010 雷属性魔法
グラウンドに到着した僕は、今までの経緯をかいつまんで武則に説明する。
「なるほど……。だから俺は雷を起こすことが出来なかったわけか……」
僕は頷き、そのまま武則を『解析』する。
即座に頭上に現れる表記。
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NAME タケノリ
LV 1
HP 7/7
AP 0/0
MP 18/18
ARTS -
MAGIC -
SKILL 『詠唱強化』
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そしていつものとおり瞬きをする。
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JOB 雷瞑士
WEAPON(R) ---
WEAPON(L) ---
BODY 私立伊ノ浦学園の制服
WAIST 私立伊ノ浦学園の制服
SHOES 茶色の革靴
ACCESSORIES おもちゃのダーツ
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「問題は、この『詠唱強化』っていうスキルをどうやって使うかなんだけど……」
スキルの使い方は、僕よりも本人のほうに知識があるはず。
僕はあくまでステータスを見ることができるだけなのだから。
「ああ、それなら分かるぜ。なんかこう、俺らの世界には無い言葉みたいなのを呟くと、魔法の力が強化される、みたいな?」
「……魔法? 武則くんは魔法使いなんですか……?」
「……なんか、ちょっと嫌な響きだけどまあ、良しとしよう」
「?」
武則の反応に首を傾げる瞳。
危うく、そのやりとりに吹いてしまいそうになる僕。
しかし、それならば話は早い。
さっそく武則に『詠唱強化』を使ってもらおう。
目を閉じ、何かを呟く武則。
わずかだが、武則の全身に光が灯り始めた。
「綺麗……。なんだかクリスマスツリーみたいですね……」
「……うん。なんか、色々文句を言いたいところだけど、ちょっと今は集中するわ」
「ぷっ……!」
とうとう我慢できずに吹いてしまった僕。
クラスのお調子者で有名な武則と、真面目が取り柄の優等生である瞳の、ちょっと論点がずれた会話。
ツボに嵌ってしまうと抜け出せなくなる……。
もう一度、詠唱を再開した武則。
すると武則の身体から放出された光が、徐々に幾何学模様を描いていく。
これは――。
「……まあ、こんな感じ? こうやって目を瞑って詠唱すると光の魔法陣が描かれるんだよ。どうだ、スゲェだろ」
胸を張り自慢するようにそう話す武則。
「もっと続けてみて。多分、何回か『詠唱強化』を使えばレベルが上がるはずだから」
「おおよ。優斗もしっかり俺を『解析』してくれよな!」
そう答えた武則はもう一度詠唱を開始する。
それを何度か繰り返したあと、武則のステータスに変化が見られた。
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NAME タケノリ
LV 2
HP 12/12
AP 0/0
MP 31/31
ARTS -
MAGIC 『放電 LV.1』
SKILL 『詠唱強化』
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「お……? なんか、電気が起こせそうな気がしてきたぞ……?」
「優斗くん……。もしかして……?」
「ああ。武則のレベルが上がったんだ。マジックの項目に『放電 LV.1』というのが追加されたよ」
僕の言葉に色めき立つ瞳。
ここまでくれば、後は武則次第だ。
「ちょっと待ってろお前ら……。悪いが、少しだけ俺から離れていてくれるか?」
武則が真剣な表情で僕たちに警告する。
僕らは素直に武則から5メートルほど離れた。
「分かる……分かるぞ……。俺は『雷瞑士』……。この異世界で唯一、雷を扱うことを許された能力者――」
再び詠唱を始めた武則。
しかし先程まで唱えていた言葉とは違うようだ。
武則の周囲に一際大きな魔法陣が描かれる。
さっきとは違い、青白く輝く魔法陣。
時折、静電気のようなバチバチとした音が深夜のグラウンドに木霊する。
