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第三十話「セブンズ・クラウンと魔豪鬼神」・2




 それから一時間後、約束通りメロトス王は時間ぴったりにやってきた。しかし、約束した当人のレイヴォルがどこにもいない。まさか、自分から時間指定を行った癖に遅刻しているのか? と腹立たしい思いになるメロトス王。が、その怒りも一瞬にして消えた。ガチャ! と扉が開き、そこから顔を覗かせたのはレイヴォル博士だった。そう、先に部屋の中に入っていたのである。


「れ、レイヴォル博士? 先に入っていたのか?」


「ん? ああ……。ちょっとばかり用があってな。安心しろ、もう終わった。あの老いぼれジジイはどっかに行っちまったよ」


 そう言われて部屋の中を覗くメロトス王。部屋の中は相変わらず薄暗かったが、部屋の中心で横たわる人物は嫌でも目に入った。呼吸を乱し、やや虫の息状態のレプリカ・鈴華。


「さて……と、メロトス王。貴様には後二回程働いてもらわないといけない」


「……解った」


 ここまで来たら最後まで働いて、その代わりに目の前の不気味な男が何を考えているのか見定めてやろうとメロトス王は考えた。レイヴォルは失神しているレプリカ・鈴華をお姫様抱っこの状態で担ぐと、メロトス王と共に瞬間移動(テレポート)した。


「ここで待っていてくれ」


 そう言ってメロトス王をその場に待たせたレイヴォルは、それから十分後再び姿を現した。今度は鈴華に肩を貸してやっている状態だった。どうやら、シャワーを浴びせに行っていたらしい。その証拠にレプリカ・鈴華の赤い髪の毛が少々濡れていて、若干いい香りがした。


「ではメロトス王、レプリカ・鈴華の体を十ヶ月後の姿にしてくれ」


「十ヶ月後?」


「そうだ。くく……最後の駒は彼女に産んでもらわなければならない。本来ならばオリジナルの鈴華を利用したい所だったのだが、それでは神の怒りを買う。まだ力を得ていない我々にとって神の怒りによる攻撃は来るべき時ではない。だからこうしてレプリカの鈴華を使ったのだ。何か質問は?」


「い、いや……」


 尋ねてもいないのに不思議とベラベラ喋るレイヴォル。これは所謂機密事項なのではないのか?とメロトス王は一瞬疑問に思った。

 メロトス王は言われた通りにベッドに横たわっているレプリカ・鈴華に両手をかざして十ヶ月後の姿にした。すると、突然十八歳の巫女の格好をした少女のお腹が膨らみ始め、今にも赤子を産みそうな状態のお腹の大きさになった。


「やはり身篭っていたか……。これで私の計画通りにいけば産まれてくる赤子は不死身で七力を持っていることになる。そうすれば……俺の温めに温めてきた計画を実行に移すことができる。ついに駒を動かす時が来るのだ!」


 真っ白な歯をギラリと光らせ、その黄土色の双眸を怪しく見せるレイヴォル。まさに闇の科学者と言った様子だった。メロトス王はその姿に悪寒を感じて背筋に何かゾクッとする何かを感じた。


「レイヴォル博士。それで私は何をすれば?」


「しばらく待っていろ。これから赤子を摘出する……時間はそうはかからんはずだ」


 メロトス王の横を素通りしたレイヴォルは、そのまま指を鳴らして部下を呼んだ。三チームの一つ、GAUNだ。


「ついに準備が整ったのだな?」


 アダム=オルグロスが丸メガネをメガネ拭きで拭きながら尋ねる。その言葉にニヤリと笑みを浮かべて答えるレイヴォル。


「後はレプリカ・鈴華から産まれてくる子供が不死身であるかどうか……その他諸々を調べて結果がよければ実験は成功。我々の計画を実行に移すことが出来る。ジジイはまだ気づいていないな?」


