#4 常連客 その二
三月がドン引きしていた時、カランとドアのベルが鳴り、新しい客が入ってきた。
「いらっしゃいませー。あっ!蛇骨さん!」
「おぉ、冴。久しぶりじゃのう!」
冴は入ってきた客の元に駆け寄る。蛇骨と呼ばれたその客は冴の頭を優しく撫でた。三月も蛇骨に声をかける。
「久しぶりね。蛇骨。しばらく姿を見せなかったけど、どこに行ってたの?」
「ふふ、少しばかり里帰りしてたのじゃ。ほれ、土産じゃ」
「あら、ありがとね……里帰りねぇ。蛇骨は何処の出身なの?」
「中国」
「へぇ〜。中国だったのね。知らなかったわ」
お土産を受け取りながら三月が言う。
蛇骨は猫又の隣に座ると、蛙をがっつく猫又にチョップをかましながら話しかけた。
「猫又ぁ〜!お前は相も変わらずじゃのう〜……その蛙のどこが旨いんじゃ」
「ん"に"ゃ"!人が飯食ってるだろ!やめろよ!」
「そっちの話ですか」
冴がすかさずツッコミを入れる。
蛇骨は、はっはっはっと高笑いしカウンターにいる三月に注文した。
「んじゃ、いつもの作ってくれ三月」
「言われなくてももう下準備してあるわよ。後は焼くだけだからちょっと待っててね」
「いくらでも待つぞ」
三月は厨房に戻ると、台の上に並べておいた虫たちを改めて眺めた。
カブトムシ、トンボ、カマキリ、バッタ……このいつ見ても慣れない奴らを今から丸焼きにするのだが、焼いてる途中で目玉がボコッと飛び出たりすることがたまにあるため、精神的にキツい料理である。
「これもまたキッツいなぁ……よーし焼くかー……」
それから三月はなんの躊躇もなく、アッツアツの油の中へ虫たちを放り込んでカリッカリに揚げた。カマキリの目が気になるが胃に入ればみな同じなのでそこまで気にしない。というより慣れた。
「慣れって怖いわねぇ……」
そう呟きながら、皿に揚げたての虫たちを乗せていく。蛇骨の場合、味付けはいらないので楽だ。皿の隅に大根おろしとたくあんを乗せ、お盆にスープと並べて完成。ちなみにスープは鶏ガラだ。三月はお盆を持ってカウンターに向かう。
「はーい。虫の揚げ物よ〜」
「待っておったぞ!」
ワクワクする蛇骨をよそに、冴は顔面蒼白になった。なぜならカマキリの目玉が飛び出ていたから。
「では……いただきます」
蛇骨は手を合わせると、真っ先にカマキリ箸を伸ばす。カマキリに箸が触れた瞬間、目玉がポロッと落ちた。
「うっ……!」
「げっ……」
冴はすぐに、トイレに駆け込んだ。蛇骨はそんなの気にせずにどんどん食べる。隣ではとっくに食べ終わっていた猫又が顔をしかめる。
「うにゃ……それどこがうまいんだよ……見た目最悪じゃん」
「お主が食べてたものもなかなかグロテスクだぞ」
「蛇骨には適わないね」
きっと妖怪にとっては他愛もない会話なのだろう。トイレから戻った冴が2人を見ながら言う。
「それにしても……仲いいですよね。このふたり」
三月もうなずきながら話す。
「えぇ、そうね……」
まるで母のように三月は猫又と蛇骨を見ていた。そんな三月にどことなく自分の母の面影を見た冴であった。