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008 検証

 日が落ちた校舎は真っ暗闇だった。

 理事長の指示により、備蓄してあった懐中電灯を各クラスに3本ずつ配給してもらったが、数が足りるはずもなく。

 僕と大輝は楠先生に断り、そのうちの1本を借りてある場所へと向かう。


「うぅ……。やっぱ日が落ちるとまだ寒いよなぁ……」


 身を震わせながら廊下を歩く大輝。


「備蓄してある毛布もぜんぜん足りないって言ってたよね。食料は結構あるみたいだけど、1000人もいたらあっという間に無くなっちゃうだろうし……」


 全校集会が終わった直後、各教員は今後の食料の配分について議論していたそうだ。

 きちんと計算して配給しないと争いの種になりかねない。

 理事長の命によって、緊急職員会議が開かれたので事無きを得たのだが――。


「ったく、武則の野郎……。なにが『雷瞑士サンダーブラスター』だよ。ぜんっぜん電気なんて出せねぇでやんの」


 先程から同じ文句を呟いている大輝。


 理事長室を退室した後、僕らはその足で教室へと戻り。

 理事長の探していた人材のひとりである、クラスメイトの木田武則きだたけのりに協力を申し出たのだ。

 武則とは大輝と同じく中等部からの友人で、3人でゲーセンやカラオケにもよく行く仲だ。

 当然、2つ返事で了解を得られたのだが――。


「武則のJOBは『雷瞑士サンダーブラスター』だったけど、SKILLが『詠唱強化』ってなっていたからね。本人の感覚だと『雷が起こせそうな気配がする』とか言っていたけれど」


「なーにが『雷が起こせるー』だよ。静電気すら出せなかったじゃんか」


「うん。まあ、そうなんだけど」


 悪態を吐く大輝をなんとか宥める僕。

 ただ、武則自身が雷に対する『知識』を得られた上で、その可能性を示唆しているのだ。

 恐らく、なにか・・・が足りないのだと思う。


「でも島田先生のほうはなんとかなりそうだって、理事長が言ってたよ」


 理事長自ら、この学園の『敷地外壁強化作業』の担当に島田先生を指名したのだ。

 島田先生の指揮の下、数名の教員と用務員らで明日早朝から作業が始まるらしい。


「まあ、島田先生は物理教師だからなぁ。元々建築関係にも詳しかったみたいだし、適任だよな」


 うんうん、と頷く大輝。


「あとは友原さんと三浦さんのほうなんだけど……」


 電気の使えない今、当面の間必要となってくるものが『水』と『火』だ。

 備蓄用のペットボトルの水も、この人数では3日と持たない。

 雨水などを屋外のプールに貯めたとしても、沸騰させて飲める状態にするためには火が必要だ。


「あいつらも武則と同じようなことを言ってたしなぁ。本当に水とか火とかが出せるもんなのかねぇ」


「やっぱり、色々と『検証』してみないと分からないよね……」


 僕が『解析』で分かるのは、他の人には見えない『ステータス』で表記された部分だけだ。

 しかし、そのステータスの項目にあるものが未だに検証できていない。


「へへ、まあ、だからこそこうやって夕暮れに教室を抜け出して『検証実験』をしようってことなんだが」


「別に抜け出したわけじゃないだろ……。ちゃんと楠先生に許可を貰ったんだし……」


 何故か分からないが、嬉しそうな口調の大輝がなんだか憎たらしくなってきた。

 しかし検証は必要だ。

 一人の頭で考えるよりも、大輝のアドバイスを貰ったほうが、より理解できる可能性も高いのだし。


 渡り廊下を抜け、校舎の外へと出る。

 遠くからはあの獣の遠吠えのようなものが聞こえてくる。


「とりあえずグラウンドのほうに行くか」


「うん」


 楠先生からは、『検証実験を行うのであれば広い場所で』という指示があった。

 まさかいきなり火を吹いたり洪水が起きたりはしないだろうが、なにぶん未知の力なのだ。

 他の人を巻き込む可能性だってあるのだし、広い場所で、少ない人数で行うことに越したことはない。

 