「うむ。オルガルトは今頃、オリジナルの鈴華に酒を注いでもらっている頃だろう。今が絶好の機会ぞ!」


 腕組をして状況報告をしたゴルキスは、横たわったまま苦しそうに(うめ)いているレプリカ・鈴華を一瞥した。


「しかし、よくもまぁこんなアイデアが思い浮かぶものだ。この儂でさえこの様な計画は思いつかなんだ。さすがはフィグニルト……と言った所じゃな」


「くく……謙遜はよせ、ゴルキス。それで、アルフレッド……どんな感じだ?」


 レプリカ・鈴華の容態の確認をアルフレッドにさせていたレイヴォルが尋ねる。


「ど、どうって言われても……。そうだね、まぁそろそろいい頃合じゃないかな?」


「にしても、よく分かるものだ。普通男にはこういった関係の事は分からないんだが……」


 アダムが訝しげにアルフレッドを見ると、ムッとした顔で文句を言った。


「し、失敬だなアム! お、男でも知ってる人は知ってるよ!」


 焦燥の表情を浮かべてアダムに文句を言うアルフレッド。しかし、焦るのも無理はない。一部の人間は知っているが、彼――アルフレッドは実は男ではなく女なのだ。ちなみにチームGAUNで知っているメンバーは誰ひとりとしていない。なので、尚更アダムにバレる訳にはいかなかった。


「だから、おれの名前はアムではなくアダムだ」


「アムはアムだよ! それよりも、ちゃんと準備は整ってるんだろうね?」


 腰に手を添え少し怒った様子でレイヴォルに尋ねるアルフレッド。その質問に笑いながら答える。


「ああ、もちろんだ。すぐにでも始められる……メロトス王。悪いがまた少しばかり待っていてもらえるか?」


「あ、ああ。了解した」


 そう言ってメロトス王はその場から姿を消した。先程身に感じた悪寒が今なお体を震わせているのだ。




 それから再び時間が経過し――。メロトス王は目を丸くして言葉を失っていた。目の前には、レイヴォルが小さな赤子を抱いている。


「この子が例の?」


「ああ、男の子だ。名前は既に決まっている。『オドゥルヴィア=メティン=オルガルト』だ」


「……オドゥルヴィア。それがこの子の名前ですか?」


 メロトス王が赤子を見下ろしながら尋ねると、レイヴォルは口の端を吊り上げながら頷いた。


「それで、私は何を?」


「これからこの子をカプセルの中に投入する。そこでオドゥルヴィアに魔法で時を進ませてほしいのだ」


「つまり、さっきのレプリカ・鈴華と同様、このオドゥルヴィアも成長させろと?」


 恐る恐る訊くメロトス王に、ニヤッとレイヴォルは歯を見せた。どうやらその通りのようだ。

 場所を移した五人の科学者と一人の王は、プシューと音を立てて開く扉をくぐり中に入ると、暗がりの実験室の内の一つに入室した。中は照明があるにはあるものの、どれも電球が切れて点いていなかった。なので、唯一の明かりは不気味に輝く緑色の液体がたっぷり入った大きめのカプセルの光のみだった。幾つかのカプセルの内、一つは既に誰かが入っていて、もう一つはカプセルの中に液体すら入っておらず、カプセルの入口も開いていた。どうやら既に誰かがここから出てきているらしい。

 レイヴォルは赤子――オドゥルヴィアをカプセルの中に入れると、メロトス王に指示した。


「さぁ、では始めてもらおうか?」


 その命令にコクリと頷いたメロトス王は、両手をかざしてオドゥルヴィアの肉体の時を進めた。体が光に包まれて神々しく光り輝く。そして、徐々にその光は大きさを増して行き、この部屋にいる科学者や国王と同じくらいの大きさになった。すると、光が薄れそこに一人の青年が姿を現す。そう――彼こそ先程まで赤子の姿だったオドゥルヴィアその人なのだ。


「くく……礼を言うぞ、メロトス王。これで準備は完了だ。後は最後の調整を経て不死身の確認をすれば最終駒が完成する」


 白衣のポケットに手を突っ込んだまま大して感情の篭っていない礼を言うと、メロトス王の横を通り過ぎてカプセルにその手を触れた。そのカプセル越しにオドゥルヴィアを見るレイヴォルは、より一層不気味に見えた。その目には既にこれから先の筋書きが分かっているかのようだ。

 メロトス王はふと目の前にいる四人の科学者を一瞥した。彼らは彼らでオドゥルヴィアを見ていた。何かに期待するかの様なその表情に、メロトス王は疑問符を増やした。

 それからカプセルに再び緑色の液体が注入され、カプセルいっぱいに緑色の液体が溜められると、その中に成長促進剤などを注入していった。その作業を行う五人の科学者は、完全にカプセル内にいるオドゥルヴィアを研究のための実験動物としてしか見ていなかった。


