天気がいいから、今のうちに洗濯と布団干し。
天気がいいから、今のうちに洗濯と布団干し。
梅雨の晴れ間は貴重だ。雨が降ると洗濯物が溜まる。最低限部屋干しでしのぎはするが、狭い部屋が余計窮屈になるし、匂いも気になってしまう。
夏になるとうっとうしくなる太陽だが、梅雨の間は非常に恋しいものである。
久しぶりの青空は待ち望んだ分さわやかで清々しい。眩しいくらいだ。溜まったストレスも相まって気合い十分、さあやるぞ!
洗濯機を回し、布団を干す前にベランダの欄干を拭こうと掃き出し窓を開けると、目が合った。
梅雨時の湿気のせいでそよ吹く風は冷たく、日当たり良好なベランダで欄干を風避けに丸くなった猫。
飼い主を認識して退屈げにふいと目をそらし、ジーンは「くあう」と大きなあくびをしてから己の身体に顔を伏せる。
未だ成長途中の子猫は体長はそれなりだが、肉付きがいまいちだ。ひょろりと頼りない。その代わりつやつやした青灰色の毛並みがそれはもうふわっふわ。基本室内飼いなので肉球もやわらかい。
室内飼いと侮るなかれ。外が怖くてベランダがテリトリーのアウトラインであるヘタレだが、なかなかどうして、おてんばである。
ティッシュをその辺に置いておくと爪と牙で全部引き出したり、人間のトイレで巻いてある紙を全部……以下略。キッチンペーパーだろうが、クッキングペーパーだろうが、巻いてあったり引き出す紙はみな彼女、ジーンのおもちゃである。
洗濯物を干したらジーンを部屋に入れなくては。
風にゆらゆら揺れる洗濯物はジーンにとっておもちゃだ。それに飛びついてしまうのは本能であり、猫自身にだってどうしようもない。
瞳孔をまあるく開いてキラキラした目で一心に揺れる布切れを追うのは、それはもう可愛いらしい。だが、おもちゃにされては困る。
高めの欄干にひょいと飛び乗れば、洗濯物に飛びかかるのは簡単だ。擬似的な狩りなので、身体スペックを出し惜しみせずどこまでも本気を見せてくれる。
物干しざおと欄干を拭いて布団を干すと、肌を刺す様な日差しに風が生ぬるくなってきた。太陽が湿度を下げてくれた様だ。あまり陽に当て過ぎると布団が熱くなって寝苦しい。頃合いを見て中に入れよう。
ふと見やれば、隅っこで丸くなるジーンはすやすや寝ている。ゆるんだ目元が気持ちよさそうに閉じられていた。ゆったりしたリズムでふくらんではしぼむ毛玉に、うずうずとつい手を伸ばしたくなってしまったところで洗濯機に呼ばれる。
そうだ、溜まった洗濯物を片付けねば。
洗濯物をカゴに取り出して、二回目を回す。物干しざおに干したら、ジーンをそっと抱き上げてベランダから室内へ移す。
窓につっかえ棒をして開かないようにしてしまえば、よし、これで洗濯物への被害はない。
抱き上げられて流石に目を覚ましたジーンだが、おてんばはするが人に撫でられるのを嫌わない子なので、暴れる事もなかった。日だまりに下ろしてやったジーンを振り返れば、再び健やかな寝息を立て始めている。
実に気持ちよさそうだ。誘われる様にくるんとした背に手を伸ばす。撫でる。
する事はいっぱいあるのに、ふわふわした毛並みや、やわい身体にうっとりした頭は、空転するだけで本気の命令を下さない。
買い物に行かなくては。食材は基本、休日にまとめ買いする。冷蔵庫の中、内壁の白色が眩しいくらいで中身が乏しい。辛うじて、昼食のパンに付けるサラダとスープくらいは作れそうだが。
少々雑然としてきた部屋の整理整頓、掃除。整頓しても、後から後からジーンが引っ掻き回すのだが。ハタキを振るとジーンは遊んでもらえると勘違いして飛びついてくるし、掃除機がうなれば怖がって逃げ出す。玄関を掃けば、舞ったホコリをじっと見てはクシャミをする。
ねえ、ジーン。
「ジーンが居てくれて、」
楽しいし、嬉しい。それに、良かった。
それは、確かにジーンはおてんばではあるし、一人だって楽しい。
だが、誰かが居てくれるのもステキな事だ。
人相手でも猫相手でも仲良くやっていくのはなかなか大変だが、互いに妥協しあったり、何とか折り合うところを見つけていくしかない。
ガマン出来なければ、関係は破たんする。だが、互いに譲り合えるならやっていけるのだ。
飼い主と飼い猫ということで此方が大いに譲られているが、気まぐれなジーンも結構好き放題気ままに生きているので、五分五分なのではないだろうか。
「ジーンも、此処で猫生を楽しんでくれてると良いんだけど」
一頻り撫でて、さて、と立ち上がる。
素晴らしい手触りに後ろ髪を引かれるが、一日中ジーンを撫でていては人間らしい営みが出来ない。
買い物に掃除、合間に洗濯。最低限、それだけはしなくては。
梅雨時の晴れ間は忙しいのだ。