#2 開店
冴は買い出しから戻ると、適当にご飯を済ませて仕事まで寝ることにした。というより、寝ておかないと仕事にならなくなってしまう。
(さーてっ、一眠り一眠りっと)
冴はベッドに入ると、3秒もしないうちに深い眠りについた…。
……時間は流れ、時刻は午後の四時。冴が寝てから三時間程経ったそのとき、「ふんっ!」と勢いよく冴はベッドから飛び出した。二度寝防止の為である。飛び出した勢いのまま転がっていき、そのまま体を強く壁に打ち付けて起床。…こんな方法で起きる奴は私ぐらいかな。なんて冴は思っている。むしろ冴しかいない。
こうして絶対二度寝することの無い方法で目覚めを迎えると、若干フラつきながら立ち上がって仕事に行くため準備を始めた。
店は午後の五時に開店するが、冴の場合、仕事場までとても遠いので開店の一時間前から自転車で向かう。着くのは開店二十分前になるが、店に着いてからの準備はほとんど無いから余裕を持って開店できる。
準備を終えると、冴は外へ出た。
「……うおぉぉ…暑い…」
季節は夏。気温は午前中より低いが、それでも暑いことに変わりはない。エアコンが恋しい。冴はやるせない顔で自転車に乗ると喫茶店のある森へ出発した。
途中で自動販売機で飲み物を買い、一休みすると、またすぐにペダルを力強く踏んだ。
その頃喫茶店では、オーナーの影山 三月が新作のコーヒーを試作中だった。が、
「やっぱ紅茶にしようかな…」
諦めかけていた。
すると、カランと扉のベルが鳴り、冴が入ってきた。
「ばんわー」
「こんばんは…冴」
厨房から三月は挨拶を返す。冴は厨房のさらに奥にある扉を開け中に入った。
この部屋はロッカールームになっており、ここで着替えをしたりする。ロッカールームと言っても、ロッカーは十個のみ。まぁ、店員とオーナーで二人しかいないから仕方ない。
冴は腰に赤いエプロンを、頭に黒い三角巾を着け、ロッカールームを出た。
「三月さん。いいよ」
「待ってました。じゃ、店開けるわね」
午後五時。喫茶店ゆうだち、開店。