「私の仕事はこれで終わり……だな?」


「ああ、ご苦労だったな。ん? どうやら向こうから貴様を迎えに来てくれたようだぞ?」


 何かを感じ取り、そう言うレイヴォルに首を傾げるメロトス王。すると、空間を歪ませ五人が姿を現す。――偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)だ。


「メロトスの帰りが遅いと思ったら、こんなところにいたか……。レイヴォル、妃愛の下僕を使うのはいいが、あまりにも長時間ではこちらも困る」


「くく……それはすまなかったな、妃愛。お礼にいいものをくれてやろう」


 そう言って何かを放るレイヴォル。ドシャッと音を立てて妃愛の小柄な体の前に放られたのは、巫女装束を身に纏った一人の赤髪女性だった。そう、レプリカ・鈴華だ。


「もう、そいつに用はないからな。好きに使ってくれていいぞ? そうだ、どうせなら偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)の一人に迎えればいいんじゃないか? こいつは出産して不死身の力と七力を失った。お前の持つ七力の一つ――紫黒の闇龍鬼。これを授与すればいい」


 偉そうに助言するレイヴォル。だが、今の妃愛にはその嫌味にも似た台詞は一言も届いてはいなかった。目の前に横たわるレプリカ・鈴華に目を奪われていたのだ。初めて出会った同性の女の子。そして、一緒に手を繋いで暗いこの城の中を案内してくれたあの心優しい鈴華が今目の前にいる。しかし、一つ妃愛にも疑問に思うことがあった。――肉体だ。妃愛が心を失う際、最後に見た鈴華はもう少し幼かった。だが、目の前にいる鈴華は少し成長している節があった。

 でも、それでもいいと妃愛は思った。鈴華であることに変わりはない。妃愛は鈴華にもう一度会いたい、その一心でこれまで心を失っても僅かに残った心の欠片で精神を保ち続けて心を失った様に演技を続けていた。今会話に使っているこの口調も、全ては心を失ったがために話し方も変える必要があると思っての事だった。


「本当に鈴華をもらっていいのか?」


「ああ。そんなに欲しいなら、そんなゴミ……くれてやる」


 明らかに蔑んだ目で見下ろすレイヴォルに歯がゆい気持ちになった妃愛は、奥歯を噛み締めた。だが、激昂はしない。そんなことをすれば、すぐに相手に自分が心を失っていないことがバレてしまう。


「しかし、心を失っても記憶は失わないか。鈴華にまだ心入れしているとはな。……お前の本当の母親が聞いたら嫉妬するだろうな。なぁ、ミーミル?」


 そう言ってたくさん並んだカプセルの内の一個を見上げるレイヴォル。それにつられて妃愛もその方に視線を向けてみると、そこには自分と酷似した幼い少女の姿があった。生まれたままの姿で口には何か器具をつけられ、頭にもいくつかコードが取り付けられていた。


「くく……、こいつが本当の貴様の母親だ、妃愛」


「こ、この人が?」


 一瞬思わず口調が戻ってしまった。すぐに冷静さを取り戻し口調を切り替えるが、相手にバレていないか少しヒヤヒヤする。


「ああ。どうだ? 似ているだろう? まぁ無理もない。こいつの卵子と神族のある男の精子、そして鈴華の肉体を媒介にして出来た人口受精によって産まれたのが貴様なのだからな。鈴華に親しみを感じるのも仕方ないことではある。くく……嬉しいだろう? 会いたかった母親に会えるのだからな。起こしてやろうか?」


 悪魔にも似た笑みを浮かべるレイヴォルに、心を持っていたあの時の妃愛ならばうんうん何度も頷いで懇願していただろう。だが、今の妃愛は心を失った抜け殻――ということになっている。そんな状態にある自分が懇願などすれば、心の欠片が残っていることが相手にバレてしまうことは必然。どうしても防がなければならなかった。


「くっ、別に必要ない。寝ているのにその眠りを妨げるのは不本意だ。それに、妃愛は忙しい。それともう一つ、何やら不穏な空気を感じる。その男は何者だ?」


 そう言って視線を向ける妃愛に、レイヴォルはああ、と言って含み笑いをする。


「こいつはオドゥルヴィア。我々の計画の最後の駒だ」


 駒……。その言葉に嫌な予感がする妃愛。さらにレイヴォルは続けた。


「この男は魔豪鬼神……つまり、鬼神族と魔神族の血を半分ずつ受け継ぎ、鈴華の持つ七力と不死身の力を持った、謂わば永遠に死ぬことのない無敵の存在なのだ。こいつの存在は我々の計画が絶対に成功する意味を持つ。……我々にとっての(かなめ)――それがオドゥルヴィアなのだよ!」