 大輝は自身のユニークスキルである『咆哮』の検証。

 僕は『解析』による項目の検証だ。

 念のために備蓄品の中から耳栓を持ってきた。

 大輝のおおごえで鼓膜が破れてしまったら大変なことになってしまうから――。





「よーっし! 誰もいない広々としたグラウンド! いいねぇ! 叫び甲斐がありそうだぜ!」


 さっそく両腕を大きく上げ、嬉しそうにはしゃぐ大輝。

 それを尻目に、僕は大輝の後ろ姿を『解析』する。


------

NAME ダイキ

LV 1

HP 20/20

AP 13/13

MP 0/0

ARTS -

MAGIC -

SKILL 『咆哮』

------


 『NAME』とは、その名のとおり『名前』のことを指している。

 表記はカタカナで、苗字ではなく下の名前を記している。

 そして『LV』。

 その横に数字で1と記載されていることから、恐らくはゲームと同じく『レベル=強さ』を示しているのだろう。


「《うおおおおおお! 俺は強い! みんなを守る力を、もっと俺にくれ! 神様!!》」


 大輝の『咆哮』によりグラウンドの土が微かに振動している。

 僕は即座にポケットにしまっておいた耳栓をつけ、検証の続きを再開する。


 『LV』が『レベル』のことであると仮定して、果たしてこれはどのようにして数値が上昇していくのだろうか。

 通常であれば、魔獣を倒せば倒すほどレベルが上がっていくはずだ。

 しかし、大輝のレベルは1のまま。

 確か、あのグランドビーストという魔獣のレベルは4だったはず。

 これだけのレベル差の魔獣を倒したのだから、大輝のレベルは上昇していてもおかしくはない。


「うーん……。ということは、ゲームとはまた違ったシステムなのかなぁ……」


 頭を掻きながらつい呟いてしまう僕。

 どちらにせよ、今は答えが出ない。

 よって次の検証に進もう。


 『HP』『AP』『MP』は、それぞれ左と右が斜線で区切られている。

 これは恐らく左が『現在値』、右が『最大値』で間違いはない。

 教室で魔獣に襲われたとき、里香や大輝がなんども攻撃を受けては、この左の数値が減っていた。

 そして楠先生の『治癒』が始まると、右に示された数値まで回復し、実際の傷も癒えていたのだ。


「《楠先生ーーー! 大好きだあああああ! 結婚してくれーーーー!!》」


 大輝が訳の分からない愛の告白を『咆哮』している。

 耳栓越しにでもはっきりと聞こえるどころか、あまり耳栓が意味を成していない気がする。

 もしかしたら、鼓膜に働きかけるスキルではないのかもしれない。

 直接脳に響かせているのか、はたまた魔獣に対してだけスタン効果を発揮するスキルなのか。

 どちらにせよ、はっきり言ってうるさいのだけれど。

 僕は溜息を吐き、再度検証に戻る。


 『SKILL』は今までの解析から、一つのJOBに対し、必ず一つ所持していることが分かっている。

 恐らく、JOBによる固定のスキルで間違いないだろう。

 これが今後、レベルアップにより増えていくのかは定かではない。


 最後に『ARTS』と『MAGIC』。

 これがさっぱり分からない。

 直訳すれば『技』と『魔法』になるのだが、僕が『解析』した約1000名の中で、誰ひとりとして・・・・・・・記載事項が・・・・・載っていなかったのだ・・・・・・・・・・

 恐らくそれが、さきほど大輝と話していた、武則や友原さん、三浦さんの現象に繋がるのだろう。

 彼らは『知識』として各々の能力について、ある程度把握をしているはずだ。

 それなのに、能力を使えない。

 それはつまり、技や魔法を・・・・・身につけていない・・・・・・・・ということ――。


「レベルが上がれば、技や魔法を身につけられるのかな……。じゃあ、どうやってレベルを上げればいいんだろう……」


「《里香ーー! 瞳ーーー! 優斗はお前らの事をなんとも思っていないぞーーー!! あきらめろーー!!》」


「ちょ、大輝……! なに叫んでんの……!?」


「え? あー、まあ、あれだ。同じクラスメイト内で、女の修羅場とかあまり見たくないっていうか」


「意味わかんないよ!」


 ついかっと目を見開いて大輝に突っ込む僕。

 その拍子に『解析』を使ってしまった。


------

NAME ダイキ

LV 2

HP 28/28

AP 18/18

MP 0/0

ARTS 『ぶん回し LV.1』

MAGIC -

SKILL 『咆哮』

------


「え――」


「……あ? なんだ……? 急に力が湧いてきたような……」


 大輝が驚いたように自身の掌に視線を落とす。

 レベルが……上がっている――?


「だ、大輝! レベルが上がってるよ! それに……『ぶん回し』って……」


 先程までは何もなかった『ARTS』の部分に『ぶん回し LV.1』という項目が増えている。

 また『レベル』……?

 一体どういうことなんだろう……。


「へぇ、確かに『ぶん回し』っていうアーツが使えるようになったみたいだな」


「分かるの? ということは、解析したときと同じように『知識』が……?」


「ああ。それとこの『ぶん回し』ってのが『AP』を消費して使う技だってこともな」


 APを消費して『ぶん回し』のアーツを使用する……。

 ということは『AP』とは『ARTS POINT』の略で、『MP』は『MAGIC POINT』の略……?


「でも、どうしてレベルが上がったんだろう……。あの魔獣を倒しても上がらなかったのに……」


「だよなぁ。別に何もしていないのにな。叫んでいただけで・・・・・・・・


「あ……」


 まさか――。


「だ、大輝……! 手鏡持ってる!?」


「はぁ? そりゃ持ってるけど――っておい!」


 ポケットに手を突っ込んだ大輝を待ちきれず、僕は勝手に大輝のポケットに手を入れる。

 そして手鏡を取り出し、自身の姿を映し出す。


「お前……。ひとのズボンのポケットに手とか突っ込むなよ……。焦るだろ……」


 大輝が何か言っている気がしたが、僕はそれどころではなかった。

 鏡に映った自身のステータスに驚愕する。


------

NAME ユウト

LV 32

HP 245/245

AP 140/140

MP 0/0

ARTS 『分解 LV.1』『結合 LV.1』『視覚効果 LV.1』

MAGIC -

SKILL 『解析』

------


「……そうか……。そういうことか……!」


「おーい。優斗ー? ……駄目だ。完全に自分の世界に入っちまってる……」


 大輝はあの魔獣と戦っていたときも、このグラウンドでも。

 何度も『咆哮』のスキルを使用していた。

 そして、僕は――。



「――約1000回・・・・・・の『解析』。レベルの上昇は、個々の・・・ユニークスキルを・・・・・・・・使用した頻度に・・・・・・・関係しているんだ・・・・・・・・


















〇『詠唱強化』

雷瞑士サンダーブラスターのユニークスキル。

自身のもつ雷属性魔法を通常より強化して使用できる。

レベルアップにより強化項目が増大する。

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