でそう答えた理事長は、楠先生を連れグラウンドを後にした。

 それを見送った僕は、次の行動に移る。


「じゃあ、武則は理事長に言われたとおり、しっかりと特訓するんだよ。僕は3組と5組の所に行ってくるから」


「友原と三浦の所か……。あいつらを宜しく頼むぜ、リーダー!」


「だから、誰がリーダーだよ……」


 頭を掻きながら、僕もグラウンドを後にする。

 今日中に、なんとか友原さんと三浦さんの能力を開花させておきたい――。

 

 僕は、僕の出来ることで皆の力になる。

 

 そう、心の奥で強く唱えたのだった。


















友原恵理子ともはらえりこ

高等部1年3組の女子生徒。

明るい性格で生徒らからは好かれている。

水泳部に所属している。


三浦美香子みうらみかこ

高等部1年5組の女子生徒。

大人しい性格ながらも、物怖じをしない芯の強い女の子。

地元にある『三浦ガス工務店』の次女。

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