 手を大きく広げ、カッと目を見開くレイヴォル。


「鬼神族と魔神族の血を持つ? どういうことだ、それは?」


「くく……子供にはまだ早い――とでも言って話を逸らそうと思ったが、特別に教えてやろう。オドゥルヴィアは表沙汰にはオルガルトのジジイの息子――ということになってはいるが、厳密的には俺の血も混じっているのだ」


『――ッ!?』


 その一言にこの場にいるクロノスのチームGAUN及び、偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)が驚愕を露わにした。


「それは、ど、どどどどういうことだい、レイ!?」


「儂もそんな話は聞いておらん!」


「まさか、いつの間にあの娘に手を出したのだ?」


「び、びっくりッスよ、フィグニルト博士!」


 アルフレッド、ゴルキス、アダム、ノイズの四人が口々に大声でレイヴォルにその時の説明を要求する。

 一部始終を話し終えたレイヴォルは、笑みを浮かべたまま近くの制御機のところにある椅子にドカッと座った。


「ま、そういうことだ」


「しかし、何のために?」


「さっきも言っただろう? 魔神の血と鬼神の血を引き継がせるためだ」


 おちゃらけた様子だったレイヴォルが急に真摯な表情を浮かべて言う。だが、GAUNのメンバーはもちろん、偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)の人間も誰一人としてその意味を理解している者はいなかった。唯一、妃愛だけが理解している。


「なるほど……つまり、そういうことだな」


「どういうことだ?」


 偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)のメンバーの一人となったファルスター王が腕組をして尋ねる。


「この男――レイヴォルはどうやら魔神の血を持っていたようだ」


 その言葉にレイヴォルが黄土色の瞳を一層光り輝かせて言った。


「ああ、妃愛の言うとおりだ。俺は、いや――俺様は魔神族の最強の男でな? その昔、ひと暴れしまくり過ぎて神族のやつらに封印されちまったのさ。んで、怒りが募りに募りまくっていたある時、この男――レイヴォルに出会ったのさ! この男はいい器だぜ? 大抵の野郎は俺様の魔神のオーラに器が耐えられず、精神が崩壊してダメになっちまうからな」


 その話を聞いてアルフレッドが声をあげる。


「そうか! だからレイはすっかり人が変わって別人の様になってしまったんだね?」


「くく……そういうことだ。WORLDのリンスにも似たような事を言われたな。それで、俺様はこいつと契約を交わし、こいつの肉体を手に入れたってわけさ!」


「待て。ということは主、もう既にその体にフィグニルトの精神はないというのか?」


「まぁ、そうだな。ないといえば嘘になる。今頃は心のずっと奥底で眠っているだろうさ。だが、俺様の計画を成功させるまではこの肉体をあいつに返すわけにはいかない。俺様は神族に恨みを持ってるんだ。あいつらにこの募りに募った怒りを全てぶつけなければ俺様の気が収まらんッ! しかも、偶然にもここにあいつ――デュオルグスもいるようだしな」


 自身の手を見ながらレイヴォルはそう言った。その聞き覚えのない名前にアダムが訊く。


「デュオルグス……とは一体誰なのだろうか?」


「……くく、知らないか? 鬼神族最強の男――『デュオルグス=オビヒリン』。それがやつの名前だ。あいつはあいつで俺様と同じように神族のやつらに封印された口なんだが、どうやらあいつも俺様と同じ様に最適の器を見つけたようでな?」


「まさか……それが――」


「そうだ。オメガ=アーマー=オルガルトの肉体に入っている……。現にやつの様子は以前とは違っているだろう?」


 そう言われてみれば確かに数年前まであんなにも温和な人物だったオルガルト帝が今ではあんなに凶暴な性格になってしまっているのには誰もが不思議がっていた。しかし、年月が経つ内にその疑問も徐々に消え失せていたのだ。

というわけで、重要な事実が判明する今回の話。クロノスのレイヴォルと、鎧一族のオルガルト帝の中身はそれぞれ魔神族と鬼神族が入り込んでいたんです。そして、とうとう最強の魔豪鬼神が誕生します。

レイヴォル――もとい、バルトゥアスの計画の全貌も明らかになるかと。

三部では、神族の昔話?っぽいのをやります。

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