「これは……大気中の電気を、あの青白い魔法陣が吸収して――?」
驚きを隠そうともせず、瞳が目を輝かせている。
僕もこの摩訶不思議な光景に目を奪われている。
「行くぜ……! ――《放電》!!」
そのまま天に向かい右手を突き出した武則。
魔法陣に集約された電気が天に向かって放電される。
まるで地面から空に向かって雷が落ちたみたいに。
轟音と共に光の帯がバチバチと音を立てて昇っていく。
「すごい……! 武則……!」
僕は嬉しくなって武則の元へと駆け寄る。
「すごいです……! 武則くん……!」
瞳も僕と同じように興奮していた。
本当に存在したんだ。
漫画やアニメでしか見たことがない『魔法』が――。
「は、はは……。俺、本当に、雷起こしちゃったな……」
放心状態の武則。
頭では理解していたものの、実際に行ってみるとその感動は100倍に膨れ上がるのだろう。
「でも、これだけ大きな音がしたのだから、きっと皆にも知られただろうね」
「そうですね……。理事長室にもこの音と光は届いたでしょうし、喜んでくれるかもしれませんね」
一通り喜びを分かち合った僕らは、すぐに教室へと戻ることにした。
楠先生もきっと喜んでくれるはずだ。
◇
「でだ、お前ら」
教室に戻り、皆から歓迎された武則。
しかし――。
「おお! ホントだ! ちゃんとドライヤー使えるじゃん!」
ブオーという音と共に、教室にドライヤーの音が木霊する。
もちろん一番にはしゃいでいるのは里香だ。
「いや聞けよ! なんで俺は教室に戻って来た早々、鼻の穴にドライヤーのコンセントを突っ込まれなあかんのじゃ!!」
鼻の穴にコンセントを突っ込まれたまま、武則が叫ぶ。
その姿にクラス中が大爆笑している。
「おい、武則。あとどっか突っ込める穴とか無いのかよ。……あ、もう一箇所あるか」
ニヤリと笑った大輝はポケットから携帯ゲームの充電器を取り出した。
「やめろ……大輝……! そっちの穴だけは……やめてくれ……!」
「物事は何事も経験だぞ、武則。大丈夫だ。痛くしないから……」
悪い顔をしながら大輝が武則に襲いかかる。
悲鳴を上げながら教室中を逃げ回る武則。
もう皆は涙を堪えながら笑っている。
「まったく……。楠先生がいないと、ホントうるさいクラスよね……。うちらのクラスって……」
口ではそう言いつつも、顔は笑っている里香。
楠先生は先程の検証の知らせを聞いて、慌てて理事長室へと向かっていったのだ。
きっと明日には武則の力をもっと検証して、学園の電気設備に利用できないかを検討するのだろう。
「でもこれで、友原さんと三浦さんのほうも目処が立ちそうですよね……」
瞳の言葉に頷く僕。
1年3組の友原恵理子が『水魔士』。
1年5組の三浦美香子が『炎術士』。
武則と同じように彼女らの能力が覚醒すれば、僕らがこの異世界で生き残れる可能性が格段に増すはず――。
「とりあえず、今夜はもうこんな時間だし、後は明日になってから――」
「アッーーー! やめろーーー! 誰か大輝を、この馬鹿を止めてくれーーーー!」
「……はぁ。まあ、あの2人がいるから、騒がしくて寝れないんだろうけど……」
お調子者の2人が騒いでいるせいで、クラスの中はカオスと化している。
でも、気持ちは分かる。
みんな、心底嬉しいのだ。
「……ところで、瞳?」
「? なに? 里香……」
僕から隠れるように里香が瞳を手で招いている。
そしてなにやらこそこそ話を始めた。
「(貴女まさか、抜け駆けなんてしてないわよね……?)」
「(!! そ、それは……)」
里香の態度に萎縮してしまう瞳。
いったい何の話をしているのだろう……。
「ま、まさか……! 言っちゃったの? 瞳!」
「ち、違うよ! 言ってないよ!」
「あ、こら待て! この裏切り者ー! 約束したじゃないのよー!」
急に里香から逃げ始めた瞳。
それを鬼の形相で追い掛ける里香。
クラス中の視線が大輝たちと里香たちで2つに分かれる。
「……はぁ。早く帰ってこないかな……。楠先生……」
僕は手元にある毛布に包まり、教室の壁に背を預ける。
今日は1日、色々と大変だった。
明日からまた、忙しい日々が待っているのだろう。
大輝たちとクラスメイトらの声をBGMにしながら――。
――僕はいつの間にか眠ってしまっていたわけで。